つむぎのそば 〜正庵からつむぎ庵へ〜

東京でOLをしていた竹内紬、三十二歳。父が倒れたという知らせを受け、十年ぶりに別府へ帰省する。集中治療室のベッドで、父・正蔵はひとこと言った。「正庵を継いでくれ」
蕎麦を打ったことなど一度もない。レシピもノートも何も残っていない——父はすべてを頭の中にしまったまま逝ってしまった。
手がかりを求めた紬が出会ったのは、父の元弟子・耕二。別府駅近くで自分の店を構える、無愛想で口の悪い男だった。三度断られても、紬は通い続けた。約束したから。お父さんの手の温かさが、まだ両手に残っていたから。
渋々引き受けた耕二が言う言葉は「感覚だ」の一点張り。でもその言葉の裏には、考え続けた先にしか生まれない本物の技があった。
毎朝七時、厨房に立つ。水回し、こね、休ませ、伸ばし、切り——蕎麦打ちはすべてがつながっている。どこか一つが狂えば全部が狂う。粉と話しながら、手で今日の答えを探しながら、紬は少しずつ父の蕎麦に近づいていく。
常連のおじちゃんたち、親友ひかり、そして不器用な師匠・耕二。別府の温泉の湯気の中で、正庵はつむぎ庵へと生まれ変わる。
蕎麦は正直だ。打った人間の気持ちが、全部出る。
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