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第一章
弟は可愛い 2
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(なんて可愛いのかしら……この子の為にも、わたしが断罪されるわけにはいかないわね)
頭を撫でてもらい、嬉しそうにキラキラ目を輝かせて見上げてくるアルフォンスを見て、決意を新たにする。
「さあ、そろそろ戻りなさい。お母様が待っているでしょう?」
「母上はいいんです。だって母上は、姉上のお見舞いに行っちゃダメだって言ったんですから」
不貞腐れたように言うアルフォンス。
「僕は姉上にお会いしたかったのに! だから母上とは口をきいていないんです」
「アルフォンスったら……それはお母様の気遣いなのよ。体調が悪いわたくしが無理をしないように、というね」
「えー?」
「だから、お母様にそんな態度をとっては駄目よ。さあ、戻って」
「嫌です嫌です! 僕も姉上のお水が欲しいです!」
駄々をこねるアルフォンス。
「……エリザベート様、もしよろしければアルフォンス様にもお水を一杯いただけたら……」
申し訳なさそうに頼んでくる護衛騎士。
「わかったわ。アルフォンス用の入れ物はあるのかしら?」
「はい、ここに」
護衛から銀製のカップを受け取り、手から出した水を縁まで満たした。
「さあ、どうぞ」
「ありがとうございます、姉上!」
アルフォンスは嬉しそうに受け取ると、口元に近づけたが、
「お待ちください、アルフォンス様」
騎士が慌ててカップを抑えた。
「毒見を済ませてからでなくては」
「レジナルド! 毒見なんて必要ない! 姉上に失礼だろう!」
「し、しかし……」
「ああ、ごめんなさい、うっかりしたわ」
困り顔の騎士に助け船を出す。
「レジナルド、といったかしら? 毒見をお願い」
「姉上! そんなの必要ないですよ!」
「いいえ、それが彼の仕事であり、役目なのよ。あなたは大切なスピネル家の跡継ぎなのだから、絶対に間違いがないようにしなければ。その為には例外をつくっては駄目。姉であるわたくしが用意したものでも、きちんと確かめなさい」
「でも……」
「わたくしは全く気にしないわ。アルフォンスが気になるのであれば、そうした方が相手にとっても無実を証明する事になって良い事だと考えるようになさい」
「……はい、姉上」
渋々頷くアルフォンス。
「ご理解いただき感謝致します」
そう言ってレジナルドは、水に小さな紙を入れた。
(へーぇ、リトマス試験紙みたいに、毒が入っていれば色が変わったりするのかしら。わたしもこれから使おうかしら……)
もちろん異常はなく、今度は自身で少し飲んでみるようだ。
(護衛も大変ね……あら?)
毒見は一口でいいはずなのに、そのままゴクゴクと水を飲み続け、
「あーっ! なにやってんだよレジー! なんで全部飲んじゃうんだよー!」
「ハッ! も、申し訳ございません! つい……」
「バカバカ! レジー! お前はクビだ!」
「まあまあ、アルフォンス、そんな事言わないで」
「だって姉上! 姉上が僕に出してくれた水を、レジーが全部っ!」
「水くらいいくらでも出してあげるから」
「エリザベート様、申し訳ございません。ありがとうございます」
「いいのよ。レジナルド、あなたも好きなだけ飲みなさい」
微笑むエリザベートに、レジナルドは背中を丸めて深く頭を下げた。
「……こんなに美味しい水は初めてで……途中で止める事が出来ず」
「そうだろう、そうだろう。お嬢様の水は美味いんだよ。なんかこう、身体にスーッと入っていくんだ」
「この水飲んでしまうと、普通の水は飲みたくなくなってしまって困るんだよなぁ……さあ、こっちにいくらでもあるから飲めよ」
騎士達が笑いながらレジナルドにカップを渡す。
「……本当に美味しい……これを、全てエリザベート様がお一人で?」
「ああ。全部お嬢様が出して下さった水だ」
「……すごい……こんなに大量の、しかも冷たい水を出せるなんて。エリザベート様は、この国でも上位の水魔法の力をお持ちなのでは?」
「えっ? えーと……このくらい誰でも出せるでしょう?」
「いいえ、とんでもない!」
「昔は大量の水を出して戦ったりした人もいたそうですが、今はほとんどいないですよ」
「あら、わたくしも水を武器に戦ったりはできないわよ。ただ、出せるだけ」
そう言いながらも、そういえば……、と思う。
(最初はこんなに出せなかったわよね。やっているうちにたくさん出せるようになってきたけど。うーん、回復・治癒効果があるのは勿論の事、冷温自由自在に大量の水を出せる事も秘密にした方がいいのかしら?)
最近はバスタブのお湯も自分で出している事を思いながら、エリザベートは笑顔で話をうやむやに終わらせた。
頭を撫でてもらい、嬉しそうにキラキラ目を輝かせて見上げてくるアルフォンスを見て、決意を新たにする。
「さあ、そろそろ戻りなさい。お母様が待っているでしょう?」
「母上はいいんです。だって母上は、姉上のお見舞いに行っちゃダメだって言ったんですから」
不貞腐れたように言うアルフォンス。
「僕は姉上にお会いしたかったのに! だから母上とは口をきいていないんです」
「アルフォンスったら……それはお母様の気遣いなのよ。体調が悪いわたくしが無理をしないように、というね」
「えー?」
「だから、お母様にそんな態度をとっては駄目よ。さあ、戻って」
「嫌です嫌です! 僕も姉上のお水が欲しいです!」
駄々をこねるアルフォンス。
「……エリザベート様、もしよろしければアルフォンス様にもお水を一杯いただけたら……」
申し訳なさそうに頼んでくる護衛騎士。
「わかったわ。アルフォンス用の入れ物はあるのかしら?」
「はい、ここに」
護衛から銀製のカップを受け取り、手から出した水を縁まで満たした。
「さあ、どうぞ」
「ありがとうございます、姉上!」
アルフォンスは嬉しそうに受け取ると、口元に近づけたが、
「お待ちください、アルフォンス様」
騎士が慌ててカップを抑えた。
「毒見を済ませてからでなくては」
「レジナルド! 毒見なんて必要ない! 姉上に失礼だろう!」
「し、しかし……」
「ああ、ごめんなさい、うっかりしたわ」
困り顔の騎士に助け船を出す。
「レジナルド、といったかしら? 毒見をお願い」
「姉上! そんなの必要ないですよ!」
「いいえ、それが彼の仕事であり、役目なのよ。あなたは大切なスピネル家の跡継ぎなのだから、絶対に間違いがないようにしなければ。その為には例外をつくっては駄目。姉であるわたくしが用意したものでも、きちんと確かめなさい」
「でも……」
「わたくしは全く気にしないわ。アルフォンスが気になるのであれば、そうした方が相手にとっても無実を証明する事になって良い事だと考えるようになさい」
「……はい、姉上」
渋々頷くアルフォンス。
「ご理解いただき感謝致します」
そう言ってレジナルドは、水に小さな紙を入れた。
(へーぇ、リトマス試験紙みたいに、毒が入っていれば色が変わったりするのかしら。わたしもこれから使おうかしら……)
もちろん異常はなく、今度は自身で少し飲んでみるようだ。
(護衛も大変ね……あら?)
毒見は一口でいいはずなのに、そのままゴクゴクと水を飲み続け、
「あーっ! なにやってんだよレジー! なんで全部飲んじゃうんだよー!」
「ハッ! も、申し訳ございません! つい……」
「バカバカ! レジー! お前はクビだ!」
「まあまあ、アルフォンス、そんな事言わないで」
「だって姉上! 姉上が僕に出してくれた水を、レジーが全部っ!」
「水くらいいくらでも出してあげるから」
「エリザベート様、申し訳ございません。ありがとうございます」
「いいのよ。レジナルド、あなたも好きなだけ飲みなさい」
微笑むエリザベートに、レジナルドは背中を丸めて深く頭を下げた。
「……こんなに美味しい水は初めてで……途中で止める事が出来ず」
「そうだろう、そうだろう。お嬢様の水は美味いんだよ。なんかこう、身体にスーッと入っていくんだ」
「この水飲んでしまうと、普通の水は飲みたくなくなってしまって困るんだよなぁ……さあ、こっちにいくらでもあるから飲めよ」
騎士達が笑いながらレジナルドにカップを渡す。
「……本当に美味しい……これを、全てエリザベート様がお一人で?」
「ああ。全部お嬢様が出して下さった水だ」
「……すごい……こんなに大量の、しかも冷たい水を出せるなんて。エリザベート様は、この国でも上位の水魔法の力をお持ちなのでは?」
「えっ? えーと……このくらい誰でも出せるでしょう?」
「いいえ、とんでもない!」
「昔は大量の水を出して戦ったりした人もいたそうですが、今はほとんどいないですよ」
「あら、わたくしも水を武器に戦ったりはできないわよ。ただ、出せるだけ」
そう言いながらも、そういえば……、と思う。
(最初はこんなに出せなかったわよね。やっているうちにたくさん出せるようになってきたけど。うーん、回復・治癒効果があるのは勿論の事、冷温自由自在に大量の水を出せる事も秘密にした方がいいのかしら?)
最近はバスタブのお湯も自分で出している事を思いながら、エリザベートは笑顔で話をうやむやに終わらせた。
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