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「聖女様方には役割があるのは知っておられますね?」

 レストール神官長が封印している地下神殿から溢れ出た瘴気は聖女の力で押し戻される。漏れ出る瘴気の量や回数は年々増えていると言う。だからこの中央神殿から離れられない聖女もいるそうな。

「私は…何をすれば…」


 聖女として…?ルーチェリアとして…?


「何も…いいえ、まずはお身体を丈夫になさいませ。そして祖国に帰り貴方様が思うままに人々を助けてくだされば十分にございます。」

 聖女はその為に世界各国に遣わされるのだから。

「ここから漏れ出た瘴気はきっと、何処かでまた凝って新たな災いともなるでしょう。聖女ルーチェリア様、ここは私共が抑えますからどうか…どうか、世界をよろしくお願いいたします。」

 真に迫った声色でレストール神官長は深く頭を下げた。それに引き続き、一緒にいたアールストも…

「私に…出来る事ならば喜んで……」

 一生涯土地に縛られる事も、命懸けになることもそれを良し、として前を向く中央神殿の人々…

 
 ルーチェリアならばこう答えたわよね?


 今、緋香子は勝手にルーチェリアの行く末を決めてしまったものも同然だから。元に戻ったとき、もしルーチェリアが聖女なんか嫌だと言ったら取り返しがつかない様な気もするが、緋香子はそれしか答えられなかった…




「貴方も靄を押し戻していますの?」

 数日周囲の聖女の動きを見ていれば自ずとわかってきた事があった。どうして聖女カナールに他の聖女達は声を上げる事ができなかったのか…
 聖女カナールは毎日の日課である中央神殿の見回りと見つけた靄を再度封印の中に押し戻す役割をしていたのだ。聖女カナールの日々の仕事の最中にルーチェリアが出くわした。

「本当にいいご身分で…ものを知らないってどんな感じなのかしら?世の中には年端も行かない幼子の方が貴方様よりは世間を見ていますわよ?」

「幼い子…?」

「嫌だ…!知らないとは言わせませんわ!聖女の力が少しでもあれば、親達は嬉々として端金の謝礼をあてにして神殿に売り込みに来るのよ?それで何も知らないまま儚くなる子だって多いじゃないの!」

「え……子供が…?」

 力があるからって万能じゃない。何も知らない者達ならば余計だろう。そんな子供達まで…?
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