上 下
62 / 62
第2章

第62話 異変⑥【第2章完】

しおりを挟む
 全宇宙の危機だったエルダー・スライムの来襲から、人知れず世界を救う事が出来た。
 しかし、失うものも大きかった。私と結ばれるはずの麻生さんが、山下と結婚してしまう未来に変わってしまったのだ。恋人と親友、どちらも同時に失くしてしまったショックから立ち直る事が出来ずに、私は華友商事を辞めてしまった。2人が幸せそうにしている姿を、見ていたくなかったからだ。
 私は麻生さんを失ったショックから立ち直る事が出来ず、エルダー・スライムの恵留田来夢に、麻生さんの姿で付き合ってもらっている。
「青山くん!?…何で来夢に私の姿をさせているの?止めてよ!」
 偶然、来夢といる時に山下と一緒にいる麻生さんと出会でくわした。2人を見て、心がいたんだ。
「瑞稀はね、2人に裏切られた傷がまだえてないのよ。だから立ち直るまで、私が貴女の代わりに側にいてあげるの。これ以上、瑞稀を傷付けるなら、喰い殺すわよ」
 麻生さんは私を見て涙ぐんでいた。2人と別れてから数日後、麻生さんが手首を切って自殺したと聞いた。麻生さんも、私を裏切る事になってしまい、良心の呵責かしゃくに苦しんでいたのだろう。死ぬくらいなら、最初から裏切らなければ良いのにと、後から結果だけ見ると思う。しかしその時は情に流され、後から後悔したと本人も言っていた。
 山下は、麻生さんの遺骨を持って、私のアパートに訪ねて来た。
「ダメだ。生き返らせる事は出来ない」
「何でですか?先輩だって佳澄の事、愛してたじゃないですか!お願いします…どうか、生き返らせて下さい」
 山下は泣きながら、土下座してお願いして来た。
「生き返らせても、麻生さんは苦しんだままだ。このまま安らかに眠らせてあげた方が良い」
 山下は、麻生さんの遺骨を握りしめて号泣していた。
『女性変化』
「巧、貴方は私も裏切って、一時の快楽の為に麻生さんを抱いたのよ。自分のした責任の重みを知りなさい」
 アナトになった私は、静かに言った。でもこの言葉を言うべきでは無かったと、後悔する事になった。山下が麻生さんのお墓の前で、大量に薬を飲んで自殺しているのが発見されたからだ。麻生さんだけでなく、山下も苦しんでいたのかも知れない。
 私は、麻生さんと山下の遺骨を彼等の両親に頼み込んで一欠片ひとかけらを頂いた。いつの日か私の傷が癒えて、彼等を赦せる日が来たら、生き返らせてあげようと思ったからだ。

 私と来夢の相性はバツグンだ。時々私は女性になると、男性になった来夢に抱かれたりもした。いつの間にか、麻生さんの件から立ち直っていた。来夢の事が愛しくてたまらない。失恋の傷を癒すのは、新たな恋しか無い。私は来夢に夢中で、来夢にもそれが伝わり、2人は仲睦まじく過ごした。
 来夢は女性にも男性にもなれる。単細胞生物である来夢には生殖機能が無い為、性器は無い。私にHをさせてくれる為に、擬似的に形取っているに過ぎない。だがそれでも、他の人に来夢を抱かれたくは無い。来夢は泡姫だった事もあり、売春していた事もある。最初は人を喰うくらいなら、精液を喰らい、愛される事によって心も満たしてもらおうと思った。私1人では足りないと言ったが、麻生さんに裏切られた私に同情して、私に寄り添ってくれる様になった。来夢が居なければ、私は立ち直る事なんて出来なかっただろう。
 私が来夢に麻生さんの姿にならなくても良いと言ったので、来夢は今までインプットした美女達のデータから、理想の顔とスタイルを造り出した。私にその姿をお披露目してくれると、思わず見惚れて時間が経つのも忘れていた。
「ふふふ、そんなに綺麗?」
「綺麗だよ」
 私は夢中になって来夢を抱いた。もう四六時中、来夢の事しか考えられなくなった。暇さえあれば、来夢を抱き続けてイチャイチャしていた。来夢のあまりの美しさに、外に出して誰かに見られるのを恐れた。美女の中から創り出された理想の顔は、間違いなく世界一の美女だったからだ。見た者を全て虜にするに違いない。
 元々スライムである彼女には、貞操概念が無い。何故なら生殖機能が無いからだ。擬似的に創り出した性器を、相手が勝手に弄んで喜んでいるだけだ。そうやって体内に射精されると、食事として消化する。
 他の男性と親しくしていると、私が嫉妬して嫌な気持ちになると言う事を理解していて、私以外の男性には冷たい態度を取る様になった。それを私は、来夢の愛情だと理解している。私には来夢さえ居てくれれば良い。
 いつの間にかに、麻生さんや山下へのわだかまりは完全に消えていた。
死者蘇生リアニメーション
 私は2人を赦し、生き返らせた。
「私は来夢と居て幸せなの。もう2人の事は何とも思っていないから、お幸せに」
 そう言って2人の前から立ち去った。それから数十年、来夢と過ごす生活は楽しかった。しかし、重大な事をすっかり頭から抜け忘れていた。
 私が不老不死なのは、女性の姿であるアナトだ。老いて死に近づくと、それをようやく思い出した。それほど来夢と過ごす時間が楽しかったのだ。時が経つのも忘れて、来夢を抱いていた。いつまでも若い来夢を見て、自分もそうだと思い込んでいた。しかしそうでは無かったのだ。
「来夢、すまない。男の私の寿命が終わってしまう。そうしたら、私は女性に転生する事になる。それでも私を愛してくれるか?」
「勿論よ。私は貴方にたくさん可愛がってもらった。お陰で満たされたわ。今度は、私が男性になって、貴方を可愛がってあげるね?」
 来夢の優しい微笑みを見ながら、握りしめられた手から力が抜けていくのが分かった。
「有難う、来夢…君のお陰で、私の人生は明るく照らされた…」
 私は目を閉じた。

 再び目を開けると、私はお墓の前に立っていた。お墓には『青山瑞稀之墓 享年72歳』と書かれていて、花が生けられており、御供物もされていた。まだ線香からは煙が昇っているので、先程まで誰か供養に来ていた事が分かる。遠目の方で、若い男が私に気付いて、笑顔で手を振っている。だけど私には見覚えが無かった。それでも手を振り返すと強い風が吹いて、桜の花びらが目にかかった。それを払い除けながら、桜の木を眩しそうに見上げた。

 私の物語は、ここから始まる。
だってこれは「その日、女の子になった私」の物語だからだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

才能だって、恋だって、自分が一番わからない

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:13

騙されて快楽地獄

BL / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:89

吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

SF / 連載中 24h.ポイント:1,179pt お気に入り:106

【R18】××に薬を塗ってもらうだけのはずだったのに♡

BL / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:39

修羅と丹若 (アクションホラー)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:3

ごっこ遊び

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:207

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

BL / 完結 24h.ポイント:10,358pt お気に入り:1,467

とら×とら

BL / 連載中 24h.ポイント:773pt お気に入り:190

処理中です...