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幕間1
ギルドの日常
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「スーちゃん、ちょっといい?」
このところ私が休憩していると、ユート君が声をかけてくるようになった。クーちゃんも一緒なので私としては大歓迎だ。
「スーちゃん言うな。で、今日はどうしたの?」
ユート君から話しかけてくるときは、決まって何か聞きたい時だ。クーちゃんがとてとてと足元によってくる。可愛い。
「ベルセンって地方都市だよな?国じゃないよな?」
「何でそう思うの?」
ユート君は渡人だ。前々から変な子だと思っていたが、渡人だとは思わなかった。
だから、ユート君にはラフィーアの常識が無い。私達にとって当たり前でも、彼にとってはそうじゃない。でも、草むしりを楽しんで受けるのはやっぱり変よ。
ギルドとしては有能な人材を遊ばせておくのはもったいないと思うんだけど。まあ、オーナーじゃないけど、そのうちいろいろ受けてくれるでしょ。
「そうだなぁ。国にしては小さくまとまってるからかな。ベルセンの周りを高い壁で囲んじゃってるだろ?地理的に重要だから防衛機能を持たせてるけど、それ以上の力をつけさせないためって感じがする。農地も小さいし居住区にも限りがあるから、反乱勢力として大きくなるのは難しいだろ?」
なかなか鋭いわね。常識はないけど、観察力がある。
「正解。ここはね、パルジャンス王国の東のはしっこなの。首都に行くには、ここを通るのが都合がいい、そういう土地にベルセンを建てたのね。壁が高い理由は、砦として機能させるためね。壁の上には等間隔で物見台があるわよ」
「へえ。じゃあ、ベルセンを無視して攻めると上から攻撃されるわけか」
「そういうこと。パルジャンス王国の周囲は小国が乱立しててね、国境沿いはどうしてもそういう都市を造らないとダメなのよ。北のテオロス帝国とか……」
「スーちゃん、抱っこ」
「やーん、ごめんね、お話し難しかった?」
クーちゃんが私の足に抱きついてきた。難しい話になると、最近はこうやって抱きついてくるようになった。可愛い。
こんな時ユート君は決まって私に謝ってくる。
「ごめんな、スーちゃん。お茶淹れてくる。クシナダも退屈だったな、ごめんな」
可愛いから別にいいのに。
「ユート君私もお茶もらっていいー?」
「了解。砂糖多目だね」
「うん、ありがとー」
ユート君と入れ替えに、マリアちゃんが歩いてくる。
「ごめんね、マリアちゃん。先に休憩しちゃって」
「いいよいいよー。代わりに朝はスーちゃんが忙しいんだし」
確かに忙しかった。マンハイムでの内勤は私とマリアちゃんの2人で回している。私が依頼者からの依頼の受注と身内への発注を担当し、マリアちゃんが身内からの報告の受付と依頼者への報告を担当している。
今までは2人だけで特に問題なかったんだけど……。
「ユート君が来てから忙しくなったよねー」
そうなのよ。彼が来て3日目くらいから依頼が増えはじめて……。
「増えすぎてパンクするかと思ったら、依頼の消化も増えてきたよね」
そう、それもなの。だから私たちが忙しくなっていて、それはいいことなんだけどちょっと人が足りなくなってきた感じ。
「依頼が増えて来てすぐに、ユート君に何人かが絡んだことがあったよね」
「そんなこともあったねー。生意気だとか、なんとか言って」
きっかけは、新しい依頼の中にユート君を指名するものが出てきたからだと思う。それを知ったレベルの低いメンバーが、よせばいいのにユート君につっかかっていったのよね。
確かあの時は3人だっけ。あ、噂をすれば。
「マリアちゃん、スーちゃん。後生だからもうその話やめてよ」
返り討ちにされた1人、2年目のシンディちゃんが帰ってきた。
「えらいねー、今日も依頼お疲れ様」
「ちゃんと仕事しないと、またユートに怒られるからね。ライとロイドも、悔しかったみたいで今日も頑張ってるよ」
あの日、掲示板を見ていたユート君に絡んだ3人は、ものの見事に返り討ちにされたっけ。
リザードマンのライは顎を軽く『撫でられて』、人族のロイドは鳩尾を『小突かれて』。人族のシンディちゃんは、首筋に手刀を寸止めされてたっけ。女の子だからかな?
で、その後ユート君は3人に怒鳴ったのよね。
「アンタらギルドに世話になってんだろうが。こんなことする暇があったら仕事しろよ、情けねえ」
「あ、マリアちゃん似てる」
「もう、やめてってば、恥ずかしいなぁ」
「でもユート君は忘れてそうだけどねー」
「あ、それはあるかも」
私たちは顔を見合わせて笑った。やっぱりあの子変よね。
「ねー、何が面白いの?」
そっか、クーちゃんはまだいなかったもんね。きょとんとする顔も可愛いなあ。
「お姉ちゃんが教えてあげるから、クシナダちゃんも教えてくれる?」
シンディちゃんがクーちゃんの頭を撫でる。クーちゃんに聞きたいことって?
「ユートってどんな子がタイプなのかな?」
「……え?」
「あ、私もそれ聞きたいかもー」
……ちょっと2人とも、趣味悪いんじゃない?
このところ私が休憩していると、ユート君が声をかけてくるようになった。クーちゃんも一緒なので私としては大歓迎だ。
「スーちゃん言うな。で、今日はどうしたの?」
ユート君から話しかけてくるときは、決まって何か聞きたい時だ。クーちゃんがとてとてと足元によってくる。可愛い。
「ベルセンって地方都市だよな?国じゃないよな?」
「何でそう思うの?」
ユート君は渡人だ。前々から変な子だと思っていたが、渡人だとは思わなかった。
だから、ユート君にはラフィーアの常識が無い。私達にとって当たり前でも、彼にとってはそうじゃない。でも、草むしりを楽しんで受けるのはやっぱり変よ。
ギルドとしては有能な人材を遊ばせておくのはもったいないと思うんだけど。まあ、オーナーじゃないけど、そのうちいろいろ受けてくれるでしょ。
「そうだなぁ。国にしては小さくまとまってるからかな。ベルセンの周りを高い壁で囲んじゃってるだろ?地理的に重要だから防衛機能を持たせてるけど、それ以上の力をつけさせないためって感じがする。農地も小さいし居住区にも限りがあるから、反乱勢力として大きくなるのは難しいだろ?」
なかなか鋭いわね。常識はないけど、観察力がある。
「正解。ここはね、パルジャンス王国の東のはしっこなの。首都に行くには、ここを通るのが都合がいい、そういう土地にベルセンを建てたのね。壁が高い理由は、砦として機能させるためね。壁の上には等間隔で物見台があるわよ」
「へえ。じゃあ、ベルセンを無視して攻めると上から攻撃されるわけか」
「そういうこと。パルジャンス王国の周囲は小国が乱立しててね、国境沿いはどうしてもそういう都市を造らないとダメなのよ。北のテオロス帝国とか……」
「スーちゃん、抱っこ」
「やーん、ごめんね、お話し難しかった?」
クーちゃんが私の足に抱きついてきた。難しい話になると、最近はこうやって抱きついてくるようになった。可愛い。
こんな時ユート君は決まって私に謝ってくる。
「ごめんな、スーちゃん。お茶淹れてくる。クシナダも退屈だったな、ごめんな」
可愛いから別にいいのに。
「ユート君私もお茶もらっていいー?」
「了解。砂糖多目だね」
「うん、ありがとー」
ユート君と入れ替えに、マリアちゃんが歩いてくる。
「ごめんね、マリアちゃん。先に休憩しちゃって」
「いいよいいよー。代わりに朝はスーちゃんが忙しいんだし」
確かに忙しかった。マンハイムでの内勤は私とマリアちゃんの2人で回している。私が依頼者からの依頼の受注と身内への発注を担当し、マリアちゃんが身内からの報告の受付と依頼者への報告を担当している。
今までは2人だけで特に問題なかったんだけど……。
「ユート君が来てから忙しくなったよねー」
そうなのよ。彼が来て3日目くらいから依頼が増えはじめて……。
「増えすぎてパンクするかと思ったら、依頼の消化も増えてきたよね」
そう、それもなの。だから私たちが忙しくなっていて、それはいいことなんだけどちょっと人が足りなくなってきた感じ。
「依頼が増えて来てすぐに、ユート君に何人かが絡んだことがあったよね」
「そんなこともあったねー。生意気だとか、なんとか言って」
きっかけは、新しい依頼の中にユート君を指名するものが出てきたからだと思う。それを知ったレベルの低いメンバーが、よせばいいのにユート君につっかかっていったのよね。
確かあの時は3人だっけ。あ、噂をすれば。
「マリアちゃん、スーちゃん。後生だからもうその話やめてよ」
返り討ちにされた1人、2年目のシンディちゃんが帰ってきた。
「えらいねー、今日も依頼お疲れ様」
「ちゃんと仕事しないと、またユートに怒られるからね。ライとロイドも、悔しかったみたいで今日も頑張ってるよ」
あの日、掲示板を見ていたユート君に絡んだ3人は、ものの見事に返り討ちにされたっけ。
リザードマンのライは顎を軽く『撫でられて』、人族のロイドは鳩尾を『小突かれて』。人族のシンディちゃんは、首筋に手刀を寸止めされてたっけ。女の子だからかな?
で、その後ユート君は3人に怒鳴ったのよね。
「アンタらギルドに世話になってんだろうが。こんなことする暇があったら仕事しろよ、情けねえ」
「あ、マリアちゃん似てる」
「もう、やめてってば、恥ずかしいなぁ」
「でもユート君は忘れてそうだけどねー」
「あ、それはあるかも」
私たちは顔を見合わせて笑った。やっぱりあの子変よね。
「ねー、何が面白いの?」
そっか、クーちゃんはまだいなかったもんね。きょとんとする顔も可愛いなあ。
「お姉ちゃんが教えてあげるから、クシナダちゃんも教えてくれる?」
シンディちゃんがクーちゃんの頭を撫でる。クーちゃんに聞きたいことって?
「ユートってどんな子がタイプなのかな?」
「……え?」
「あ、私もそれ聞きたいかもー」
……ちょっと2人とも、趣味悪いんじゃない?
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