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将校との夕食会
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夕食会で、陸軍大将のランバラルは、失礼にならぬよう気をつけながら、上座に座しているカトリーヌを鋭い眼光で観察していた。
カトリーヌの容姿に関しては、事前にあまり話題に上らなかったため、特記すべきほどの容姿ではないと勝手に思っていたが、一目見て、腰を抜かすほど驚いた。
(これほどの美貌は、近年お目にかかったことはない。王妃様のお若いときを上回るのではないか)
ランバラルは左の将校席のなかでカトリーヌに一番近い席にいた。対面には海軍大将のカイゼルがいるが、彼もカトリーヌをチラチラと観察している。
奴と目が合った。カイゼルが、瞬きで信号を送っていることに気がついた。
(なになに? き・れ・い・だ・な、だと。バカめ、見ればわかることを)
今日の夕食会への将校たちの参加は、軍部から皇太子殿下に願い出たものだった。
軍部がカトリーヌの品定めを希望するのには理由がある。
皇太子のヒューイ殿下が、彼の即位後、軍の参謀にカトリーヌ様を抜擢すると公言したためだ。
軍部の最高司令官は国王だ。国王の命令は絶対だが、ヒューイ殿下が皇太子の地位にいるときにカトリーヌ様の話を出したのは、命令という形ではなく、合意を得たいのであろう。
先ほどの会議で、ヒューイ殿下は、カトリーヌ様が参謀になるための準備として、まずはカトリーヌ様を海軍少将兼陸軍少将に任命したいと言われた。
当然のことながら、会議は紛糾したが、まずはこの場で人物を見てくれ、と言われたのだ。
そのため、将校たちの目はカトリーヌ様を見定めてやろうとギラついているのだが、最初に絶世の美女パンチを受け、女性将校でさえもたじろいでいることがわかる。
今、刺身が配膳された。王国育ちのカトリーヌ様が生の魚を食べられるわけがない。これは見ものだ。将校全員が意地の悪い顔をしていた。
ヒューイ殿下がお品書きをカトリーヌ様に説明しているが、殿下のあのようなお顔を見たのは初めてだ。まるで若い女にデレデレしている中年オヤジのようではないか。
「カトリーヌ、刺身は初めてか?」
「はい、殿下」
「こうやってワサビと醤油をつけて食べるんだ」
「こうですか?」
「そうだよ。上手じゃないか。とても初めてとは思えないよ」
「殿下、ものすごく美味しいです。私、こんなに美味しくお魚を頂いたのは初めてですっ」
「そうか、そうか。私は何だか刺身になりたい気分だよ」
将校全員がげんなりしていた。あんなに気持ちの悪いことを言う殿下も初めてだ。
この甘ったるい雰囲気は、そろそろ終わりにしてしまおう。ランバラルはトーマス中尉に視線で合図した。
「カトリーヌ様っ、ご質問よろしいでしょうかっ?」
トーマス中尉が声を出した。
甘ったるいやり取りを邪魔された殿下が、途端に不機嫌な顔になった。部下の諫言ですらもにこやかに応対する殿下には考えられない表情だ。トーマス中尉が萎縮しそうになる。
「何でしょうか? 遠慮なくどうぞ」
カトリーヌ様の笑顔に中尉は勇気づけられたようだ。
「王国との戦争についてどう思われますか?」
「そうですね。戦争はない方がよいですが、分からず屋には、一発かますことも必要でしょう。ただ、そのとき私が重要だと思うのは、完膚なきまで相手を叩き潰し、二度とはむかえないようにすることです。それが出来ないなら、そもそも戦争すべきではないと思っています」
美しい容姿の割には随分と過激なことを言う。だが、この発言に将校たちは興味を示した。次から次へとカトリーヌ様に質問がとぶ。
いくつかの質疑応答を経て、カトリーヌ様の戦争や軍人に対する考え方が大体わかってきた。
その考えに対しては賛否両論に分かれるような気がするが、カトリーヌ様は徹底的なリアリストであることがわかった。ダンブルに受け入れられやすい思想だ。しかも、知見があり、恐ろしく頭がいい。
ヒューイ殿下が何としてもカトリーヌ様を自国に招き入れたいと言っていた理由が、容姿ではなかったことに将校たちは安堵した。
カトリーヌの容姿に関しては、事前にあまり話題に上らなかったため、特記すべきほどの容姿ではないと勝手に思っていたが、一目見て、腰を抜かすほど驚いた。
(これほどの美貌は、近年お目にかかったことはない。王妃様のお若いときを上回るのではないか)
ランバラルは左の将校席のなかでカトリーヌに一番近い席にいた。対面には海軍大将のカイゼルがいるが、彼もカトリーヌをチラチラと観察している。
奴と目が合った。カイゼルが、瞬きで信号を送っていることに気がついた。
(なになに? き・れ・い・だ・な、だと。バカめ、見ればわかることを)
今日の夕食会への将校たちの参加は、軍部から皇太子殿下に願い出たものだった。
軍部がカトリーヌの品定めを希望するのには理由がある。
皇太子のヒューイ殿下が、彼の即位後、軍の参謀にカトリーヌ様を抜擢すると公言したためだ。
軍部の最高司令官は国王だ。国王の命令は絶対だが、ヒューイ殿下が皇太子の地位にいるときにカトリーヌ様の話を出したのは、命令という形ではなく、合意を得たいのであろう。
先ほどの会議で、ヒューイ殿下は、カトリーヌ様が参謀になるための準備として、まずはカトリーヌ様を海軍少将兼陸軍少将に任命したいと言われた。
当然のことながら、会議は紛糾したが、まずはこの場で人物を見てくれ、と言われたのだ。
そのため、将校たちの目はカトリーヌ様を見定めてやろうとギラついているのだが、最初に絶世の美女パンチを受け、女性将校でさえもたじろいでいることがわかる。
今、刺身が配膳された。王国育ちのカトリーヌ様が生の魚を食べられるわけがない。これは見ものだ。将校全員が意地の悪い顔をしていた。
ヒューイ殿下がお品書きをカトリーヌ様に説明しているが、殿下のあのようなお顔を見たのは初めてだ。まるで若い女にデレデレしている中年オヤジのようではないか。
「カトリーヌ、刺身は初めてか?」
「はい、殿下」
「こうやってワサビと醤油をつけて食べるんだ」
「こうですか?」
「そうだよ。上手じゃないか。とても初めてとは思えないよ」
「殿下、ものすごく美味しいです。私、こんなに美味しくお魚を頂いたのは初めてですっ」
「そうか、そうか。私は何だか刺身になりたい気分だよ」
将校全員がげんなりしていた。あんなに気持ちの悪いことを言う殿下も初めてだ。
この甘ったるい雰囲気は、そろそろ終わりにしてしまおう。ランバラルはトーマス中尉に視線で合図した。
「カトリーヌ様っ、ご質問よろしいでしょうかっ?」
トーマス中尉が声を出した。
甘ったるいやり取りを邪魔された殿下が、途端に不機嫌な顔になった。部下の諫言ですらもにこやかに応対する殿下には考えられない表情だ。トーマス中尉が萎縮しそうになる。
「何でしょうか? 遠慮なくどうぞ」
カトリーヌ様の笑顔に中尉は勇気づけられたようだ。
「王国との戦争についてどう思われますか?」
「そうですね。戦争はない方がよいですが、分からず屋には、一発かますことも必要でしょう。ただ、そのとき私が重要だと思うのは、完膚なきまで相手を叩き潰し、二度とはむかえないようにすることです。それが出来ないなら、そもそも戦争すべきではないと思っています」
美しい容姿の割には随分と過激なことを言う。だが、この発言に将校たちは興味を示した。次から次へとカトリーヌ様に質問がとぶ。
いくつかの質疑応答を経て、カトリーヌ様の戦争や軍人に対する考え方が大体わかってきた。
その考えに対しては賛否両論に分かれるような気がするが、カトリーヌ様は徹底的なリアリストであることがわかった。ダンブルに受け入れられやすい思想だ。しかも、知見があり、恐ろしく頭がいい。
ヒューイ殿下が何としてもカトリーヌ様を自国に招き入れたいと言っていた理由が、容姿ではなかったことに将校たちは安堵した。
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