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さらに数日後。
Aランクダンジョン【トーメント・フォートネス】の攻略後、町に戻ってきた俺とイネスはすぐその違和感に気付いた。
町全体が、何やらざわついているのだ。
「何か起きたのか?」
「あんまり、よさそうな感じはしないね」
俺たちが周囲を警戒していた、その直後だった。
町全体に響くほどの音量で、通信魔法が響き渡る。
『スタンピードが発生しました。スタンピードが発生しました。一般の方は直ちに中央広場に避難し、冒険者の方はギルドに集合してください。繰り返します。スタンピードが発生しました。スタンピードが――』
「……なるほど、そういうことか」
スタンピードとは大量の魔物が一斉に襲来する現象だ。
この都市のように、ダンジョンが多い地域ではよくあること。
今の通信魔法から察するに、ギルドに集まった冒険者たちによって防衛戦を行うのだろうが……問題は俺たちがどう動くかだ。
俺はともかく、イネスのことを思えば下手に目立つのは避けたい。
他の冒険者たちで解決できるようなら、任せてしまうのが一番だが――
「シモン、早くギルドに急ごう!」
当人であるイネスは、防衛戦に参加するつもりのようだった。
「いいのか? 今のお前の実力で参加すれば、間違いなく目立つぞ」
「だからって、ただ指をくわえて見てるわけにはいかないよ! この町には、戦えない人もいるんだから……」
甘いと言わざるを得ない考えだが……
「……分かった。なら行くぞ」
「うん!」
いずれにせよ、乗り掛かった舟だ。
最後の瞬間までは彼女の意思を尊重しようと思いながら、俺は冒険者ギルドに向かうのだった。
◇◆◇
――それから数分前。
迷宮都市【トレジャーホロウ】、ある建物の一室。
ブラスフェミー家、現当主の兄。
フール・ブラスフェミーは、頭を押さえながら盛大に苛立っていた。
ことの始まりは数日前。
部下からハーフエルフを見つけ、捕えるために追っていると連絡があった。
ところが突如として、彼らとの連絡が途絶えてしまった。
それ以降、部下たちが戻ってくることはない。
「まさか裏切って、自分たちのものにしやがったのか? いや、ありえねえ。アイツらは俺様が誰か、十分に理解してるはずだ」
フールはそう呟きながら、歯噛みする。
そんな時、一人の部下が館に戻ってきた(ハーフエルフを追っていた集団とは、また別の部下)。
何やら慌てた様子で息を切らしている。
(コイツには何も指示を出していなかったはずだが、何かあったのか……?)
眉をひそめるフールに対し、部下は告げる。
「フールさん、報告があります! さっきまで【トーメント・フォートネス】を探索していたんですが、その最深部で興味深いものを見つけまして。フールさんが以前から気にされていた新人冒険者……シモンでしたっけ? ソイツがなんと、ボスを討伐していたんです!」
「……なんだと?」
想定していなかった言葉に、フールは驚きを露わにした。
シモンといえば、レベル44の分際で生意気な態度を取ってきた底辺冒険者。
どこかのタイミングで痛めつけてやろうと考えていたのだが――そんな奴が、Aランクダンジョンを攻略しただと?
納得いかない気分で、フールは尋ねる。
「それは本当か? 以前に訊いた話によりゃ、アイツはその辺りにダンジョンを出たり入ったりするだけの、どうしようもねぇ雑魚だったはずだ。そんな奴が一人でボスを倒せるはずが――」
「あっ、ち、違います! シモンもいたんですが、それ以外にももう一人いて……実際にボスを倒しているのはそっちの方でした!」
「――チッ! ややこしいこと報告してんじゃねぇ!」
「がはっ!」
部下を蹴り飛ばしたのち、フールはそのまま尋ねる。
「で、そのもう一人ってのはどんな奴なんだ?」
「そ、それが、フードで顔を隠していて……背丈からして、恐らく女なんじゃないかとは思うんですが……」
「チッ、どこまでも使えねぇ」
吐き捨てながら、フールは改めてシモンの情報を整理し始めた。
まとめると、やはりシモンが雑魚であることは間違いない。
Aランクダンジョンの最深部にいたのも、その実力者に寄り掛かっていただけだろう。
あの日、フールに対して生意気な態度を取ったのも、後ろ盾があったからだと考えれば説明がつく。
「あの野郎、いつまで経っても死なねえと思っていたら、そんな卑怯な手を使ってやがったのか……ムカつくぜ」
そして思い出すのは、シモンから受けた屈辱。
勘違いだったとはいえ、シモンは雑魚の身で自分をビビらせた。
これは重罪だ。到底許せることではない。
「ハッ、決めたぜ。あのクソ生意気なガキは見つけ次第、俺様がこの手で――」
ハーフエルフを逃したことと合わさって、フールのフラストレーションが最高潮に達しようとした――その瞬間だった。
『緊急放送。緊急放送。スタンピードが発生しました。一般の方は直ちに中央広場に避難し、冒険者の方はギルドに集合して――――』
そんな音声が鳴り響く。
どうやら、魔物の集団が町に向かってきているようだ。
「スタンピードっすね。どうしますフールさん、いきますか?」
「……そうだな」
フールのレベルは941。
この都市が誇るトップ冒険者たちがクランとなり大迷宮を攻略している今、残された冒険者の中では上位の実力者。
素直に向かえば、面倒な役割を任されることだろう。
普段ならスルーしてしまうところだが、今日に限ってはフラストレーションが溜まっている。
雑魚相手に、鬱憤を晴らしたい気分だった。
「よし、いくぞ。てめぇらもついてこい」
「「はいっ!」」
ギルドに移動するフール一行。
そこでフールは、想定外な事態に遭遇することとなった。
ギルドには既に大量の冒険者が集まっており、なんとその中にはシモンと、フードを被った女がいたのだ。
どうやら部下の報告は正しかったらしい。
(はっ、さすが俺様は運がいい! このチャンスを逃してたまるか!)
スタンピードの解決自体は大した問題ではない。
それよりも今は、雑魚の分際で調子に乗るアイツに恨みをぶつけてやる方が優先だった。
フードの女に関しては、少なくともAランクダンジョンを攻略できるだけの実力者みたいだが……それでも、間もなくSランクに到達する自分の相手ではない。
それがもし、魔物と戦闘中に横から攻撃されたとなればなおさらだ。
(そうだ、いい案を閃いたぞ)
この後、スタンピードに当たるためのグループが複数作られることになる。
実力者である自分は、間違いなくその一つのリーダーに選ばれるだろう。
その立場を利用してやればいい。
「おい、そこのお前」
「えっ? は、はい!」
フールは受付嬢の一人を捕まえ命令を出す。
自分がリーダーを務める代わりに、あの2人を同じグループにしろと。
フールが何者かを知っているコイツなら、素直に応じてくれるはずだ。
実際、受付嬢は何かに勘付いたような表情を浮かべながらもコクコクと頷く。
勝利を確信したフールは、口元を大きく歪ませた。
(覚悟しやがれ! 防衛中の隙を狙って、俺様がテメェらをぶっ殺してやる!)
Aランクダンジョン【トーメント・フォートネス】の攻略後、町に戻ってきた俺とイネスはすぐその違和感に気付いた。
町全体が、何やらざわついているのだ。
「何か起きたのか?」
「あんまり、よさそうな感じはしないね」
俺たちが周囲を警戒していた、その直後だった。
町全体に響くほどの音量で、通信魔法が響き渡る。
『スタンピードが発生しました。スタンピードが発生しました。一般の方は直ちに中央広場に避難し、冒険者の方はギルドに集合してください。繰り返します。スタンピードが発生しました。スタンピードが――』
「……なるほど、そういうことか」
スタンピードとは大量の魔物が一斉に襲来する現象だ。
この都市のように、ダンジョンが多い地域ではよくあること。
今の通信魔法から察するに、ギルドに集まった冒険者たちによって防衛戦を行うのだろうが……問題は俺たちがどう動くかだ。
俺はともかく、イネスのことを思えば下手に目立つのは避けたい。
他の冒険者たちで解決できるようなら、任せてしまうのが一番だが――
「シモン、早くギルドに急ごう!」
当人であるイネスは、防衛戦に参加するつもりのようだった。
「いいのか? 今のお前の実力で参加すれば、間違いなく目立つぞ」
「だからって、ただ指をくわえて見てるわけにはいかないよ! この町には、戦えない人もいるんだから……」
甘いと言わざるを得ない考えだが……
「……分かった。なら行くぞ」
「うん!」
いずれにせよ、乗り掛かった舟だ。
最後の瞬間までは彼女の意思を尊重しようと思いながら、俺は冒険者ギルドに向かうのだった。
◇◆◇
――それから数分前。
迷宮都市【トレジャーホロウ】、ある建物の一室。
ブラスフェミー家、現当主の兄。
フール・ブラスフェミーは、頭を押さえながら盛大に苛立っていた。
ことの始まりは数日前。
部下からハーフエルフを見つけ、捕えるために追っていると連絡があった。
ところが突如として、彼らとの連絡が途絶えてしまった。
それ以降、部下たちが戻ってくることはない。
「まさか裏切って、自分たちのものにしやがったのか? いや、ありえねえ。アイツらは俺様が誰か、十分に理解してるはずだ」
フールはそう呟きながら、歯噛みする。
そんな時、一人の部下が館に戻ってきた(ハーフエルフを追っていた集団とは、また別の部下)。
何やら慌てた様子で息を切らしている。
(コイツには何も指示を出していなかったはずだが、何かあったのか……?)
眉をひそめるフールに対し、部下は告げる。
「フールさん、報告があります! さっきまで【トーメント・フォートネス】を探索していたんですが、その最深部で興味深いものを見つけまして。フールさんが以前から気にされていた新人冒険者……シモンでしたっけ? ソイツがなんと、ボスを討伐していたんです!」
「……なんだと?」
想定していなかった言葉に、フールは驚きを露わにした。
シモンといえば、レベル44の分際で生意気な態度を取ってきた底辺冒険者。
どこかのタイミングで痛めつけてやろうと考えていたのだが――そんな奴が、Aランクダンジョンを攻略しただと?
納得いかない気分で、フールは尋ねる。
「それは本当か? 以前に訊いた話によりゃ、アイツはその辺りにダンジョンを出たり入ったりするだけの、どうしようもねぇ雑魚だったはずだ。そんな奴が一人でボスを倒せるはずが――」
「あっ、ち、違います! シモンもいたんですが、それ以外にももう一人いて……実際にボスを倒しているのはそっちの方でした!」
「――チッ! ややこしいこと報告してんじゃねぇ!」
「がはっ!」
部下を蹴り飛ばしたのち、フールはそのまま尋ねる。
「で、そのもう一人ってのはどんな奴なんだ?」
「そ、それが、フードで顔を隠していて……背丈からして、恐らく女なんじゃないかとは思うんですが……」
「チッ、どこまでも使えねぇ」
吐き捨てながら、フールは改めてシモンの情報を整理し始めた。
まとめると、やはりシモンが雑魚であることは間違いない。
Aランクダンジョンの最深部にいたのも、その実力者に寄り掛かっていただけだろう。
あの日、フールに対して生意気な態度を取ったのも、後ろ盾があったからだと考えれば説明がつく。
「あの野郎、いつまで経っても死なねえと思っていたら、そんな卑怯な手を使ってやがったのか……ムカつくぜ」
そして思い出すのは、シモンから受けた屈辱。
勘違いだったとはいえ、シモンは雑魚の身で自分をビビらせた。
これは重罪だ。到底許せることではない。
「ハッ、決めたぜ。あのクソ生意気なガキは見つけ次第、俺様がこの手で――」
ハーフエルフを逃したことと合わさって、フールのフラストレーションが最高潮に達しようとした――その瞬間だった。
『緊急放送。緊急放送。スタンピードが発生しました。一般の方は直ちに中央広場に避難し、冒険者の方はギルドに集合して――――』
そんな音声が鳴り響く。
どうやら、魔物の集団が町に向かってきているようだ。
「スタンピードっすね。どうしますフールさん、いきますか?」
「……そうだな」
フールのレベルは941。
この都市が誇るトップ冒険者たちがクランとなり大迷宮を攻略している今、残された冒険者の中では上位の実力者。
素直に向かえば、面倒な役割を任されることだろう。
普段ならスルーしてしまうところだが、今日に限ってはフラストレーションが溜まっている。
雑魚相手に、鬱憤を晴らしたい気分だった。
「よし、いくぞ。てめぇらもついてこい」
「「はいっ!」」
ギルドに移動するフール一行。
そこでフールは、想定外な事態に遭遇することとなった。
ギルドには既に大量の冒険者が集まっており、なんとその中にはシモンと、フードを被った女がいたのだ。
どうやら部下の報告は正しかったらしい。
(はっ、さすが俺様は運がいい! このチャンスを逃してたまるか!)
スタンピードの解決自体は大した問題ではない。
それよりも今は、雑魚の分際で調子に乗るアイツに恨みをぶつけてやる方が優先だった。
フードの女に関しては、少なくともAランクダンジョンを攻略できるだけの実力者みたいだが……それでも、間もなくSランクに到達する自分の相手ではない。
それがもし、魔物と戦闘中に横から攻撃されたとなればなおさらだ。
(そうだ、いい案を閃いたぞ)
この後、スタンピードに当たるためのグループが複数作られることになる。
実力者である自分は、間違いなくその一つのリーダーに選ばれるだろう。
その立場を利用してやればいい。
「おい、そこのお前」
「えっ? は、はい!」
フールは受付嬢の一人を捕まえ命令を出す。
自分がリーダーを務める代わりに、あの2人を同じグループにしろと。
フールが何者かを知っているコイツなら、素直に応じてくれるはずだ。
実際、受付嬢は何かに勘付いたような表情を浮かべながらもコクコクと頷く。
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