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第一章 異世界召喚

異世界召喚

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 俺とタツノさんは顔を見合わせた。

「何の音だろう」

 タツノさんも耳をすましている。いやあ、それにしても、この子は真っ白だな。美人だなあ。

「太鼓の音に似ているわね」

「やっぱりあの竹藪に入らないとダメなのかな」

「私は嫌よ。もう少し待ってみない? 明るくなるかもよ」

「そうだな、そうしようか」

 だが、ただ待つだけってのは時間の経つのが異常に遅く感じられる。

 太鼓の音はまだ続いている。あれ? 何だかとても眠くなってきた。

「タツノさん、あ、眠っちゃってる」

 だ、だめだ。眠い……。

 二人が寝てしまって、二時間ほど経った後、本堂に近づいてくる一団があった。

「おや、戸が開いているぞ」

「誰か居るのか」

「誰もおらんが」

「お主、閉め忘れたんじゃないのか?」

「そんなことあるもんか」

「まあよい、さあ、始めるぞ」

 一団は異世界から勇者と聖女を召喚するための準備を始めた。数名がかりで床に召喚陣を慎重に描いている。一人の男が本を見ながら、召喚陣の微調整を指示している。

「そろそろ睡眠効果が切れるころだぞ」

 太鼓は竹藪の魔物を一定時間眠らせるために叩いたものだった。

「勇者と聖女を召喚できれば、魔物なんぞは恐るに足らずだ」

「いずれにしろ、急げよ」

 召喚陣から漏れ出す光とお婆さんの祝詞の声で、俺は目を覚ました。

 七人の黒いフードの人影が光を中心に円形になって座っており、少し離れたところに赤い衣装のお婆さんが、呪文のようなものを唱えている。

 どうなってるんだ? 俺たちのことは全く無視か?

「んんっ」

 タツノさんが何だか色っぽい声を出して、起き出して来たが、彼らには聞こえないようだ。

「あれ? どうしたの? この人たち」

 うわっ、いきなりそんな大きな声だすなよ。

 俺はしーっと口の前に人差し指を出したが、俺を見て、タツノさんはキョトンとしている。

(おい、いちいち美人だなっ)

 だが、そんな必要はなかったようだ。儀式の集団は、俺たちに全く気づいていない。

「どうやら、俺たちのことは見えも聞こえもしないようだな。どれ、ちょっと試してみるか」

 俺は一番近くの男の肩をそっとトントンと叩いてみた。ちゃんと手応えがあった。

 叩かれた男はピクリとしたが、大事な儀式中なのであろう。どういう思考回路を経たのか知らないが、気のせいにすることにしたようだ。

「ねえ、私たちは触れられるけど、向こうは触れられないのかしら」

「多分そんな感じだな」

「これって!?」

「何だか分からないが、俺たち、やはり死んでるんじゃないか。まるで幽霊のようだぞ」

「でも、幽霊って眠るの? 息もしてるけど」

 そうだ。確かにさっきの太鼓の音で眠ってしまった。精神的な干渉には影響を受けるのかもしれない。

 そのときだった。お婆さんの詠唱がクライマックスを迎えたらしく、同じフレーズを何度も繰り返している。それに反応がするかのように、光はますます輝きを増し、光る範囲も大きくなって行く。

 バシンっという音がして、光が消え、二人の男女が立っていた。

 タツノさんが男の方を見て、声を上げた。

「レン!」
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