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第六章 帝国
皇帝
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俺とミサトだけであれば、時速百二十キロでの移動であるため、帝都には二時間ほどで到着した。
途中いくつか町や集落を通過したが、キララの王国よりはこちらの帝国の方が、質素な感じがした。だが、帝都は大都市で、活気にあふれていた。
俺たちは走るのをやめ、城門から皇居と思われる立派な建物まで真っ直ぐに続くメインストリートを歩いていた。
「すごい人だな」
メインストリートは人でごった返していた。
「本当ね。東京並み?」
「確かに、人の多さだけは東京並みだな。あと、治安が良さそうだ。女性や子供も多い」
「今日は日曜日なのかな」
「家族連れが多いから、そうかもな。この国は教会みたいなところもあるな」
「本当ね。ねえ、道の真ん中を歩かない?」
道の真ん中を歩くと、人が多くて、人を透過するのが嫌なんだよな。おっさんとかを透過するのが何となく嫌だ。
俺が躊躇していると、ミサトが俺の手を引っ張って道の真ん中まで連れて行き、手を繋いだまま、人の流れに乗って歩いた。
ミサトは少し嬉しそうだ。
「こうやって普通に歩けるようになりたいね」
「うん」
「買い物したり、食べ歩きしたり、普通のことがしたいよう」
ミサトが寂しそうに笑った。
「そうだな、ミサト」
俺たちは黙って手を繋いだまま皇居まで歩いた。
***
皇居は皇都のほぼ中央に位置していた。イギリスのバッキンガム宮殿のような建物だ。衛兵もいるが、バッキンガム宮殿の衛兵のように派手ではない。
俺たちは構わず中に入った。何で王とか皇帝ってのは、こういうバカでかい建物で暮らすんだろうか。どこにいるのか探すのが面倒で困る。
しかし、今回は割と入り口に近い部屋にいて、すぐに見つけることができた。三十代前半ってところか。さっぱりした短いブラウンの髪と明るい青い目で、精悍な顔つきをしている。
「身なりや態度からして、こいつが皇帝だな」
何だか威圧される。キララの国の王はただのおっさんだったし、魔王はとっぽい中学生だったが、こいつは本物の皇族って感じがする。
「私が交渉するのよね。大物感漂っててちょっとビビるわ」
「所詮、人間だよ。リラックスして行こうぜ」
『ねえ、皇帝さん』
「む、面妖な。姿は見えず、声がする」
『姿は少し見せられるわよ。オーラ』
ミサトの姿がうっすらと浮かび上がった。
「美しいお嬢さん、何用かな」
話している言葉は俺には分からないが、皇帝があまり驚いていないことに驚いた。
『私は西の森の向こうの国から来た神霊よ』
「これは失礼した。私はこの国の皇帝カイザーだ。神霊殿」
『お願いがあるの。まずは、この国の神器を見せて欲しい。次に教会のトップに会わせてほしい。最後に私と同じような霊について、知っていることを教えてほしい、の三つよ」
「容易いことだが、私のメリットは?」
『命を取らないであげるわ』
「ふむ。神霊ではなく強盗か。命は惜しいが、脅されて協力するのは合腹だ。代わりに頼みを聞いてはくれないだろうか」
『あら、脅しに屈しないってことね。別の皇帝に差し替えてもいいのだけれど、頼みとやらを聞くだけ聞いてあげるわ。どんなこと?』
「西の森の向こうにあるという国まで連れて行ってほしい」
『面白いこと言うわね。あなただけでいいの?』
「皇后と侍女、それに護衛数名だ」
『少し考えさせて』
ミサトがオーラを消して、拡声器のスイッチを切って俺の方を見た。
「この皇帝は今までの人間とは少し違うわね」
「何て言っている?」
ミサトは会話の内容を早口で説明してくれた。俺とミサトは皇帝を見ながら、急いで相談を始めた。皇帝は非常に落ち着いて、目を瞑っている。
「何があるか分からないので、ゆうきの存在は隠しておくわね」
「それがいいかもな。えらい落ち着いたやつだな」
「西に連れてくってのはいいと思う?」
「いいんじゃないか。妙なこと考えていても、すぐに殺せるだろ」
「うん、じゃあ、話して来る」
『皇帝、いいわよ。連れて行ってあげる。ただ、森は魔物だらけよ。あなたたち勝てるの?』
皇帝は目を開けた。
「問題ない。よし、交渉成立だ。神器は神官長に案内させる。教皇にも会わせるよう手配する。神霊については、神官長に聞くがよい。客室に案内させるので、お連れの方と一緒にそこで待っていてほしい」
『お連れ?』
「ゆうき殿のことだ」
『あなた私たちの声が聞こえるの!?』
「ああ、目を瞑ると聞こえる。長い付き合いになりそうだから、聞こえるのを黙っているのはフェアじゃないからな」
『そう。姿は見えるの?』
「姿までは見えない。神官長は見えるかもしれないぞ」
『なるほど。じゃあ、聞こえることを教えてくれたお礼に、ゆうきの姿を見せるわね。ただ、ゆうきはあなた方の言葉が理解出来ないの。会話は出来ないからね』
「それは変だ。神霊は言葉を耳ではなく、心で聞くはずだ。言葉ではなく思念で会話する。現に俺はゆうき殿の思念を受けて、理解しているのだ。いずれ何かのきっかけで理解できるようになるはずだ」
『ゆうき、言葉を耳ではなく、心で聞けって。思念で会話するようにしてみてくれる』
「何? どうなってる?」
『皇帝は私たちの声が聞こえるのよ。もう拡声器は必要ないわ。ゆうきの姿も見せるわよ。オーラ』
「えっと、初めまして、皇帝さん」
「ゆうき殿、カイザーだ。よろしく頼む」
おっ、言ってることが分かった。その後、俺たちは客室に案内された。
途中いくつか町や集落を通過したが、キララの王国よりはこちらの帝国の方が、質素な感じがした。だが、帝都は大都市で、活気にあふれていた。
俺たちは走るのをやめ、城門から皇居と思われる立派な建物まで真っ直ぐに続くメインストリートを歩いていた。
「すごい人だな」
メインストリートは人でごった返していた。
「本当ね。東京並み?」
「確かに、人の多さだけは東京並みだな。あと、治安が良さそうだ。女性や子供も多い」
「今日は日曜日なのかな」
「家族連れが多いから、そうかもな。この国は教会みたいなところもあるな」
「本当ね。ねえ、道の真ん中を歩かない?」
道の真ん中を歩くと、人が多くて、人を透過するのが嫌なんだよな。おっさんとかを透過するのが何となく嫌だ。
俺が躊躇していると、ミサトが俺の手を引っ張って道の真ん中まで連れて行き、手を繋いだまま、人の流れに乗って歩いた。
ミサトは少し嬉しそうだ。
「こうやって普通に歩けるようになりたいね」
「うん」
「買い物したり、食べ歩きしたり、普通のことがしたいよう」
ミサトが寂しそうに笑った。
「そうだな、ミサト」
俺たちは黙って手を繋いだまま皇居まで歩いた。
***
皇居は皇都のほぼ中央に位置していた。イギリスのバッキンガム宮殿のような建物だ。衛兵もいるが、バッキンガム宮殿の衛兵のように派手ではない。
俺たちは構わず中に入った。何で王とか皇帝ってのは、こういうバカでかい建物で暮らすんだろうか。どこにいるのか探すのが面倒で困る。
しかし、今回は割と入り口に近い部屋にいて、すぐに見つけることができた。三十代前半ってところか。さっぱりした短いブラウンの髪と明るい青い目で、精悍な顔つきをしている。
「身なりや態度からして、こいつが皇帝だな」
何だか威圧される。キララの国の王はただのおっさんだったし、魔王はとっぽい中学生だったが、こいつは本物の皇族って感じがする。
「私が交渉するのよね。大物感漂っててちょっとビビるわ」
「所詮、人間だよ。リラックスして行こうぜ」
『ねえ、皇帝さん』
「む、面妖な。姿は見えず、声がする」
『姿は少し見せられるわよ。オーラ』
ミサトの姿がうっすらと浮かび上がった。
「美しいお嬢さん、何用かな」
話している言葉は俺には分からないが、皇帝があまり驚いていないことに驚いた。
『私は西の森の向こうの国から来た神霊よ』
「これは失礼した。私はこの国の皇帝カイザーだ。神霊殿」
『お願いがあるの。まずは、この国の神器を見せて欲しい。次に教会のトップに会わせてほしい。最後に私と同じような霊について、知っていることを教えてほしい、の三つよ」
「容易いことだが、私のメリットは?」
『命を取らないであげるわ』
「ふむ。神霊ではなく強盗か。命は惜しいが、脅されて協力するのは合腹だ。代わりに頼みを聞いてはくれないだろうか」
『あら、脅しに屈しないってことね。別の皇帝に差し替えてもいいのだけれど、頼みとやらを聞くだけ聞いてあげるわ。どんなこと?』
「西の森の向こうにあるという国まで連れて行ってほしい」
『面白いこと言うわね。あなただけでいいの?』
「皇后と侍女、それに護衛数名だ」
『少し考えさせて』
ミサトがオーラを消して、拡声器のスイッチを切って俺の方を見た。
「この皇帝は今までの人間とは少し違うわね」
「何て言っている?」
ミサトは会話の内容を早口で説明してくれた。俺とミサトは皇帝を見ながら、急いで相談を始めた。皇帝は非常に落ち着いて、目を瞑っている。
「何があるか分からないので、ゆうきの存在は隠しておくわね」
「それがいいかもな。えらい落ち着いたやつだな」
「西に連れてくってのはいいと思う?」
「いいんじゃないか。妙なこと考えていても、すぐに殺せるだろ」
「うん、じゃあ、話して来る」
『皇帝、いいわよ。連れて行ってあげる。ただ、森は魔物だらけよ。あなたたち勝てるの?』
皇帝は目を開けた。
「問題ない。よし、交渉成立だ。神器は神官長に案内させる。教皇にも会わせるよう手配する。神霊については、神官長に聞くがよい。客室に案内させるので、お連れの方と一緒にそこで待っていてほしい」
『お連れ?』
「ゆうき殿のことだ」
『あなた私たちの声が聞こえるの!?』
「ああ、目を瞑ると聞こえる。長い付き合いになりそうだから、聞こえるのを黙っているのはフェアじゃないからな」
『そう。姿は見えるの?』
「姿までは見えない。神官長は見えるかもしれないぞ」
『なるほど。じゃあ、聞こえることを教えてくれたお礼に、ゆうきの姿を見せるわね。ただ、ゆうきはあなた方の言葉が理解出来ないの。会話は出来ないからね』
「それは変だ。神霊は言葉を耳ではなく、心で聞くはずだ。言葉ではなく思念で会話する。現に俺はゆうき殿の思念を受けて、理解しているのだ。いずれ何かのきっかけで理解できるようになるはずだ」
『ゆうき、言葉を耳ではなく、心で聞けって。思念で会話するようにしてみてくれる』
「何? どうなってる?」
『皇帝は私たちの声が聞こえるのよ。もう拡声器は必要ないわ。ゆうきの姿も見せるわよ。オーラ』
「えっと、初めまして、皇帝さん」
「ゆうき殿、カイザーだ。よろしく頼む」
おっ、言ってることが分かった。その後、俺たちは客室に案内された。
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