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第一章 帝国編
第十四話 偵察
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レオンポール城までは、虫の死骸を渡ってあっという間に到達したのだが、辺境伯は不在だった。
使用人の話から、どうやら王都に出かけていることがわかった。
レギンの皇子を養子に差し出すことになっているが、受け入れる予定と思われる部屋を見つけた。
一番日当たりのよい部屋だ。楽しみにしていることがよく分かる部屋だった。
別室で王都学園のパンフレットを見つけた。学園寮に入れる予定のようだ。使用人の話とも合致する。
(変なことはしないようね。純粋に後継ぎが欲しかったみたいね。血のつながりがなくても、能力は発現するのかしら?)
自分の部屋に行ってみた。一番日当たりの悪い場所だ。すでに物置きになっていた。
(何なの、この分かりやすい待遇の差は。ここまで嫌われると、逆に気持ちがいいわ)
私はさらに何人かの使用人たちの話を聞いた後で、目を開いた。
目を開けると虫の感覚は切れる。次にもう一度目を閉じても、先ほどの場所ではなく、今いる自分の場所から再開することになる。
「どうだった?」
陛下が私に聞いて来た。
私は軍の作戦本部にいて、円卓には、陛下、カイエン、マルクスと私が座っていた。
「王都に出掛けていました。養子にする皇子の入学手続きだそうです。王都学園に入れるようです」
「確か全寮制の学校だな?」
「そうです。きちんと育てるようで、きれいな部屋も用意されていました」
「第三皇子を準備させている。剣術と武術に堪能で、いざとなったら刺し違えるように言っているが、その心配はなさそうだな」
王国への人質のことは考えていたらしく、幼少の頃から、そういったこともあると言われて育てられて来たらしい。
母のセフィーヌ姉様共に覚悟は出来ているようだ。
「王都学園の入学式は九月です。辺境伯も再び王都に行くそうです。王都まで片道三日はかかりますので、一週間は帰って来ません」
「来月か。進軍にはすぐに気づくだろうから、辺境伯が王都に着く頃に攻めればよいか」
「三日でレオンポール城を陥落させる必要があるということです。軍師どうでしょうか」
マルクスがカイエンに聞いた。
「皇后さまのお陰で五分以上に戦える。三日あれば問題ない」
「では決行だな。マルクス、他に懸念点はあるか?」
「辺境伯の未知の能力の存在が気になりますが、このチャンスは逃せません。やりましょう」
「では、遷都するぞ。第三皇子の引き渡しも実行に移せ」
私の情報によって、国全体が動くということにかなりの重責を感じた。
レギンの騎馬軍団の戦闘力は非常に高いが、これまでは布陣や進路を完全に読まれ、様々な罠に掛かって、力を発揮する前に壊滅させられていた。
しかし、今回は私がいる。私を大切にしてくれる人たちの役に立ちたい。
だが、一つだけ確認しておきたいことがあった。
「あの、よろしいでしょうか?」
「いいぞ」
「王国の兵士を殺すのは仕方ないと思いますが、住民には危害は与えないのですよね?」
「ああ、それは安心していいぞ。略奪、陵辱は死罪だ。どうした、カイエン? 浮かぬ顔をしているな」
「一つ気になっていることがございまして」
「どうした?」
「皇后さまの能力は素晴らしいのですが、それで得た情報をどのように現場に伝えようかと思いまして」
「ドラや太鼓、狼煙、手旗、早馬などではないのか?」
「レオンポートとは何度か戦っていますが、そのような伝達手段はありませんでした。広大な戦場の隅々まで、的確に命令が行き渡っていたように思います」
「そうか、重要なポイントだな。辺境伯が何らかの手段で、王都からも指揮できるとなると、話が全く変わってくるぞ」
「逆にそれを防ぐことが出来れば、大きな混乱を生み出せます。皇后さま、何か思い当たることはございますか?」
マルクスに聞かれたが、特に思い付くことはない。私は首を横に振った。
「まだ何か別の地位が必要なのではないか? 爵位、軍での役職、そうか、文官か。辺境伯は県令だな」
「文官の最高職位は宰相です。私が辞任いたしましょうか?」
「いや宰相よりも上の職位がある。関白だ」
また、肩書きが増えるのかしら。私、どうなっちゃうの?
使用人の話から、どうやら王都に出かけていることがわかった。
レギンの皇子を養子に差し出すことになっているが、受け入れる予定と思われる部屋を見つけた。
一番日当たりのよい部屋だ。楽しみにしていることがよく分かる部屋だった。
別室で王都学園のパンフレットを見つけた。学園寮に入れる予定のようだ。使用人の話とも合致する。
(変なことはしないようね。純粋に後継ぎが欲しかったみたいね。血のつながりがなくても、能力は発現するのかしら?)
自分の部屋に行ってみた。一番日当たりの悪い場所だ。すでに物置きになっていた。
(何なの、この分かりやすい待遇の差は。ここまで嫌われると、逆に気持ちがいいわ)
私はさらに何人かの使用人たちの話を聞いた後で、目を開いた。
目を開けると虫の感覚は切れる。次にもう一度目を閉じても、先ほどの場所ではなく、今いる自分の場所から再開することになる。
「どうだった?」
陛下が私に聞いて来た。
私は軍の作戦本部にいて、円卓には、陛下、カイエン、マルクスと私が座っていた。
「王都に出掛けていました。養子にする皇子の入学手続きだそうです。王都学園に入れるようです」
「確か全寮制の学校だな?」
「そうです。きちんと育てるようで、きれいな部屋も用意されていました」
「第三皇子を準備させている。剣術と武術に堪能で、いざとなったら刺し違えるように言っているが、その心配はなさそうだな」
王国への人質のことは考えていたらしく、幼少の頃から、そういったこともあると言われて育てられて来たらしい。
母のセフィーヌ姉様共に覚悟は出来ているようだ。
「王都学園の入学式は九月です。辺境伯も再び王都に行くそうです。王都まで片道三日はかかりますので、一週間は帰って来ません」
「来月か。進軍にはすぐに気づくだろうから、辺境伯が王都に着く頃に攻めればよいか」
「三日でレオンポール城を陥落させる必要があるということです。軍師どうでしょうか」
マルクスがカイエンに聞いた。
「皇后さまのお陰で五分以上に戦える。三日あれば問題ない」
「では決行だな。マルクス、他に懸念点はあるか?」
「辺境伯の未知の能力の存在が気になりますが、このチャンスは逃せません。やりましょう」
「では、遷都するぞ。第三皇子の引き渡しも実行に移せ」
私の情報によって、国全体が動くということにかなりの重責を感じた。
レギンの騎馬軍団の戦闘力は非常に高いが、これまでは布陣や進路を完全に読まれ、様々な罠に掛かって、力を発揮する前に壊滅させられていた。
しかし、今回は私がいる。私を大切にしてくれる人たちの役に立ちたい。
だが、一つだけ確認しておきたいことがあった。
「あの、よろしいでしょうか?」
「いいぞ」
「王国の兵士を殺すのは仕方ないと思いますが、住民には危害は与えないのですよね?」
「ああ、それは安心していいぞ。略奪、陵辱は死罪だ。どうした、カイエン? 浮かぬ顔をしているな」
「一つ気になっていることがございまして」
「どうした?」
「皇后さまの能力は素晴らしいのですが、それで得た情報をどのように現場に伝えようかと思いまして」
「ドラや太鼓、狼煙、手旗、早馬などではないのか?」
「レオンポートとは何度か戦っていますが、そのような伝達手段はありませんでした。広大な戦場の隅々まで、的確に命令が行き渡っていたように思います」
「そうか、重要なポイントだな。辺境伯が何らかの手段で、王都からも指揮できるとなると、話が全く変わってくるぞ」
「逆にそれを防ぐことが出来れば、大きな混乱を生み出せます。皇后さま、何か思い当たることはございますか?」
マルクスに聞かれたが、特に思い付くことはない。私は首を横に振った。
「まだ何か別の地位が必要なのではないか? 爵位、軍での役職、そうか、文官か。辺境伯は県令だな」
「文官の最高職位は宰相です。私が辞任いたしましょうか?」
「いや宰相よりも上の職位がある。関白だ」
また、肩書きが増えるのかしら。私、どうなっちゃうの?
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