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15 使役人の一日

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 一日の仕事はいい目覚めから……主人が起きる数時間前から使役人カイルの仕事は始まっている。一緒のベッドで休んだ後でも、ユリージュの整った寝息を確認しながらカイルはそっとベッドを抜け出す。

 窓を開けて新鮮な空気を入れ、湯を沸かして朝食の準備に、入浴の準備。ユリージュを待たせる事なくスムーズに支度が出来るようにありとあらゆる所に気を遣っている自覚もある。

「こんなものか…」

 準備に納得がいけば、次に主人を起こすのである。
 
 ユリージュは苦労人だ。幼い頃からの不遇で幸せな時間というものを体験せずに独り立ちしなくてはいけなかった。途中、魔術師長スーレやに会ったから今のユリージュがあるのだろうが、出会った後も捨てられない様に必死に何かにしがみついて来た……ユリージュからはそんな印象を受けるのだ。カイルが使役人になった事で一生、絶対、何があってもユリージュを裏切りもしないし、一人にもさせないつもりも自信もあるのだが。未だにユリージュは自覚していない様なところがあるのだ。

 だから今日も、教え込まなければならないだろう。優しく、きつく、ユリージュの心から決してカイルがいなくならない様に。消えない様に。

「ユリ……?」

 すやすやと眠るユリージュの顔はまだまだ幼さの残るもの。色白の頬にははサラサラな黒髪が流れて、長いまつ毛はうっすらと目元に影を落としている。

 いつまでも見飽きない…出来れば目を開けて自分を見てほしいと思ってしまうが、照れもせず、顔を逸らさずそのままの顔を見れるこの時間もカイルにとっては貴重なものだ。

 そっと頬にかかる髪を指で払ってやる。サラサラで指通りのいい髪はいつまでも触っていたくなるような感触で…

「ユリ……」

 起こしたくはないのだが、心を鬼にしてカイルはユリージュの頬に触れる。暖かい…柔らかくてしっとりとしている肌。

「ユリ。」

 今度は耳元で、はっきりとユリージュの名前を呼ぶ。

「……ぅ……ん…」

 流石にここまですればなんとなくユリージュからは反応が返ってきた。

「ユリ、ほら朝だ。起きれるか?」

 頬の手を額に移動して前髪をかき分けながら頭を撫でる。何度も、何度も…

「ん……?」

 ユリージュが身動いでうっすらと目を開ける。

 この瞬間、いつもカイルは思うのだ。どんな時でも目覚めた時には、ユリージュの瞳に一番最初に映りたいと…徐々に見開かれて焦点があってくる金の瞳が、今度は嬉しそうに細められていく…カイルを認め、カイルを見て、喜んでくれるなんて、これだけでももう死んでも良いとさえ本気で思う……

(ユリの中に、俺が全て吸収されるなら、本当に今、死んでも良いな……)

「ユリ…おはよう?目が覚めたか?」

「……ん…?」

 ずっと自分を見てニコニコしているカイルにユリージュは不思議そうな顔をする。
 
 でも、どんな顔でも良い…ユリージュはカイルを拒否せず喜んでくれるんだから。  
 
「あぁ、好きだな、て。思っていた所だ…起きれるか?」

 本当は一番自分がユリージュを起こしたく無いのに、ユリージュの額に口付けながら聞いてみる。

「う、うん……」

 案の定、ユリージュの顔は真っ赤…
赤くなった頬の熱は、一体どれくらいなのだろう?カイルは勿論何度もそれに触れているのに、でも毎回欲しくなる。

 触れても触れても何度でも………

「ん……カイ…ル……」

 気がつけばほんのりと赤みが差しているユリージュの唇を深く貪っている自分がいる。ユリージュの抗議の声を聞いて気がつくのだから自分の自制心はほとんどあてには出来ないな、などと思いながらカイルは一通りユリージュを味わってから、やっと解放した。

「もぅ……!もう、カイル!朝から、何するんだよ!」

 半泣きの涙目で言われても、色っぽいとか、可愛いとかの感想しか出てこないのだけど、これでもユリージュは必死に抗議しているつもりだ。

 幼い時に両親からの優しさも兄弟や友達との喧嘩も経験してこなかったユリージュには人から嫌われる事が最大の恐怖の様で、カイルに対しても思い切りぶつかっては来ない。どこかまだ遠慮があって、まだ他人行儀……

(俺はお前ユリージュの使役物の一つなんだけどな……お前が消えろと言ったら、この体はすぐに霧散するはずだ…俺の主人はお前で、俺には何も遠慮は要らないのに…)

 何度言っても変わらぬそんなユリージュに対して少し寂しくて、今日も変わらずに狂おしいほど愛おしい……















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