いつかサクラの木の下で…… -乙女ゲームお花畑ヒロインざまぁ劇の裏側、ハッピーエンドに隠されたバッドエンドの物語-(アルファ版)

やみなべ

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第3章

⑨.アイエエエ!?ゴブリン!?ゴブリンナンデ!?(side:ローイン)

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「アイエエエ!?ゴブリン!?ゴブリンナンデ!?」

 ローインは困惑気味に問い返した。無意識につい倭国由来の古文書にもそう書かれている口調忍殺語をまねてしまうほどの困惑気味に問い返した。

 困惑は当然だろう。ゴブリンは見かけ次第即座に退治される。
 特にエクレアが住むアトリエ周辺は念入りに……
 エクレアが狙われないよう、徹底して退治されている。
 常識で考えれば大群なんて現れないはずだが……

「検証なんて後まわしだ!!今はエクレアが大群の中に一人取り残されたという事実だけで十分!!すぐ助けに行く、異論はないな!!?」

 ランプの言葉にはっと気づく。
 今はあれこれ考えてる場合じゃないっとローインは頭を切り替える

「異論はない。いろいろ疑問あるけど今はエクレアちゃんへの救援を優先しようか。薬は大物用だけど換装はしないよ」

 そう言いながらローインはランプに合わせた用途の薬を詰め込んだポケッシュを渡す。
 その間にトンビは気を利かせてか、モモちゃんにぬれタオルを渡していた。

「モモは後でいい、呼吸を整えたらギルドにいってギルド長か厨房のおやっさんに伝えて来い。すぐに手練れを集めてこっちへよこしてくれるはずだ。俺たちは先行としてすぐ向かうぞ!!」

「ゲホゲホ……お、お兄ちゃん。あの……」

 濡れタオルで鼻や目に継続ダメージを与えていた目潰しを拭きとって、少しはマシになったモモちゃん。

 これからエクレアを助けにいく兄たちをどんな言葉で送り出せばいいか……

 こういう時は何を言うべきか……

 どういって送り出せばいいか……

 そんな事を考えてる節があるも、ローイン含む3人は何も待っていた。
 急ぎたい気持ちはなくもないが、これぐらいの時間のロスぐらいはエクレアも許してくれるっと思って待ったのだ。

 そうしてせかすことなく待ったおかげで、モモちゃんも送り出す言葉も決まったようだ。
 その言葉は……



「今日の夜は絶対に…皆で私の誕生日祝おうね。約束だよ。でないと脳天に酒瓶叩きつけちゃうから」


 おそらくエクレアの教えを参考にしたであろう、盛大な死亡フラグ……
 誰かが死ぬフラグを予期させる不吉な予言の言葉であった。


「もちろんだとも。皆で妹の誕生日祝うぞ」

「当然」

「わかってるさ。5人で祝うためにも早く片付けよっか」


 この時ローインを含む3人はどこか楽観視していた。

 エクレアは強い。

 荒事の専門家ではないので素はそこまで強いわけではなくとも、『魔人化』によってもたらされる身体能力が半端なかった。

 細かい原理は目下調査中であるも、身体能力の上昇率は並の身体強化とは比較にならない。

 その腕力は振るえば全てが吹っ飛ぶ。
 叩きつけた剣は逆に壊わされる。
 地を蹴れば一瞬で距離を詰められる。

 細かい制御こそできないが、発動させたら目の前の障害を全てねじ伏せる。
 磨き上げた技術も、天賦の才能も、積み重ねた努力も、何もかもを全てねじ伏せる。

 あざ笑うかの如く蹂躙する。


“もう全部あいつ一人でいいんじゃないのか?”


 そう思われるぐらいの強さを持つも彼等は気付いていなかった。


 エクレアは荒事の専門家ではないという意味を……

















……………………



 3人がたどり着いた花畑は地獄絵図だった。
 辺り一面血や贓物が飛び散った地獄が顕現していた。


「エクレアちゃん……どこにいるの?」


 ローインは心の中で思っていた。

 この地獄絵図の中心地には、血にまみれつつもにこやかな顔で笑いながら立っているエクレアがいると思っていた。


“遅かったね。もう全部終わっちゃったよ”

 とか言いながら平然とした顔で迎えてくれて……

“じゃっ、今から恒例のはぎ取りたーいむ。もちろん手伝ってくれるよね”

“魔石だ、魔石をよこせ~ざしゅざしゅびりびりぐしゃーっと”


 地獄の中で笑いながら使えそうな素材の採取を始めると思っていた。



 だが………


「エクレアちゃんは……どこにいるの!!?」


 彼女はいない。

 いなかった。

 その代わりとしてローインがみつけたのは……


「これは………エクレアちゃんのとんがり帽子!?」

 激しい戦闘の途中で落としてしまったであろう魔女のとんがり帽子。

 サイズが合ってないから落とすことはままあっても、すぐに回収されるので放置したまま立ち去るなんてまずありえない。




「これ……エクレアの……靴?」

 ローインに続いてトンビは靴を見つけたようだ。

 血の海に紛れるかのごとく落ちてた靴。

 元からそうであったかのように、血で真っ赤に染まった『赤い靴』


「ま、まさか……だよね?」

 ローインはこみあげてくる不安を抑え込むようにしながら、周囲を探る。
 嘘であってほしいと願いながら探る。

 そうした中……


「ローイン、トンビ………こっちにこい」

 ランプの緊張を含んだ声で呼びかけてきた。
 その声にローインはわずかながらも希望を抱くも……

 希望は潰えた。


「これ……足跡?」

 ローインは確認するかのごとく問いかける。
 数は少ないが何者かの足跡……花畑の丘の外へと進んでいる血の足跡をみながら問いかける。

「ねぇランプ君。これって……まさか、まさかなの?」


 信じられなかった。
 あれだけ強い。『魔人化』すればドラゴンとタイマンして倒してしまうようなエクレアだからこそ信じられない。

 信じたくはなかったが……


 ランプは告げた。

 現地に残された帽子と脱げた靴。

 この場から立ち去る足跡……

 残されたものから合理的に判断した上で告げたのだ。







「エクレアは……さらわれた。ゴブリン達に連れてかれたんだ」













………………………


 エクレアは荒事の専門家ではない。

 どれだけ強くても、戦う術を持っていても彼女は薬師兼錬金術師。

 訓練はともかく実戦では確実に勝てる保証を得てから、安全策を取ってからしか戦わない……

 互いの生存をかけた、本物の戦いというものをほとんど経験してこなかった。



 逆に襲撃してきたゴブリン達は経験豊富であった。

 周囲が天敵だらけの中、彼等は生き延びた。
 常に死と隣り合わせの中で生き延びてきたのだ。

 今回の襲撃もそう。彼等は無傷で済むとは思っておらず、犠牲者が出るのを覚悟していた。

 どれだけの犠牲者を出そうとも、目的だけは達する決死の覚悟を持っていた。


 つまり、エクレアは訓練での磨き上げた技術や天賦の才能や積み重ねた努力をねじ伏せる事は出来ても、実戦での決死の覚悟まではねじ伏せれなかった。

 そうした心構えの違い故に……


 エクレアは足をすくわれて負けたのである。
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