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 親愛なるルーチェリア…
 明日、私は首切り斧と対峙します……

 日課となっているルーチェリアへの手紙。ここだけを読んだならば何が起こったかとルーチェリアはきっと慌てふためくに違いない。万が一にも聖女であるルーチェリアにはそんな事は起こらないとしても、明日ルーチェリアは斬首刑にでもなるのではないかとも受け取れてしまうから……


 ん!間違っては無いわよね?だって、斧の瘴気に触らなくちゃいけないし…そういう意味では対峙しなければいけないから…


 今までの浄化は自然に湧いた湧水の様な瘴気の塊を浄化したり払ったり…だからあんまり恐怖は感じない。


 けど、今回はなぁ~~


 はぁぁぁと長いため息を吐いて憂鬱な気分を出し切ろうとしても無理な話だ。

「人の怨念とか、呪いとか?そう言うのあったら嫌だなぁ…」


 オカルトは得意では無い…呪われたらどうやって呪いを解けばいいのかも分からない…言うなれば決死の覚悟を持って臨む意気込み行かなければいけない気がする……


「なんだか…遺書みたい……」

 ルーチェリアももちろん緋香子も遺書なんて書いたことはない。ルーチェリアの精神が全てを諦め切っている様な最悪な時にそれを書こうと思った事があるのかも分からないが、心で感じている事はルーチェリアは死を望んではいなかったと言う事だけだ。

「父様に、母様か……」

 もし、明日自分に何かあるかもしれないとしたら、何か書き残しておいた方がいいのだろうか?ルーチェリアの記憶はなく、親子として密接に関わった懐かしい思い出もここまでなかったのに……


 私にも両親がいます…


 緋香子にも、両親がいる。厳格で礼儀に厳しい父に穏やかだけれど世間体にはうるさい母、代々受け継いできたものを次に受け継ぐ事をこよなく望んでいた祖母…思い返してみると鳳路家の面々も愛情豊かな理想の家族には程遠いかもしれない。そして窮屈な伝統やら世間体に緋香子は飽き飽きしていた。
 それでも緋香子の大切な家族にはかわりない……

 ポタリ………

「あれ?」

 書いていた手紙を見つめる視界がいつの間にかぼやけている。香りの良い便箋に書き連ねた文字が落ちてきた水滴で一部滲んでしまった。

「あれ、おかしいな……?」

 ルーチェリアの真っ青な瞳から大粒の涙が後から後から溢れ出てくる。机の上に置いてある小さな鏡台がルーチェリアが泣いている事を教えてくれた。
 









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