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本編 リディア編
第五十九話 心は決まった!?
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「ど、どうした!?」
ぼろぼろと一度零れ出した涙は止まらなくなってしまった。
「お、お嬢様!」
「お嬢!」
マニカとオルガも横で心配をしている。
ラニールさんは撫でていた手がビクッとし、おろおろし出した。
その姿が可愛く見え涙は零れるがクスッと笑った。
「お、お前な、泣くのか笑うのかどっちだ」
ラニールさんに頭をガシッと掴まれ、グリグリと撫でられた。髪の毛ぐしゃぐしゃ。
「フフ、ごめんなさい。ありがとうございます」
マニカが渡してくれたハンカチで涙を拭いながらラニールさんを見た。
「あー、大丈夫か?」
「はい、突然泣いたりしてすいませんでした」
ラニールさんは自身の頭をガシガシと掻くと、片手をそっと私の背に当てゆっくりと上下に擦った。
「その、何だ……、言いたくないことなら無理には聞かないが……、言いたくなったらいつでも来い。俺が聞いてやるから。お前は色々頑張り過ぎだ」
背中を擦りながら、少し照れくさそうにラニールさんは言った。
やはり優しい人たち。
「リディア」はきっと戻って来たら絶対二度と人生を入れ替えたいなんて思わないはず。
あの零れ出した涙と共に分かってしまった……。
私はこの世界の人たちが大好きだ。
恐らくシェスのことも好きなのだ……。
今まで、好きになってはいけないと考えていた。
でもそれももう無理だ。
いくら自身で否定しても惹かれてしまっていたのだから。
元に戻ればこの世界の人たちには二度と会えない。
シェスには「リディア」がいる、あの不器用な優しさも、はにかむ笑顔も「リディア」のものだ。
そう考えただけで涙が零れ落ちる程、私はシェスと離れたくないと願ってしまった。
でも……、好きだけど……、私は離れる……。
だって私はこの世界の人間ではない。本来いるべき「リディア」がいなければ。
皆を騙していることに変わりはないもの。
この世界に「カナデ」はいらない。
「ラニールさん、大好きです」
「はっ!? な、何だ急に!!」
ラニールさんがこれでもかというくらい目を見開き、顔を真っ赤にした。
マニカやオルガも驚きの表情。さらには厨房の人たちまで何事だ、とばかりに出て来た。
「フフ、ラニールさんも皆さんもマニカとオルガも、今いないみんなも大好き」
何だ、と皆は小さく溜め息を吐き、そして皆苦笑していた。
「本当ですよ? ルーもイルも魔獣研究所のみんな、ゼロやフィンも、薬物研究所のみんなも、騎士団のみんなも……」
シェスと、ディベルゼさんもギル兄も。
「みんな大好きなんです」
「あ、あぁ、分かった分かった。今日はどうしたんだ?」
ラニールさんはいつもと違う様子にまだ少し心配をしてくれている。
「いつかまた聞いてください」
「ん? あ、あぁ」
何だか良く分からんが、とラニールさんは不審そうだったが、しかしそれ以上は聞いてこなかった。
ありがとう、ラニールさん。
聞いてくれようとしてくれて。聞かずにいてくれて。
いつか最後に本当のことが言えたら良いな。それでちゃんとお別れを言えたら良いな。
「お嬢様……」
マニカは恐らく察したのだろう、この中で一番心配そうにしてくれている。
「マニカ、マニカもありがとうね。大丈夫だから」
大丈夫だと言ってもマニカはやはり心配してくれるのだろう。ごめんね、巻き込んで。
「さて! ではお菓子作りを始めますか!」
零れ落ちていた涙を拭うと、もう涙は乾いていた。
皆を好きになったことを後悔したくない。
最後まで楽しく過ごすのよ! 目一杯楽しく!
シェスとも……、離れても後悔がないように。
「この状態でお菓子作りするのか!?」
急に気合いを入れた私に驚いたラニールさんが声を上げた。
「しますよ! しないと! 時間もあまりないですし……」
「?」
少し尻すぼみになり、ラニールさんがまた心配そうな顔。しまった。
「いえ、何でもありません! お菓子作りしたいんです。駄目ですか?」
「いや、駄目な訳はないが……本当に大丈夫か?」
「えぇ」
「分かった」
そう言うとラニールさんは厨房に促した。
あれやこれやと見守っていた料理人たちも再び仕事に戻っていた。
マニカは悲痛な面持ちのまま後に続いた。
「さて、じゃあ何から始めるかな。とりあえず選別したハーブやらを見るか?」
「そうですね」
ラニールさんは保存してあったハーブや果物を出して来た。
「保存出来るように大体は加工してある」
そう言いながら、ラニールさんは出して来たものを一つずつ説明をしてくれた。
甘みが強いものや酸味が強いもの、甘みの中に酸味や苦味が混ざるもの、清涼感のあるものや、渋みのあるもの、等、全て何かしらの加工がなされている。
水出し、煮出し、焼いてあったり、乾燥させてあったり、と様々だ。
そのハーブや果物に合った方法で加工されている。
「わぁ、ラニールさん、本当に凄いですね……ありがとうございます!」
しばらく任せきりの間にこんなにもたくさんのハーブを加工してくれていた。
「あー、まあ、俺も好きでやっていたからな」
少し照れくさそうにラニールさんは言った。
「フフ、本当にありがとうございます。では、これをどんなお菓子と合わせるか、ですよね」
「あぁ、まあ最初はやはりクッキーやパウンドケーキが無難じゃないかと思う」
「ですよね……」
「焼き菓子にならこの前ゼリーにも使ったルベアの花が良いかもしれない。コランよりルベアは比較的手に入りやすいから安価だしな。上に乗せて焼いたら見た目も華やかになる」
「ですね! ラニールさんて意外にお洒落ですよね!」
「意外……」
ラニールさんが少し変な顔をしたが、そこは無視して、
「でもルベアだけでは甘みが足らなくないですか?」
「あぁ、そうなんだよな。ゼリーには爽やかで良いんだが、クッキーやパウンドケーキには甘みが足らないんだよな」
「「うーん」」
二人して固まってしまった。
「とりあえず他の甘みが強いものと合わせて使ってみますか?」
「そうだな。何種類か試作しよう」
そう言い、ラニールさんはパウンドケーキを私はクッキーをそれぞれ作る作業に取り掛かった。
入れる素材は同じもので。
乾燥させてあった甘みが強い果物を細かく刻んだものと、さらに潰したものを生地に混ぜ込む。成型したものにルベアを乗せ、そしてオーブンへ。
ハーブを水出ししたものも同様に生地に混ぜ込み、ルベアを乗せオーブンへ。
ラニールさんも同様にパウンドケーキを作るとオーブンへ並べた。
徐々に焼き上がりの匂いが厨房に充満していく。
美味しそうな匂いだ。
その匂いに釣られて、ではないだろうが、騎士たちが休憩に現れた。
「良い匂い~」
「あぁ、匂いは良い感じだな」
焼き上がりと共にラニールさんはオーブンを開き、焼き具合を確めた。
「良いだろう、出すぞ」
クッキーもパウンドケーキも綺麗に焼き上がっていた。
「美味しそう!」
ラニールさんはパウンドケーキを切り分け、皿に乗せた。
「ルベアの花が華やかな見た目で可愛いですね~!」
みんなで試食しようということで、控えの間の騎士たちの元へ持って行く。
「リディア様!」
「みなさん、試食してくださいませんか?」
「良いのですか!? 喜んで!」
控えの間のテーブルに並べられたお菓子たち。
可愛いわぁ、とうっとり眺めていたら、ラニールさんが笑いを堪えていた。
「みなさん感想を聞かせてくださいね。どのお皿の分を食べたか覚えておいてください」
それでは、と、皆手を伸ばし次々にクッキーやパウンドケーキを取って行く。
「いただきます」
私はクッキーをラニールさんはパウンドケーキを最初の一口目に食べた。
お互い同じハーブの水出しを入れた方を。
一口食べた感想は……。
ぼろぼろと一度零れ出した涙は止まらなくなってしまった。
「お、お嬢様!」
「お嬢!」
マニカとオルガも横で心配をしている。
ラニールさんは撫でていた手がビクッとし、おろおろし出した。
その姿が可愛く見え涙は零れるがクスッと笑った。
「お、お前な、泣くのか笑うのかどっちだ」
ラニールさんに頭をガシッと掴まれ、グリグリと撫でられた。髪の毛ぐしゃぐしゃ。
「フフ、ごめんなさい。ありがとうございます」
マニカが渡してくれたハンカチで涙を拭いながらラニールさんを見た。
「あー、大丈夫か?」
「はい、突然泣いたりしてすいませんでした」
ラニールさんは自身の頭をガシガシと掻くと、片手をそっと私の背に当てゆっくりと上下に擦った。
「その、何だ……、言いたくないことなら無理には聞かないが……、言いたくなったらいつでも来い。俺が聞いてやるから。お前は色々頑張り過ぎだ」
背中を擦りながら、少し照れくさそうにラニールさんは言った。
やはり優しい人たち。
「リディア」はきっと戻って来たら絶対二度と人生を入れ替えたいなんて思わないはず。
あの零れ出した涙と共に分かってしまった……。
私はこの世界の人たちが大好きだ。
恐らくシェスのことも好きなのだ……。
今まで、好きになってはいけないと考えていた。
でもそれももう無理だ。
いくら自身で否定しても惹かれてしまっていたのだから。
元に戻ればこの世界の人たちには二度と会えない。
シェスには「リディア」がいる、あの不器用な優しさも、はにかむ笑顔も「リディア」のものだ。
そう考えただけで涙が零れ落ちる程、私はシェスと離れたくないと願ってしまった。
でも……、好きだけど……、私は離れる……。
だって私はこの世界の人間ではない。本来いるべき「リディア」がいなければ。
皆を騙していることに変わりはないもの。
この世界に「カナデ」はいらない。
「ラニールさん、大好きです」
「はっ!? な、何だ急に!!」
ラニールさんがこれでもかというくらい目を見開き、顔を真っ赤にした。
マニカやオルガも驚きの表情。さらには厨房の人たちまで何事だ、とばかりに出て来た。
「フフ、ラニールさんも皆さんもマニカとオルガも、今いないみんなも大好き」
何だ、と皆は小さく溜め息を吐き、そして皆苦笑していた。
「本当ですよ? ルーもイルも魔獣研究所のみんな、ゼロやフィンも、薬物研究所のみんなも、騎士団のみんなも……」
シェスと、ディベルゼさんもギル兄も。
「みんな大好きなんです」
「あ、あぁ、分かった分かった。今日はどうしたんだ?」
ラニールさんはいつもと違う様子にまだ少し心配をしてくれている。
「いつかまた聞いてください」
「ん? あ、あぁ」
何だか良く分からんが、とラニールさんは不審そうだったが、しかしそれ以上は聞いてこなかった。
ありがとう、ラニールさん。
聞いてくれようとしてくれて。聞かずにいてくれて。
いつか最後に本当のことが言えたら良いな。それでちゃんとお別れを言えたら良いな。
「お嬢様……」
マニカは恐らく察したのだろう、この中で一番心配そうにしてくれている。
「マニカ、マニカもありがとうね。大丈夫だから」
大丈夫だと言ってもマニカはやはり心配してくれるのだろう。ごめんね、巻き込んで。
「さて! ではお菓子作りを始めますか!」
零れ落ちていた涙を拭うと、もう涙は乾いていた。
皆を好きになったことを後悔したくない。
最後まで楽しく過ごすのよ! 目一杯楽しく!
シェスとも……、離れても後悔がないように。
「この状態でお菓子作りするのか!?」
急に気合いを入れた私に驚いたラニールさんが声を上げた。
「しますよ! しないと! 時間もあまりないですし……」
「?」
少し尻すぼみになり、ラニールさんがまた心配そうな顔。しまった。
「いえ、何でもありません! お菓子作りしたいんです。駄目ですか?」
「いや、駄目な訳はないが……本当に大丈夫か?」
「えぇ」
「分かった」
そう言うとラニールさんは厨房に促した。
あれやこれやと見守っていた料理人たちも再び仕事に戻っていた。
マニカは悲痛な面持ちのまま後に続いた。
「さて、じゃあ何から始めるかな。とりあえず選別したハーブやらを見るか?」
「そうですね」
ラニールさんは保存してあったハーブや果物を出して来た。
「保存出来るように大体は加工してある」
そう言いながら、ラニールさんは出して来たものを一つずつ説明をしてくれた。
甘みが強いものや酸味が強いもの、甘みの中に酸味や苦味が混ざるもの、清涼感のあるものや、渋みのあるもの、等、全て何かしらの加工がなされている。
水出し、煮出し、焼いてあったり、乾燥させてあったり、と様々だ。
そのハーブや果物に合った方法で加工されている。
「わぁ、ラニールさん、本当に凄いですね……ありがとうございます!」
しばらく任せきりの間にこんなにもたくさんのハーブを加工してくれていた。
「あー、まあ、俺も好きでやっていたからな」
少し照れくさそうにラニールさんは言った。
「フフ、本当にありがとうございます。では、これをどんなお菓子と合わせるか、ですよね」
「あぁ、まあ最初はやはりクッキーやパウンドケーキが無難じゃないかと思う」
「ですよね……」
「焼き菓子にならこの前ゼリーにも使ったルベアの花が良いかもしれない。コランよりルベアは比較的手に入りやすいから安価だしな。上に乗せて焼いたら見た目も華やかになる」
「ですね! ラニールさんて意外にお洒落ですよね!」
「意外……」
ラニールさんが少し変な顔をしたが、そこは無視して、
「でもルベアだけでは甘みが足らなくないですか?」
「あぁ、そうなんだよな。ゼリーには爽やかで良いんだが、クッキーやパウンドケーキには甘みが足らないんだよな」
「「うーん」」
二人して固まってしまった。
「とりあえず他の甘みが強いものと合わせて使ってみますか?」
「そうだな。何種類か試作しよう」
そう言い、ラニールさんはパウンドケーキを私はクッキーをそれぞれ作る作業に取り掛かった。
入れる素材は同じもので。
乾燥させてあった甘みが強い果物を細かく刻んだものと、さらに潰したものを生地に混ぜ込む。成型したものにルベアを乗せ、そしてオーブンへ。
ハーブを水出ししたものも同様に生地に混ぜ込み、ルベアを乗せオーブンへ。
ラニールさんも同様にパウンドケーキを作るとオーブンへ並べた。
徐々に焼き上がりの匂いが厨房に充満していく。
美味しそうな匂いだ。
その匂いに釣られて、ではないだろうが、騎士たちが休憩に現れた。
「良い匂い~」
「あぁ、匂いは良い感じだな」
焼き上がりと共にラニールさんはオーブンを開き、焼き具合を確めた。
「良いだろう、出すぞ」
クッキーもパウンドケーキも綺麗に焼き上がっていた。
「美味しそう!」
ラニールさんはパウンドケーキを切り分け、皿に乗せた。
「ルベアの花が華やかな見た目で可愛いですね~!」
みんなで試食しようということで、控えの間の騎士たちの元へ持って行く。
「リディア様!」
「みなさん、試食してくださいませんか?」
「良いのですか!? 喜んで!」
控えの間のテーブルに並べられたお菓子たち。
可愛いわぁ、とうっとり眺めていたら、ラニールさんが笑いを堪えていた。
「みなさん感想を聞かせてくださいね。どのお皿の分を食べたか覚えておいてください」
それでは、と、皆手を伸ばし次々にクッキーやパウンドケーキを取って行く。
「いただきます」
私はクッキーをラニールさんはパウンドケーキを最初の一口目に食べた。
お互い同じハーブの水出しを入れた方を。
一口食べた感想は……。
応援ありがとうございます!
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