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1話

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このベイル王国では、国民が10歳になると魔力測定が行われる。
以前は貴族のみが魔力持ちと言われていたが、まれに平民でも魔力を持つ者が居る事が判明し、10年程前から始まった。

何でも、神殿所有の水晶玉に魔力持ちが手を翳すと光を発するらしく、その光にも種類があって、火属性は赤く、水属性は青く輝く。

でも、そう簡単に魔力持ちが居るわけは無く、私は3歳からこのイベントを7回は見ていたけれど、未だに水晶玉が光るのを見たことはない。
私の父母は子供の頃に赤く光る水晶玉を見たことがあるらしく、その時の話を何度も興奮して聞かせてくれた。
 
1年に一度この田舎町に神官、魔術師、騎士がやって来る魔力測定はちょっとしたお祭り騒ぎになる。

神々しい髭のおじいさん神官に、黒いローブを纏ったミステリアスに見える魔術師、鍛え上げられた見事な体にぴったりサイズの黒っぽい騎士服姿の格好良い騎士様は現実離れしていて、ワクワクしてしまう。

そして、3ヶ月前に10歳になったパン屋の娘である私ルルは魔力測定を受ける年になった。

ドキドキドキ ワクワクワク 

15人程の最後尾に並んだ私は、緊張とよく分からない期待にいっぱいいっぱいで、水晶玉にそっと触れた。

途端、光った!

眩しいほどの青い光を放ったと思ったら、緑、黄色、赤と変化し、最後にほんのりと柔らかい金色に変化した。
気がする。

正確に言えば、私はどうやら倒れたようだった。

目を覚ますと、自宅のベッドに寝ていた。
頭が混乱して、訳が分からなかった。
確か、水晶玉が光ったような・・・・・・
夢だったのか。とぼんやりしていると、母が抱きついてきた。

「ルル!良かった」

「お母さん、私、あの、魔力測定・・・」

「そう。測定の途中で倒れたのよ」

ぎゅーっと抱きしめてくる。

「痛いところはない?大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。ただ、ちょっとぼーっとしちゃって」

力がこもった気がして、ふと顔を上げると、父が母の上から包み込むように抱きしめてくれていた。



しばらくすると、おじいさん神官とミステリアスな魔術師が私の狭い部屋に入って来て、
水晶玉が色々な色に光ったこと。
それはもの凄いこと。
だと、子どもである私にゆっくりと教えてくれた。

おじいさん神官、ミステリアス魔術師、格好良い騎士様御一行は2日経ってもまだ田舎町に居るようだった。
父と大人の話をしたり、ミステリアス魔術師はよく私の所に現れては、他愛も無い話をしていく。

そして魔力測定から3日後、父と母から膨大な魔力と魔法の適性がある私は王都で魔法をしっかりと勉強するのが望ましいと、王都行きを提案された。
実際のところ、魔力がある平民は王都で教育を受ける事が義務付けられているのだけれど。

それは幼いながらに私にも分かっていた。
父母が子どもの頃に見た、水晶玉が赤く光った子の話を聞いていたから。
その子が王都に行って魔法の仕事をして町に戻って来ないのを知っていたから。
 
そして数日後、私はよそ行きのワンピースを着て王都へ向けて出発した。
父も母も泣いていた。
でも、きっと大丈夫。
母のお腹が最近あたたかくて、キラキラしていたから。
新しい生命を感じたから。 
私が、お腹にも向かってお別れすると2人は驚いていて、魔術師さんは私を見て頷いていた。

生まれて初めて乗る立派な馬車にドキドキしながら、私は父から貰ったパンの袋をずっと抱きしめていた。

馬車に乗って3日経ち、父に貰ったパンがとうとう最後の1つになった。 夕日の見える丘での休憩中、私は草原に座ってもうすぐ無くなるパンを見て悲しくなった。お父さん、お母さんに会いたかった。

しばらく泣いていると、カサカサっと音がして、誰かが横に座ってきた。
その人は私にハンカチを差し出してきたので、私はお礼を言って涙と鼻水を拭いた。

落ち着いてきた私は、ハンカチのお礼もかねて最後の1つのパンを半分にして隣に座った方に渡した。

「少し硬くなっちゃったけど、うちのパンは3日はいけるから。どうぞ」

クックックッと笑ったその人は、格好良い騎士様だった。
ありがとうと言って、パンに齧り付いた。

「うん。美味い」

私もちびちびと食べ始めた。
食べ終えると、騎士様は私の頭を優しく撫でてて、微笑んだ。

「もうすぐ出発だから、馬車に戻るんだよ」

黒い髪がサラッとなびき、綺麗な緑の瞳にドキッとしてしまった。  
立ち去った騎士様を振り返り、私はパンの袋の代わりにハンカチを抱きしめた。



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