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第五章 古代寺

底なし沼

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「気をつけよう。底なし沼だったら、俺たちでも埋まったまま、死んでしまうかも」

 俺たちも呼吸はしているので、底なし沼に入ったら窒息死するかもしれない。この呼吸が本当に酸素を必要とした生命維持のための行為なのか、ただの擬態なのか、よく分からないのだ。

 この一帯は沼が点在しているようだ。そして、あれだけ気をつけようと言っているにもかかわらず、ミサトが沼にはまった。ミサトはこういうドジっ子なところがある。

 俺はドジな女を見ると、イラッとするので、ドジっ子が嫌いだと思っていたのだが、ミサトのこういうところが可愛くて仕方がない。

「そうか、浮遊に切り替えれば、沈まないのか」

「ジタバタしないで、落ち着いてゆっくり動けば問題なかったわ」

 ミサトは沼から抜け出した。

「服がびしょ濡れだな」

「寒くも暑くもないから、このまま自然乾燥させればいいわよ」

「上着だけでも脱いで絞った方がいいんじゃないか」

「い、いいわよ、このままで」

 そ、そうか! 上着を脱いだら、襦袢も濡れていてスケスケなのかも!

「ま、まあ、そう言わず、ほら、絞ってあげるから、脱いでごらん」

「あのね、そんなスケベ面の男の前で脱ぐと思う?」

「いや、そんな顔はしていないぞ。水草や苔みたいなものもついているし、脱いだ方がいいのでは?」

「脱いでも、洗えるきれいな水がないでしょ。脱がないわよ」

 ちっ、頑固な奴め。かくなる上は!

「ちょっと、こんなところで、何するのよ!」

 無理矢理脱がそうとミサトに抱きつこうとしたら、俺も沼に落ちた。沼にどっぷりと浸かっている俺をみて、ミサトが大笑いしている。

「あなた、バカだよね?」

「俺も脱ぐから、ミサトも脱ぎなよ」

「まだ諦めないの? もう何度も私の裸見てるでしょ?」

「ミサト、お前、ひょっとして気づいてないな?」

「何をよ」

「お前の体は、それはそれは大変美しいものなんだ。うっとりしてしまう。何でここまできれいに造られているのか不思議に思うほどだ。こんなに美しいものは他にないんだよ」

「沼にどっぷり沈んだ男が何をほざいているのよ」

「あ、こら、頭を押すんじゃない……」

 ミサトが笑いながら、俺の頭を沼に沈めようとする。マジで死ぬぞ。

「本当にゆうきはスケベで困るわ」

 俺はようやく沼を脱出し、上着を脱いで水をしぼったが、結局ミサトは上着を脱がなかった。仕方がない、スケスケは我慢するか。

「上空に昇って、辺りを見回してくる」

 大きな森だ。まだ東の果てが見えない。どれぐらい来たのかを見るために、来た方向を振り返ったところ、おかしなことになっていた。

「ミサト、ちょっと昇って来てくれ。三百六十度森の果てが見えない。どうなってんだこれは?」

 ミサトも昇って来て、周囲をぐるりと見渡した。

「何なの? これ」

「一度、来た道を戻ろう。念のためにマークをつけて来たから、迷うことはないはずだ」

 俺たちは地上に降りて、元来た道を辿って帰った。往きと同じ二時間ちょっとで、無事に古代寺まで帰ってくることができた。正直かなりホッとした。

 もう一度、森に少しだけ入って上空に昇ってみた。

「なるほど、どういう仕組みなのか分からないが、上空から見ると延々と続く森しか見えないようになっているらしい」

 森に入ってすぐの場所なのに、古代寺が見えないのだ。ひょっとすると東の果てはそんなに遠くないのかもしれない。

「服を着替えて、シャワー浴びて来るわ。外で待っててよ」

「了解」

 本当はシャワーしているのを眺めていたいのだが、セクハラが続くなら出て行きます、と言われてはなあ。ミサトとはもう何回もしているのに、未だにこんな感じでガードが固い。

 ベッドが同じなので、寝ているときにはいたずらし放題だが、最後までは許してくれない。何かアピールできる手柄がないとダメなのだ。

 世の男性諸君はどうなのだろうか。こっちの世界の男はDV当たり前なので、好きなときにやっているに違いない。それはそれで女性が可哀想だし、味気ないかも。

 などと考えていたら、入って来ていいと言われた。辺りを見回してから、宝物殿の扉を開ける。今度は俺がシャワーを浴びる番だが、ミサトはベッドに寝転んで、携帯の写真を見ている。

 シャワールームがガラス張りで丸見え設計なので、ミサトが使うときは俺は建物の外に締め出されるわけだが、俺が使うときはミサトは出て行かない。まあ、見られた方が面白いので、いてくれた方がいいのだが、何だか不公平な気がする。

 シャワールームからミサトを見ていたら、目があった。俺はすかず、股をゴシゴシ洗ってみせた。ミサトが嫌そうな顔をした。俺はニッコリと笑って、今度はお尻を向けて尻の穴の辺りを洗って見せた。

 シャワールームから出ると、ミサトが冷たい笑みを浮かべていた。

「ねえ、私は何のショーを見せられたわけ?」

「普通に大切な場所を洗っていただけだぞ」

「ふん、悪いやつね、ゆうきは。私を大事にしないと、私から大事にされないぞ」

「大事にするから、もうそろそろ片栗粉使おうよ」

「もう、ゆうきはそればっかりね。仕方ないわね。じゃあ、森の東に出たら一回いいよ」

「マジかっ。今度はしっかり準備していこう。ちゃんと着替えも持って行こう!」

 次回は東に抜けて見せると俺は強く心に誓うのであった。

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