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男性免疫不全症候群
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このヒューイという男、理知的でクールな美形と思っていたが、とんだ思い違いのようだ。
私の考えた地方統治策を説明して欲しいというから、同じ馬車に乗るのを了承したが、策はそっちのけで、私の容姿を褒め称えてばかりいる。
私は自分の容姿には無関心だったが、ここまで褒められると、褒められ慣れていないせいもあり、どう対処してよいか分からないし、非常に恥ずかしい。だが、心がキュンとする恥ずかしさだ。
ダメだ。この感情を私は知っている。恋愛感情だ。これに冒されると、大事な時間を大量に無駄にしてしまう。私には許されない感情だ。
私は心を凍らせ、リリアの話に集中した。今、リリアに国の基幹産業である漁業について話を聞いている。
それにしても、この男、いつまでも私をずっと見つめている。反応してはダメだ。反応してはダメよ、私!
「殿下! いつまで私を見ているんですかっ!? 私が集中出来ないじゃないですかっ!?」
反応してしまった……。
「そうは言っても、リリアの話は俺の知っている話だし、君を見ている以外にどうしろというんだ?」
「殿下にはお仕事はないのでしょうか? ご自分のお仕事をされてはいかがでしょうか?」
「それをやっている。俺の仕事はカトリーヌの観察なんだよ」
「私の観察?」
「そうだ。カトリーヌの役割を色々と考えているんだ。ほら、時間を無駄にしてしまうぞ。リリアの話に集中してくれないか?」
「……」
本当だろうか。私と話すときにはキリッとした素敵な顔になるのだが、私を横から見ているときは優しそうな暖かい表情になっている。
(え? 今、「素敵」って思った? この私が?)
私が恐らく殿方に免疫が出来ていないからに違いない。しっかりしなければ、本当に恋に冒されてしまう。あれは意味のない悪の感情だ。
「カトリーヌ、このままでは俺はさっきリリアが言った通り、本当に色ボケしてしまう。今日はこのぐらいで我慢する。俺は別の馬車で将軍たちと今後の行程の確認をしてくる。また、夕食のときに会おう」
「馬車を止めなさい」
リリアが御者に声をかけると、馬車がゆっくりと停止した。
「そうだ、カトリーヌ、漁業について何か思ったことがあったら聞かせてくれ」
「そうですね。狩猟をやめ家畜を育てるようになったように、漁業も出来ないのかな、と思いました。川魚の養殖はすでに行われていますが、海は広大で全く陸とは違う世界ですので、うまく行くかどうか分かりませんが」
「なるほど。早速試すよう水産大臣に指示する。まずはやってみることが大切だからな。養殖しやすい魚がいるかもしれないしな」
「はい、お願いします」
「その笑顔、俺の全身をしびれさせるよ。君は魔法使いだな」
そう言い残して、ヒューイは出て行った。
「さ、さて、リリア、つ、続きをお願いできるかしら」
(なんてセリフを言い残して消えるのよ、あの男はっ)
私は自分が耳まで赤くなっていることを自覚した。
「か、かしこまりました」
(リリアまで赤くなってるじゃないっ)
私はこの先、世のため人のためにちゃんとやって行けるのだろうか。
私の考えた地方統治策を説明して欲しいというから、同じ馬車に乗るのを了承したが、策はそっちのけで、私の容姿を褒め称えてばかりいる。
私は自分の容姿には無関心だったが、ここまで褒められると、褒められ慣れていないせいもあり、どう対処してよいか分からないし、非常に恥ずかしい。だが、心がキュンとする恥ずかしさだ。
ダメだ。この感情を私は知っている。恋愛感情だ。これに冒されると、大事な時間を大量に無駄にしてしまう。私には許されない感情だ。
私は心を凍らせ、リリアの話に集中した。今、リリアに国の基幹産業である漁業について話を聞いている。
それにしても、この男、いつまでも私をずっと見つめている。反応してはダメだ。反応してはダメよ、私!
「殿下! いつまで私を見ているんですかっ!? 私が集中出来ないじゃないですかっ!?」
反応してしまった……。
「そうは言っても、リリアの話は俺の知っている話だし、君を見ている以外にどうしろというんだ?」
「殿下にはお仕事はないのでしょうか? ご自分のお仕事をされてはいかがでしょうか?」
「それをやっている。俺の仕事はカトリーヌの観察なんだよ」
「私の観察?」
「そうだ。カトリーヌの役割を色々と考えているんだ。ほら、時間を無駄にしてしまうぞ。リリアの話に集中してくれないか?」
「……」
本当だろうか。私と話すときにはキリッとした素敵な顔になるのだが、私を横から見ているときは優しそうな暖かい表情になっている。
(え? 今、「素敵」って思った? この私が?)
私が恐らく殿方に免疫が出来ていないからに違いない。しっかりしなければ、本当に恋に冒されてしまう。あれは意味のない悪の感情だ。
「カトリーヌ、このままでは俺はさっきリリアが言った通り、本当に色ボケしてしまう。今日はこのぐらいで我慢する。俺は別の馬車で将軍たちと今後の行程の確認をしてくる。また、夕食のときに会おう」
「馬車を止めなさい」
リリアが御者に声をかけると、馬車がゆっくりと停止した。
「そうだ、カトリーヌ、漁業について何か思ったことがあったら聞かせてくれ」
「そうですね。狩猟をやめ家畜を育てるようになったように、漁業も出来ないのかな、と思いました。川魚の養殖はすでに行われていますが、海は広大で全く陸とは違う世界ですので、うまく行くかどうか分かりませんが」
「なるほど。早速試すよう水産大臣に指示する。まずはやってみることが大切だからな。養殖しやすい魚がいるかもしれないしな」
「はい、お願いします」
「その笑顔、俺の全身をしびれさせるよ。君は魔法使いだな」
そう言い残して、ヒューイは出て行った。
「さ、さて、リリア、つ、続きをお願いできるかしら」
(なんてセリフを言い残して消えるのよ、あの男はっ)
私は自分が耳まで赤くなっていることを自覚した。
「か、かしこまりました」
(リリアまで赤くなってるじゃないっ)
私はこの先、世のため人のためにちゃんとやって行けるのだろうか。
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