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31 マッドウルフ(狂狼)
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ソウタに何かがあったのは間違いがなかった。
無茶なところはあるけれど、それでも他人を困らせるような事はしない子供だ。
異界渡りである事も十分に自分で理解をしていて、何とかここで生きようと頑張っていた姿があったから、ダグラスと一緒に手を差し伸べたのだ。
それがこんな風に戻ってこないというのは、何かに巻き込まれたとしか思えない。
大体まだまだ体は本調子ではないのだ。
やっと普通にものを食べられるようになってきたが、それでもすぐに戻したり、蒼い顔をしている事も多い。
しかも瞳にはとても厄介な【魅了】がついている。
ダグラスからあれほど気を付けてやってほしいと頼まれていたというのに。
「ちくしょう!」
嫌な予感しか湧いてこない胸を無意識にぎゅっと押さえて、カイザックは一緒に行くといった冒険者の男、シグマと共に、ソウタたちが向かった筈の草原に急いだ。
すると、草原沿いの街道で揉めている男たちの姿が見えた。
「だから!消えたんだよ!急に」
「そんな馬鹿な事あるか!こっちはすでに金を払っているんだ。殺しちまったか、自分たちのものにするんなら金を払いな」
「知るかよ!とにかく俺たちは」
「よぉ、なんだか楽しそうな話をしているじゃねえか。ちょっとギルドで詳しい話を聞かせてもらおうか」
「!!!!」
「俺は関係ない!」
「まぁまぁ、そう言いなさんな。カエラたちから持ち掛けられた話をぜひ、聞かせてほしいね」
逃げ出そうとした男たちをカイザックとシグマは難なく地面に沈めた。
「おい、少年がいただろう?どうした」
「知らねぇよ!いきなり消えたんだよ!」
「そんな事あるか!」
「あったからこんな事になってるんだよ!」
男たちと奴隷商をギルドへ連れていき、話を聞くことにした。
-*-*-*-*-*-
「いやぁぁぁ!このマント!!吐いてるよぉ!ソウタってば吐いてるよぉぉぉぉ!!心配~!しかもナニコレ、シャツ、破けてるぅ!は?ズボンの破片?何よぉぉぉ!!何したのよぉぉぉぉぉぉ!!バッグも、眼鏡、笛も泥だらけの草だらけ!!ありないから!!しかもソウタはいなくなった?は?消えた?ん?どういう事ぉ?なんで?どうしてぇ?うちの貴重な使える新人見習いに何しやがったんだ、てめぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
唸り声と共にバキィィッ!!!!と置かれていたテーブルが砕けた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!マッドウルフだ!マッドウルフのモニカだ!!」
ギルドの中が震撼した。
連れてきた男たちは売却品受け取り用のカウンターにいた女性の豹変に声をなくしていた。
「ああ!?もう一度言ってみな。誰が何をどうしたって?オラ!言わねぇと踏みつぶすぞ!!ごるらぁぁ!!」
「ひぃぃぃぃ!!」
「……モ、モニカ、それくらいで」
「はあぁぁぁ?大体、ミーシャがきちんと調べてから依頼受けさせればこんな事にはならなかったんだよ!!うちの有望な新人候補をもっと丁寧に扱えってぇの!!しかもソウタが戻ってきていないのに依頼の終了受けるって何!!ありえないから!!!減給!!カイザック、この二人減給しな!」
「いいいいやぁぁぁぁ!許してください!」
「モニカ様!!二度としませんからぁぁぁ!!」
「うるせぇんだよ!!減給!じゃなきゃこいつらと一緒に首並べるから」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁl!!!!!」
ギルドの中は修羅場と化していた。
「さて、こっちはそろそろ言いたくなってきたんじゃないかな?キリキリ言えよ!!」
「わぁぁぁ!!!」
「モニカ、もう少し静かに訊ねないと言葉が出てこねぇよ」
「ああん?チッ!!じゃあ、優しく聞いているうちに言わないとダメだよぉ?誰にぃ、何を頼まれてぇ、幾らもらったのぉ?聞いてるのは3つだけ。とりあえずは」
にっこりと笑った女に男たちはガクガクと震えながら口を開いた。
「カ、カエラに、漆黒の使いのカエラに、ここにいるソウタってガキを犯ってから奴隷商に引き渡してくれって言われたんだ。カエラには昔借りがあって、それで、金貨1枚で引き受けた」
「ふぅ~~ん。そうだったんだぁ。それでぇ?犯っちゃったのぉ?」
「犯ってない!」
「ああ、犯ろうと思っていたらいきなり消えたんだ!!本当だ!」
「えええ!信じられなぁ~い!人がぁ消えるわけねぇだろうがよぉぉぉぉぉ!!!!」
バキィィっと拳一つで床板に穴があく。
「ほほほほ本当なんです!!本当に入れようと思ったら消えちまったんですよぉぉぉ!!」
「えええ!ほんとにぃ?」
「本当です!」
「いきなりいなくなって、俺らも探したんです!!」
「それで受け取りにきた奴隷商のこいつを口論になって!」
「そっかぁ、で、あんたはいくら払ったのぉ?カエラの仲間は~?どこにいるか知ってるのかな?」
「わわわわわ私は金貨3枚払いました。どうにでもしていいからと言われて。仲間は金の鎮魂歌だったジェニーとその姉のアデリンの3人で、どこにいるのかはわか…ひぃぃ!!」
何もしていない筈なのにひげがパラパラと落ちる。
風だ。風の魔法だ。無詠唱なのにこんなに繊細な調整が出来るなんてありえない。
「わかんなくないよね?今度は間違えて首に当てちゃったりするかもね。で?金渡したのはどこ?どの町?家は?根城は?言ったら勘弁してあげようかなぁ。うふふ」
「!!!根城はアデリンの家が隣町の宿屋で、黄金亭っていう」
バキィィ!
拳が綺麗に右の頬にヒットして奴隷商は床に倒れ伏した。
「ひぃぃぃぃぃ!!!!」
「ゆる、ゆるし」
「許すわけねぇだろうがぁ、このきたねーものをソウタに入れようとした罪を贖え!!!」
そう言った途端、2度、勢いよく足が踏み下ろされて、男たちは泡を吹いて転がった。
「あとは頼んだよ。ちっと隣町まで行ってくる。馬、借りるから」
「生きてつれてこいよ。話を聞かねぇといけねぇからな」
「チッ!!!!」
盛大な舌打ちをしてモニカはマントをつけて歩き出した。
「そうしてると冒険者だった頃のままだな」
「はぁ?冒険者なんて戻らねぇよ。ったく!!はぁい!どいてぇ、雌犬3匹捕まえてくるからねぇ」
ザっと音がする勢いでギルドのホールに道が出来た。
「あたしが帰ってくるまでにぃ、ソウタ見つけておいてねぇ。ほんとにあの子使えるから、ギルドの職員になるの楽しみなのぉ。ダグラスと一緒にいるの見るのも可愛いしさ~。あたしの癒しなんだからねぇ」
「善処するよ」
「け!!見つけるって言え」
嵐が去った。
「……ほんとに存在していたんだ。S級のマッドウルフ(狂狼)」
引きつった顔でそういうシグマに、カイザックは眉間の辺りを揉みながら口を開いた。
「本人の前で言ったら命はねぇぞ」
「あの勢いで剣も魔法も一流なんて厄災だな」
「それも黙っておいた方がいい」
「おう」
カイザックは粉々になったテーブルと床に転がる男たちを見て溜息を落とした。
「おい、とりあえず、こいつらに中級ポーション飲ませておけ。さすがにこれじゃあ衛兵に引き渡せねえ」
「わ、分かりました!」
「あと、これ以上あいつを暴れさせないようにお前たちは減給。あとで何か現物支給してやるから1回は諦めな。言い出したら聞かねぇからよ。帳簿までチェックするからな」
「はい!!!」
「今後二度とないように気を付けます!!」
ギルドの中の止まっていた時間が動き出す。
とりあえず、とカイザックは思った。
まずはダグラスにこの事を知らせるべく書簡を送ろう。
そろそろカムイに到着するだろう。カムイのギルドに送っておけば連絡はつく筈だ。
「それで、坊主はどうするんだ?」
「草原の捜索はする。ギルド依頼を出す」
「よし、受けよう」
「俺もだ!」
「俺も受けるぜ」
次々に上がる声。
「ソウタ、皆がお前を探しているぜ?早く戻ってこい」
呟くようにそう言って、カイザックはカウンターに向かって歩き出した。
-----------------------
うふふふふふ。
無茶なところはあるけれど、それでも他人を困らせるような事はしない子供だ。
異界渡りである事も十分に自分で理解をしていて、何とかここで生きようと頑張っていた姿があったから、ダグラスと一緒に手を差し伸べたのだ。
それがこんな風に戻ってこないというのは、何かに巻き込まれたとしか思えない。
大体まだまだ体は本調子ではないのだ。
やっと普通にものを食べられるようになってきたが、それでもすぐに戻したり、蒼い顔をしている事も多い。
しかも瞳にはとても厄介な【魅了】がついている。
ダグラスからあれほど気を付けてやってほしいと頼まれていたというのに。
「ちくしょう!」
嫌な予感しか湧いてこない胸を無意識にぎゅっと押さえて、カイザックは一緒に行くといった冒険者の男、シグマと共に、ソウタたちが向かった筈の草原に急いだ。
すると、草原沿いの街道で揉めている男たちの姿が見えた。
「だから!消えたんだよ!急に」
「そんな馬鹿な事あるか!こっちはすでに金を払っているんだ。殺しちまったか、自分たちのものにするんなら金を払いな」
「知るかよ!とにかく俺たちは」
「よぉ、なんだか楽しそうな話をしているじゃねえか。ちょっとギルドで詳しい話を聞かせてもらおうか」
「!!!!」
「俺は関係ない!」
「まぁまぁ、そう言いなさんな。カエラたちから持ち掛けられた話をぜひ、聞かせてほしいね」
逃げ出そうとした男たちをカイザックとシグマは難なく地面に沈めた。
「おい、少年がいただろう?どうした」
「知らねぇよ!いきなり消えたんだよ!」
「そんな事あるか!」
「あったからこんな事になってるんだよ!」
男たちと奴隷商をギルドへ連れていき、話を聞くことにした。
-*-*-*-*-*-
「いやぁぁぁ!このマント!!吐いてるよぉ!ソウタってば吐いてるよぉぉぉぉ!!心配~!しかもナニコレ、シャツ、破けてるぅ!は?ズボンの破片?何よぉぉぉ!!何したのよぉぉぉぉぉぉ!!バッグも、眼鏡、笛も泥だらけの草だらけ!!ありないから!!しかもソウタはいなくなった?は?消えた?ん?どういう事ぉ?なんで?どうしてぇ?うちの貴重な使える新人見習いに何しやがったんだ、てめぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
唸り声と共にバキィィッ!!!!と置かれていたテーブルが砕けた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!マッドウルフだ!マッドウルフのモニカだ!!」
ギルドの中が震撼した。
連れてきた男たちは売却品受け取り用のカウンターにいた女性の豹変に声をなくしていた。
「ああ!?もう一度言ってみな。誰が何をどうしたって?オラ!言わねぇと踏みつぶすぞ!!ごるらぁぁ!!」
「ひぃぃぃぃ!!」
「……モ、モニカ、それくらいで」
「はあぁぁぁ?大体、ミーシャがきちんと調べてから依頼受けさせればこんな事にはならなかったんだよ!!うちの有望な新人候補をもっと丁寧に扱えってぇの!!しかもソウタが戻ってきていないのに依頼の終了受けるって何!!ありえないから!!!減給!!カイザック、この二人減給しな!」
「いいいいやぁぁぁぁ!許してください!」
「モニカ様!!二度としませんからぁぁぁ!!」
「うるせぇんだよ!!減給!じゃなきゃこいつらと一緒に首並べるから」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁl!!!!!」
ギルドの中は修羅場と化していた。
「さて、こっちはそろそろ言いたくなってきたんじゃないかな?キリキリ言えよ!!」
「わぁぁぁ!!!」
「モニカ、もう少し静かに訊ねないと言葉が出てこねぇよ」
「ああん?チッ!!じゃあ、優しく聞いているうちに言わないとダメだよぉ?誰にぃ、何を頼まれてぇ、幾らもらったのぉ?聞いてるのは3つだけ。とりあえずは」
にっこりと笑った女に男たちはガクガクと震えながら口を開いた。
「カ、カエラに、漆黒の使いのカエラに、ここにいるソウタってガキを犯ってから奴隷商に引き渡してくれって言われたんだ。カエラには昔借りがあって、それで、金貨1枚で引き受けた」
「ふぅ~~ん。そうだったんだぁ。それでぇ?犯っちゃったのぉ?」
「犯ってない!」
「ああ、犯ろうと思っていたらいきなり消えたんだ!!本当だ!」
「えええ!信じられなぁ~い!人がぁ消えるわけねぇだろうがよぉぉぉぉぉ!!!!」
バキィィっと拳一つで床板に穴があく。
「ほほほほ本当なんです!!本当に入れようと思ったら消えちまったんですよぉぉぉ!!」
「えええ!ほんとにぃ?」
「本当です!」
「いきなりいなくなって、俺らも探したんです!!」
「それで受け取りにきた奴隷商のこいつを口論になって!」
「そっかぁ、で、あんたはいくら払ったのぉ?カエラの仲間は~?どこにいるか知ってるのかな?」
「わわわわわ私は金貨3枚払いました。どうにでもしていいからと言われて。仲間は金の鎮魂歌だったジェニーとその姉のアデリンの3人で、どこにいるのかはわか…ひぃぃ!!」
何もしていない筈なのにひげがパラパラと落ちる。
風だ。風の魔法だ。無詠唱なのにこんなに繊細な調整が出来るなんてありえない。
「わかんなくないよね?今度は間違えて首に当てちゃったりするかもね。で?金渡したのはどこ?どの町?家は?根城は?言ったら勘弁してあげようかなぁ。うふふ」
「!!!根城はアデリンの家が隣町の宿屋で、黄金亭っていう」
バキィィ!
拳が綺麗に右の頬にヒットして奴隷商は床に倒れ伏した。
「ひぃぃぃぃぃ!!!!」
「ゆる、ゆるし」
「許すわけねぇだろうがぁ、このきたねーものをソウタに入れようとした罪を贖え!!!」
そう言った途端、2度、勢いよく足が踏み下ろされて、男たちは泡を吹いて転がった。
「あとは頼んだよ。ちっと隣町まで行ってくる。馬、借りるから」
「生きてつれてこいよ。話を聞かねぇといけねぇからな」
「チッ!!!!」
盛大な舌打ちをしてモニカはマントをつけて歩き出した。
「そうしてると冒険者だった頃のままだな」
「はぁ?冒険者なんて戻らねぇよ。ったく!!はぁい!どいてぇ、雌犬3匹捕まえてくるからねぇ」
ザっと音がする勢いでギルドのホールに道が出来た。
「あたしが帰ってくるまでにぃ、ソウタ見つけておいてねぇ。ほんとにあの子使えるから、ギルドの職員になるの楽しみなのぉ。ダグラスと一緒にいるの見るのも可愛いしさ~。あたしの癒しなんだからねぇ」
「善処するよ」
「け!!見つけるって言え」
嵐が去った。
「……ほんとに存在していたんだ。S級のマッドウルフ(狂狼)」
引きつった顔でそういうシグマに、カイザックは眉間の辺りを揉みながら口を開いた。
「本人の前で言ったら命はねぇぞ」
「あの勢いで剣も魔法も一流なんて厄災だな」
「それも黙っておいた方がいい」
「おう」
カイザックは粉々になったテーブルと床に転がる男たちを見て溜息を落とした。
「おい、とりあえず、こいつらに中級ポーション飲ませておけ。さすがにこれじゃあ衛兵に引き渡せねえ」
「わ、分かりました!」
「あと、これ以上あいつを暴れさせないようにお前たちは減給。あとで何か現物支給してやるから1回は諦めな。言い出したら聞かねぇからよ。帳簿までチェックするからな」
「はい!!!」
「今後二度とないように気を付けます!!」
ギルドの中の止まっていた時間が動き出す。
とりあえず、とカイザックは思った。
まずはダグラスにこの事を知らせるべく書簡を送ろう。
そろそろカムイに到着するだろう。カムイのギルドに送っておけば連絡はつく筈だ。
「それで、坊主はどうするんだ?」
「草原の捜索はする。ギルド依頼を出す」
「よし、受けよう」
「俺もだ!」
「俺も受けるぜ」
次々に上がる声。
「ソウタ、皆がお前を探しているぜ?早く戻ってこい」
呟くようにそう言って、カイザックはカウンターに向かって歩き出した。
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うふふふふふ。
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