皇后さまは死者の声が聞こえるそうです

もぐすけ

文字の大きさ
15 / 25
第一章 帝国編

第十四話 偵察

しおりを挟む
 レオンポール城までは、虫の死骸を渡ってあっという間に到達したのだが、辺境伯は不在だった。

 使用人の話から、どうやら王都に出かけていることがわかった。

 レギンの皇子を養子に差し出すことになっているが、受け入れる予定と思われる部屋を見つけた。

 一番日当たりのよい部屋だ。楽しみにしていることがよく分かる部屋だった。

 別室で王都学園のパンフレットを見つけた。学園寮に入れる予定のようだ。使用人の話とも合致する。

(変なことはしないようね。純粋に後継ぎが欲しかったみたいね。血のつながりがなくても、能力は発現するのかしら?)

 自分の部屋に行ってみた。一番日当たりの悪い場所だ。すでに物置きになっていた。

(何なの、この分かりやすい待遇の差は。ここまで嫌われると、逆に気持ちがいいわ)

 私はさらに何人かの使用人たちの話を聞いた後で、目を開いた。

 目を開けると虫の感覚は切れる。次にもう一度目を閉じても、先ほどの場所ではなく、今いる自分の場所から再開することになる。

「どうだった?」

 陛下が私に聞いて来た。

 私は軍の作戦本部にいて、円卓には、陛下、カイエン、マルクスと私が座っていた。

「王都に出掛けていました。養子にする皇子の入学手続きだそうです。王都学園に入れるようです」

「確か全寮制の学校だな?」

「そうです。きちんと育てるようで、きれいな部屋も用意されていました」

「第三皇子を準備させている。剣術と武術に堪能で、いざとなったら刺し違えるように言っているが、その心配はなさそうだな」

 王国への人質のことは考えていたらしく、幼少の頃から、そういったこともあると言われて育てられて来たらしい。

 母のセフィーヌ姉様共に覚悟は出来ているようだ。

「王都学園の入学式は九月です。辺境伯も再び王都に行くそうです。王都まで片道三日はかかりますので、一週間は帰って来ません」

「来月か。進軍にはすぐに気づくだろうから、辺境伯が王都に着く頃に攻めればよいか」

「三日でレオンポール城を陥落させる必要があるということです。軍師どうでしょうか」

 マルクスがカイエンに聞いた。

「皇后さまのお陰で五分以上に戦える。三日あれば問題ない」

「では決行だな。マルクス、他に懸念点はあるか?」

「辺境伯の未知の能力の存在が気になりますが、このチャンスは逃せません。やりましょう」

「では、遷都するぞ。第三皇子の引き渡しも実行に移せ」

 私の情報によって、国全体が動くということにかなりの重責を感じた。

 レギンの騎馬軍団の戦闘力は非常に高いが、これまでは布陣や進路を完全に読まれ、様々な罠に掛かって、力を発揮する前に壊滅させられていた。

 しかし、今回は私がいる。私を大切にしてくれる人たちの役に立ちたい。

 だが、一つだけ確認しておきたいことがあった。

「あの、よろしいでしょうか?」

「いいぞ」

「王国の兵士を殺すのは仕方ないと思いますが、住民には危害は与えないのですよね?」

「ああ、それは安心していいぞ。略奪、陵辱は死罪だ。どうした、カイエン? 浮かぬ顔をしているな」

「一つ気になっていることがございまして」

「どうした?」

「皇后さまの能力は素晴らしいのですが、それで得た情報をどのように現場に伝えようかと思いまして」

「ドラや太鼓、狼煙、手旗、早馬などではないのか?」

「レオンポートとは何度か戦っていますが、そのような伝達手段はありませんでした。広大な戦場の隅々まで、的確に命令が行き渡っていたように思います」

「そうか、重要なポイントだな。辺境伯が何らかの手段で、王都からも指揮できるとなると、話が全く変わってくるぞ」

「逆にそれを防ぐことが出来れば、大きな混乱を生み出せます。皇后さま、何か思い当たることはございますか?」

 マルクスに聞かれたが、特に思い付くことはない。私は首を横に振った。

「まだ何か別の地位が必要なのではないか? 爵位、軍での役職、そうか、文官か。辺境伯は県令だな」

「文官の最高職位は宰相です。私が辞任いたしましょうか?」

「いや宰相よりも上の職位がある。関白だ」

 また、肩書きが増えるのかしら。私、どうなっちゃうの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

自発的に失踪していた夫が、三年振りに戻ってきました。「もう一度やり直したい?」そんな都合のいいことがよく言えますね。

木山楽斗
恋愛
セレント公爵家の夫人であるエファーナは、夫であるフライグが失踪してから、彼の前妻の子供であるバルートと暮らしていた。 色々と大変なことはあったが、それでも二人は仲良く暮らしていた。実の親子ではないが、エファーナとバルートの間には確かな絆があったのだ。 そんな二人の前に、三年前に失踪したフライグが帰って来た。 彼は、失踪したことを反省して、「もう一度やり直したい」と二人に言ってきたのである。 しかし、二人にとってそれは許せないことだった。 身勝手な理由で捨てられた後、二人で手を取り合って頑張って来た二人は、彼を切り捨てるのだった。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

処理中です...