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 不思議なことが起こった。アールストがルーチェリアの身体を抱きしめ出すと、徐々にルーチェリアの身体から発せられる光が落ち着いてくるではないか。

「ルーチェリア様…?」

「アールスト!光が治ってくる!」

「はい…確かに…」

 バッとレストール神官長はルーチェリアの脈を確認する。

「生きている!生きてますよ!アールスト!」

「当たり前です!!死なせてなるものですか!」

 ここで死なせるようならばきっと自分は後を追う。

 光が治って来たルーチェリアの身体をアールストはそっとけれどもしっかりと抱き上げる。
 
「神官長様!早く上階へ行きましょう!回復ができる聖女を寄越してください!」

「承知した!アールスト、聖女ルーチェリアを落とさぬ様にゆっくりと上がって来なさい!」

 治って来たとは言えまだ部屋中に満ちている金の光は地下を移動するのに何の支障もないほど優しい光で足元を照らしてくれた。アールストは両手に伝わるルーチェリアの体温に今までに無いほどの感謝を捧げて来た道を戻ったのだった。

 ルーチェリアが静養に入ってから地下神殿の調査が行われたらしい。しかしアールストはルーチェリアの側を離れなかった為、地下の様子など知りようも無かった。それどころかそんな事はどうでも良いとさえ、今でも思っている。

 ルーチェリア様が全て…

 いつからか心がこんなにも捉えられているとは自分でも気が付かなかったのだ。今まではどんな聖女であったとしても、護り導きこの中央神殿に連れ帰る自信も実力も兼ね揃えていると自負もしてきた。

 けれども、それももう無理だろう。アールストにとってはルーチェリアしか目に入らないとやっと気が付いたのだから。

「貴方が私の全てなのです…ルーチェリア…どうか…どうか…目を覚ましてください…貴方が何者でも構いません。今回の私の失態を手酷く攻めても構いません…どんな罰でも受けますから…ルーチェリア……」

 何度、懇願とも祈りともつかぬ呟きをルーチェリアの寝台の横で唱え続けて来た事だろうか。あまりにも思い詰めすぎて自然に涙が流れ出るのだ。

 暖かな小さな柔らかいルーチェリアの手…握りしめても反応は返ってこないがこの暖かさでどれだけ心が救われることか…

「貴方が逝ってしまったら私は生きてはいませんからね…もう2度と一人では行かせません…!」



















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