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080 一夜の
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俺は無言で、イネスを部屋に招き入れた。
寝間着姿の彼女を見て、何か言葉をかけるべきだとは思ったが、適切な言葉が見つからない。
結局、俺はただベッドに横になり、イネスを隣に寝かせるだけだった。
一つのベッドに二人で横たわる。
だが、お互いに背中を向け合ったまま。
部屋には気まずい空気が流れていた。
沈黙が続く中、俺は我慢できずに口を開く。
「……で? どうしてこんな夜更けに、俺の部屋に来たんだ?」
その問いかけに、イネスはしばらく黙ったままだった。
諦めかけた頃、ようやく彼女の声が聞こえてくる。
「その……明日からシモンと別れ別れになるって、何だかまだ信じられなくて……」
小さな、弱々しい声。
いつもと違う彼女の様子に、俺は戸惑いを覚える。
「だから、せめて今夜だけでも……シモンの傍にいたかったの」
そこまで言うと、イネスは再び黙り込んでしまった。
俺もどう返せばいいのか分からない。
結局、沈黙が再び部屋を支配する。
「シモン」
どれくらい時間が過ぎただろうか。
彼女は透き通るような声で、静かに俺を呼びかける。
「わたし、シモンに出会えて本当に良かった。あの日シモンに助けられなかったら、わたしはどうなっていたか……考えるだけで、怖くなる」
イネスの声が、少し震えている。
俺は黙ったまま、彼女の言葉に耳を傾ける。
「でもシモンのおかげで、わたしは今ここにいる。シモンと一緒に冒険して、たくさんの経験ができた。時には辛いこともあったけど……でも、楽しいことの方が何倍も多かった」
イネスは俺の背中に、そっと額を押し当てる。
まるで、俺の温もりを確かめるかのように。
「……ありがとう、シモン。私を助けてくれて、私を強くしてくれて……何より、私のことを信じてくれて。シモンと出会えて、シモンと一緒にいられて……私、本当に幸せだった」
イネスは「だから」と言葉を紡ぐ。
「これからは、一人でも頑張って見せるから……」
そこまでを言い切ったイネスは、ゆっくりと眠りに落ち、すぅすぅと寝息を立て始めた。
今日の出来事が出来事だっただけに、疲労が限界まで溜まっていたのだろう。
「……ああ」
俺はそう頷きながら、これまでのことを思い出していた。
ダンジョンでの出会い、そして今日に至るまでの数々の冒険。
こんな風に誰かと一緒に旅をするなんて、想像もしていなかった。
このまま彼女と同じ時間を過ごせば、平穏な日常が送れるのかもしれない。
だが――否、だからこそ。
俺はその選択をするわけにはいかなかった。
あの地獄から這い上がる原動力となったこの復讐心を満たしきる日まで、立ち止まるわけにはいかないからだ。
確かにイネスと出会ってから、幾つか懐かしい感情が沸きあがることがあった。
けれどそれが逆に、俺が決意を固めるきっかけとなった。
……だけど、せめて今くらいは。
「……おやすみ、イネス」
そう言い残し、俺も静かに目を閉じた。
明日からはまた、一人での旅が始まるのだろう。
そんなことを考えながら、俺もゆっくりと眠りに落ちていった。
まるで、全てを忘れるかのように。
寝間着姿の彼女を見て、何か言葉をかけるべきだとは思ったが、適切な言葉が見つからない。
結局、俺はただベッドに横になり、イネスを隣に寝かせるだけだった。
一つのベッドに二人で横たわる。
だが、お互いに背中を向け合ったまま。
部屋には気まずい空気が流れていた。
沈黙が続く中、俺は我慢できずに口を開く。
「……で? どうしてこんな夜更けに、俺の部屋に来たんだ?」
その問いかけに、イネスはしばらく黙ったままだった。
諦めかけた頃、ようやく彼女の声が聞こえてくる。
「その……明日からシモンと別れ別れになるって、何だかまだ信じられなくて……」
小さな、弱々しい声。
いつもと違う彼女の様子に、俺は戸惑いを覚える。
「だから、せめて今夜だけでも……シモンの傍にいたかったの」
そこまで言うと、イネスは再び黙り込んでしまった。
俺もどう返せばいいのか分からない。
結局、沈黙が再び部屋を支配する。
「シモン」
どれくらい時間が過ぎただろうか。
彼女は透き通るような声で、静かに俺を呼びかける。
「わたし、シモンに出会えて本当に良かった。あの日シモンに助けられなかったら、わたしはどうなっていたか……考えるだけで、怖くなる」
イネスの声が、少し震えている。
俺は黙ったまま、彼女の言葉に耳を傾ける。
「でもシモンのおかげで、わたしは今ここにいる。シモンと一緒に冒険して、たくさんの経験ができた。時には辛いこともあったけど……でも、楽しいことの方が何倍も多かった」
イネスは俺の背中に、そっと額を押し当てる。
まるで、俺の温もりを確かめるかのように。
「……ありがとう、シモン。私を助けてくれて、私を強くしてくれて……何より、私のことを信じてくれて。シモンと出会えて、シモンと一緒にいられて……私、本当に幸せだった」
イネスは「だから」と言葉を紡ぐ。
「これからは、一人でも頑張って見せるから……」
そこまでを言い切ったイネスは、ゆっくりと眠りに落ち、すぅすぅと寝息を立て始めた。
今日の出来事が出来事だっただけに、疲労が限界まで溜まっていたのだろう。
「……ああ」
俺はそう頷きながら、これまでのことを思い出していた。
ダンジョンでの出会い、そして今日に至るまでの数々の冒険。
こんな風に誰かと一緒に旅をするなんて、想像もしていなかった。
このまま彼女と同じ時間を過ごせば、平穏な日常が送れるのかもしれない。
だが――否、だからこそ。
俺はその選択をするわけにはいかなかった。
あの地獄から這い上がる原動力となったこの復讐心を満たしきる日まで、立ち止まるわけにはいかないからだ。
確かにイネスと出会ってから、幾つか懐かしい感情が沸きあがることがあった。
けれどそれが逆に、俺が決意を固めるきっかけとなった。
……だけど、せめて今くらいは。
「……おやすみ、イネス」
そう言い残し、俺も静かに目を閉じた。
明日からはまた、一人での旅が始まるのだろう。
そんなことを考えながら、俺もゆっくりと眠りに落ちていった。
まるで、全てを忘れるかのように。
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