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キャンプ

怖いおっちゃんも話してみると案外?

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「いやすまねえな。久しぶりに文字を、しかも古代魔導語を読めちまうような優秀な若者に会ったもんだからな。さっきは失礼なことを言って悪かった。この通りだ。許してくれ、先生!」
「都合の良い人だなぁ……」
 態度が悪かった商人さんは、私が文字を読めると分かった途端に掌ひっくり返してやたらと低姿勢で私のことを先生とすら呼び始めた。
 この辺りの身の振り方はいかにも商人っぽいというか。……よく見たらこの人が読んでた本の奥に分厚い辞書が何冊か平積みにされてる⁉︎ ってことはこの人、ただ本を読んでたんじゃなくて独学で勉強しながら読書しようとしてたってこと? だとしたらむしろ尊敬するレベルなんだけど。
「いやはや、まだ若いってのにたかが一泊のために銀貨一枚を払うとはどこぞの貴族のお嬢様かと思ってたが、先生は学者様か何かってことだな。誤解して申し訳なかった。その広い心に免じて許してくだされ……」
「ああ、もう。いいよ、許してあげる。でもそこまで私を煽てるってことは、何か目的があるんでしょ?」
「さすがは先生! すべてお見通しですか!」
 この人は、隠そうともしていないのによくもまあ抜け抜けと。でもまあこれぐらい欲望に忠実な方が、こちらとしても扱いやすくていいかな……。

「それでおじさん。私になんの用なの?」
「いやなに、大したことじゃないさ。ただ今が分からずに困ってる部分があってな。先生に翻訳を手伝ってもらいたいんですわ。もちろんお給料は払わせてもらいます。そうですな……相場通り1文字あたり銅貨1枚でどうでしょう」
「それは……金額はどうでもいいとして、少しなら手伝ってもいいとは思うけど」
 相場通りとか言われても、それが安いのか高いのかもわからないからブラフで言っているのか本気で言っているのかもわからない。利益に忠実なこの人のことだから絶対サバ読んでるとは思うんだけど、下手な読み合いしても化けの皮が剥がれるだけだと思うからやめとこうかな。
「でも、手伝うのはいいけどあまり長い時間は無理だよ? 少なくとも日が暮れるよりも前には引き上げたいというか、明日から山越えだから準備とかもしないとダメだし……」
「ああなるほどな。そういうことならうちに山越え装備の在庫があるはずだから必要なものは持っていってもいいぜ! そんなことより早速取り掛かろうぜ! 『時は金なり』って言葉もあるぐらいだしな!」

 一瞬「その言葉ってこっちの世界にもあるんだ」なんて思ったけどそれは置いといて。一応お小遣い稼ぎにはなるみたいだし、ほどほどに真面目に手伝ってみようかな。
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