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作戦

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 セシルの聖女補佐は私の知らないミレイという少女だった。聖女や聖女候補は容姿端麗であることが条件であるため、セシルも美人だが、このミレイという少女は大人になったらとんでもない美人になるだろうと思われた。

「え? 王女様?」

「テリュース殿下の妹君です」

 そう言われてみると、テリュース王子とよく似ていた。テリュースとミレイの母は、若い頃に「傾国の美女」と呼ばれていたお方なので、美男美女の兄妹というのも納得だ。

 王女様を前線によく出せると思ったが、治癒が担当なので、前線といっても後方で治癒活動を行うだけであるため、そんなに危険ではない。ただし、ゴブリンメイジの魔法攻撃には注意が必要だ。

 戦場で女性は聖女と聖女補佐の二名だけだったが、女性の護衛が四名つくということで、兵士たちの中で、すごく話題になっていたようだ。黒頭巾とマスクをして、ほとんど顔を見せていないにも関わらず、どこに行っても注目される。

 私たちは、今、前線で戦場の様子を確認しているところだが、兵士たちが私たちを思いっきり意識しているのが、手に取るように分かる。兵士にとっては聖女と王女は高嶺の花だが、護衛の私たちは射程距離内とでも思っているのだろうか。

「男って本当に馬鹿よね」

 ステーシアが呆れていた。

「汗臭くて嫌です」

 ミアは容赦なかった。

 戦闘が始まると次々に負傷者が運ばれて来た。

 アミとミアは重傷者を見るのは初めてのようで、顔を真っ青にしている。

 セシルの治癒はかなり上達していた。ミレイとも息が合っているようだ。だが、ゴブリンメイジ部隊のファイアボールによる絨毯爆撃があり、多くの重傷者が運ばれて来たため、治癒力切れが起きないように私も手伝った。

「ルミさん、すごいです」

 アミとミアが私の治癒を見て、びっくりしていた。

「ただ綺麗だからステイさんに拾ってもらったとばかり思ってました」

「私も綺麗なだけが取り柄の人だと思ってました」

 私の評価って酷いのね。

「聖女様、この方、いったい……」

 ミレイは聖女をも超える治癒力を持つ私の存在を理解できないようだ。

「うふふ、今はまだ内緒よ。ステイ様、どうですか? 行けそうですか?」

 セシルがステーシアにゴブリンキングまで到達出来そうかどうかを確認した。

「大丈夫だと思うわ」

「分かりました。では、この戦いの後、殿下に進言します」

 今日の戦闘が終わり、私たち四人が殿下の天幕の外でセシルとミレイを待っていると、天幕からテリュース殿下が飛び出して来た。私たちの方を見てキョロキョロしていたが、私のところで視線が止まった。

「ああ、ルミエール殿……」

 テリュースはそう叫んで、私の目の前まで走って来た。

 頭巾とマスクで目元しか見えないのに、よく私だと認識できたと思う。

「本当にあなたなのですね。夢ではないのですね」

「は、はい。ご心配お掛けしました。ご無沙汰しております」

 ここまで喜ばれるとは想定外だった。

「さあ、どうぞ、天幕の中に入って下さい」

「は、はあ」

 テリュースが私以外の三人にも声をかけてくれた。

「お仲間の方々もどうぞお入り下さい」

 王子のくせに低姿勢なテリュースに、皆んなは少し戸惑っているようだ。

「皆んな、中に入ろう」

 私が声をかけて中に入ると、セシルとミレイがテリュースとは別のタイプのイケメン青年と、地図を見ながら活発に議論していた。

「ルミエール殿、こちらは私の親友で、軍師のシュンメイです」

 殿下からシュンメイと紹介された人は、目つきの鋭い冷たい感じの人だったが、意外にも物腰は柔らかく、私たちに丁寧にお辞儀をした。

「シュンメイです。よろしくお願い致します。早速ですが、あなた方の戦闘力を見せて頂けますか。ルミエール様の治癒力はわかっておりますので結構です。まずは、ステーシア様、殿下とお手合わせをお願い出来ますか」

 ステーシアは嬉々として模擬剣を受け取った。テリュース王子の腕前は有名で、手合わせしたいと言っていた。

「あと、アミさんとミアさんは私に魔法を放って頂けますか。手加減抜きで結構です」

「ここでですか?」

 アミがすでにテリュースと打ち合いを始めているステーシアを見ながら、シュンメイに確認した。

「はい、どうぞ。全力でお願いします。天幕は傷つけず、私に集中させて下さい。仮に私が黒焦げになっても、治癒のできる女性が三名もいらっしゃいますから、心配はご無用です」

 アミとミアは顔を見合わせていたが、やることに決めたようだ。

 二人は最も得意な電撃を繰り出した。周りの空間でバチバチと音がし始め、アミとミアの髪が逆立っている。

 アミの隣にいた私の耳の辺りで、バシィという音が断続的に聞こえてくる。

(すごい。これ、私のイアリングに稲妻が落ちて来ているんだわ)

 シュンメイはと見ると、驚いたことに、シュンメイの右手先に稲妻が吸い込まれて行くような現象が発生している。

 アミとミアもこれには驚いたようだが、構わず、シュンメイに向けて、電撃を集中発射した。

 ドゴーンという大きな音が聞こえたが、シュンメイは無傷だった。

 アミとミアが信じられないという顔をしていた。

 音に驚いてステーシアとテリュースも打ち合いを止めていた。

「ありがとうございます。よく分かりました。それで、殿下、どうでした、ステーシア嬢の腕前は?」

 涼しげなステーシアに対して、殿下は汗だくであった。

「勝てる気がしない……。もう一度、修行し直したい……」

「ははは、そうですか。行けますね、これは」

 シュンメイは確かな手応えを感じているようだった。
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