いつかサクラの木の下で…… -乙女ゲームお花畑ヒロインざまぁ劇の裏側、ハッピーエンドに隠されたバッドエンドの物語-(アルファ版)

やみなべ

文字の大きさ
85 / 98
第4章

22.私に名前を付けてください(side:魔王?)

しおりを挟む
「かくかくしかじかっと、私はかつて別世界の『神』でした。世界とそこに住む人々のため献身的に支えて見守ってくれる神に理想像を描き、その道を邁進していた時期もあったのです。
 しかし、私の理想とした神はほんの一部のみ。大半はどうしようもない屑。神同士の醜い足の引っ張り合いや堕落具合、果てには罪悪感もなく見守るべき世界と人々をおもちゃにして遊んでるというのに上は咎めるどころか評価さえする始末。そうした神の有様に嫌気がさしたのです。神の座を降り、名前を捨ててただの魔族、父上と同じ吸血鬼として生きる事にしました。そういう点で貴族社会に嫌気がさして貴族を捨てたマダムとは同類だと思われますが」


「それについては同感ね。上がどうしようもなければワリを食うのは下だっていうのに……」

 一通りの身の内を語った男にスージーも警戒心を解いたらしい。
 ただ、国の中枢に思うところがありすぎるせいか、彼女は片手ではなく両手で顔を覆いながら特大のため息が飛び出た。

 ルリージュも表情こそ変えてないが、所々に精神の揺らぎがあった。どうやら彼女も貴族に悪感情を抱いてるようだ。

(当然か。マダムルリージュは平民でありながら貴族のごたごたに巻き込まれた身。その原因が『神』の指金というのが……まぁ奴は王や貴族達に悪感情を抱くよう仕向けてるわけだし、成果は順調だともいえる証拠か。はぁ……)

 今度は男がため息をついた。
 『神』の権限はとにかく強い。人々の思考を自在に誘導する事も出来るため、世論や思想を容易に操作できる。
 男はこの一週間、エクレアとその身近な者達を調べるつもりが、ルリージュやスージーの過去を通して世界情勢を調べる事になってしまい、気付いてしまったのだ。

 今の国内の情勢は『神』の思惑が大きく働いてる事に……
 

(今の情勢はあれだろうな。内乱を引き起こして国勢を大いに乱し、その隙をつくかの如く『魔王』の襲来。国の終わりを予期させる絶望の中、教会のトップである教皇……『神』の腰ぎんちゃくに成り下がった下衆共が異世界から『勇者』を召喚。『魔王』である私を倒させて教会の権威と神の信仰心をさらにあげる。………いかにも屑が考えそうなシナリオだな)

 男としてはそんな屑シナリオに従う気はない。前までは屑シナリオだろうと契約は契約として仕方ないっと割り切っていたが、そのために犠牲となる者達と交流した事もあって絆されてしまったのだ。
 それに……

(屑シナリオもエクレアの嬢ちゃんというイレギュラーが関われば台無しになるわけだ。冥府の監視下に置かれた彼女を力づくでの排除デリートは出来ないだろうし、もう私が手を下すまでもなく屑シナリオは破綻だな)

 効果のほどはまだ検証が必要だろうが、エクレアがばらまく“狂気”は理を壊す。それすなわち、神が仕込んだであろうシナリオを壊す。どれだけ強い強制力を持ってようとも、あれは難なく壊す。なにせ……エクレアが宿す“狂気”の根源はありとあらゆる“理”を無秩序へと導く“混沌”だ。
 シナリオブレイカーとしては最適な『力』ともとれる。

 ただ……シナリオを潰した後どうなるかは全くの不明。無秩序へと導くだけに、想像を絶するかのような大混乱を生み出す可能性がある。
 下手すれば世界そのものが破滅するという、本末転倒な結果を生みかねない。

(…………さすがにそこまでの事態はならないと思うが、あの嬢ちゃんは感情が高ぶると見境いなくなる傾向がある。衝動を抑えきれずについカッとなって気付けば世界が……っとならないよう、私も私で神のシナリオに対して逆らうための“楔”を打っておくか)


 そう決意した男はスージーを見据える。

 男は理想を追うのを諦めたが、彼女はまだ諦めてなかった。諦めきれてなかった。
 神によって歪められた国の中枢。腐った貴族や王のせいで滅亡へと進む国を正すための手段を今なお模索している。

 そんな彼女なら、今から打ち込む“楔”を有効に扱ってくれると思い、意を決して提案した。


「マダムスージー、私に名前を付けてください」

「名前?なんでまた唐突に」

「吸血鬼を初め魔の種族は契約を重んじる種族。そして『名付け』は強い“絆”を得る神聖な儀式であります」

「……ブーダン・ノワール。通称ブラッドはどうかしら」

 神聖な儀式。その言葉で察した辺り彼女は優秀なようだ。
 もっとも、魔術師であれば『名付け』にどれほど意味があるか、知らない方がおかしいのかもしれないが……
 この世界の魔術師はそれすら知らないほど馬鹿に溢れてる可能性がある。
 神が低レベルなら下々も低レベルになる典型的な例だ。

「ではこれより、私はこの世界でブーダン・ノワール……ブラッド。魔王ブラッドと名乗りましょう。
 私の名前を付けて頂いた貴女には忠誠こそ誓えませんが、“絆”によって一度だけ貴女の『お願い』を聞きましょう。神のシナリオから反逆しましょう」

「そう。じゃぁ……」

 スージーはその一度しかない『お願い』をこの場で決めた。
 その内容は……




「えっと……可能ですが、それでいいのでしょうか?」

「いいのよ。エクレアちゃんをそこまで過保護に扱うのは逆に失礼よ。むしろ、とことんまで突っ走って気が付けば……な可能性の方が高いからこそ、この『お願い』が最適。そうよね、ルリージュ」

「そうね。私もスージーの『お願い』に賛成よ。少なくとも最悪な事態は避けられるわけだし、私も安心して託せられるわ」

「そうですか……ですが、考えようによっては保険として最適かもしれません。通常なら役に立たないながらも、現状考えうる最悪な事態へと陥った時に真価を発揮する『お願い』………いいでしょう。このブーダン・ノワール。時が満ちたら命に賭してもその『お願い』を完遂してみせましょう」


 改めてペコリと紳士の一礼。
 これで契約は終了した。“楔”は打てた。
 果たしてこの“楔”がエクレアの反逆劇にどう作用するかはわからない。


 下手すれば男は排除デリートされるかもしれないが、それならそれでいい。

 その時はエクレアに全てを託すのみ。


 男がかつて抱いた想いとともに……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...