82 / 136
本編 リディア編
第八十二話 内緒の準備!?
しおりを挟む
朝食を終え、シェスレイトは騎士団控えの間に向かった。
控えの間では朝食を終えた騎士たちが訓練に向かうところだった。
「で、殿下!? お、おはようございます!」
皆が驚きの表情になり動きがぎこちなくなる。
「あぁ、おはよう。これから訓練か、しっかりな」
予期せぬシェスレイトの訪問に固まっていた騎士たちだが、珍しく穏やかな顔付きで激励されたものだから、騎士たちは一瞬たじろいだが勢い良く返事をし、意気揚々と訓練へと向かった。
騎士たちのいなくなった控えの間はとても静かで足音だけが響く。厨房のほうへと足を延ばすと、中からラニールが出て来た。
「何だ? 誰か食いはぐれたか?」
出て来たラニールはシェスレイトを見付けた瞬間目を見開いた。
「えっ、何で殿下が!?」
ラニールは呆然としていた。
「おはようございます、ラニール殿」
「え、あ、あぁ、おはよう……ございます……」
ディベルゼは呆然とするラニールに声を掛けた。それでもラニールは何が起こったのか分からないといった顔だ。
「あ、あの、何か用でも?」
ラニールはディベルゼに向かいながらも、後ろにいるシェスレイトをちらりと見た。シェスレイトは相変わらず黙ったままだ。
「殿下」
ディベルゼに促され、シェスレイトはようやくラニールと目を合わせた。
「その…………、頼みがあるのだ…………」
「は?」
小さく呟き過ぎてラニールには聞こえない。
「頼みがあるのだ!!」
赤くなりながらシェスレイトは声を張り上げた。
「え、た、頼み?」
ラニールは不気味に思い後ろにいるディベルゼとギルアディスに目をやるが、二人共にこにこし頷くだけで訳が分からない。
「頼みとは?」
痺れを切らしたラニールが聞いた。
「その……、後二ヶ月程でリディアの誕生日なのだ」
「誕生日……」
「その誕生日にリディアの親しい者を招いてパーティーをしたい」
「はあ。パーティー……」
「大勢に声を掛けるつもりだ」
「えぇ、それで?」
「ルシエスにイルグストに……」
いつまでも本題に入らないシェスレイトにディベルゼが溜め息を吐いた。
「殿下、それは今は良いです。それよりも本題に」
何か、こんなだったか? この王子は。ラニールは苦笑した。
「あぁ、すまない。……本題としてはラニール、君に料理を作って欲しい」
シェスレイトは焦ったような顔付きで言った。
そんな姿のシェスレイトを見たことがなかったラニールは一瞬たじろいだが料理という言葉に真面目に反応する。
「料理……、誕生パーティーの料理を?」
「あぁ」
ふむ、とラニールは片手で顎を触り考える。リディアのためにわざわざ自ら頼みに来たのか。こんな照れたような姿を晒してまで。そう思うと何だか微笑ましい気分になる。
ラニールはディベルゼとギルアディスがやたらと微笑んでいる理由が分かった気がした。
それが何だか可笑しくなりラニールは笑ってしまう。
「フッ、分かった。あぁ、いや、分かりましたよ」
「無理に敬語を使わなくても良い」
「えっ、いやぁ、それはさすがに……」
ラニールはちらりとディベルゼを見たが、にこりとしているだけでよく分からない。
「私が良いと言っている」
強く言ったシェスレイトにラニールは苦笑し、そこまで言うならと従った。
「じゃあ普通に話させてもらう」
「あぁ」
「で? どんな内容の料理で何人ほどだ? 当然だろうが、リディアには内緒にするんだな?」
ラニールは「リディア」と呼び捨てで呼んだ後に、しまった、という顔をした。案の定「リディア」という言葉にシェスレイトはぴくりと反応したが、何かを言うことはなかった。
シェスレイトはラニールがリディアを呼び捨てで呼んでいることははっきりとは知らなかったため、身体が少し反応してしまったが、そもそもあれだけ仲が良く普通に会話をしている二人だ、呼び捨てで呼んでいてもなんらおかしくはないと思ったのだった。
少し嫉妬を覚えるのは仕方ないことだ、と自分に言い聞かせていた。
ラニールは少し緊張が走ったがシェスレイトが何も言わないため話を続けた。
「あー、それで人数やらは?」
「あ、あぁ……」
「その辺りは私が打ち合わせ致しましょう」
ディベルゼが割って入った。ディベルゼはリディアの親しい人々全てに声を掛けることを説明する。
ラニールはその人数に驚いたが、リディアならばあり得るな、と納得し笑った。
料理の内容についてはリディアの好きなものを、となったが、シェスレイトはリディアの好みが分からない。
「それはマニカさんに確認しましょう。また確認が取れたらご連絡差し上げます」
ディベルゼがそう言うとラニールは頷いた。
結局のところ全てディベルゼが手配をしているな、とシェスレイトは苦笑し、情けない気分になる。
自分はやはりリディアのことを何も知らないのだな、と寂しくなった。
とにもかくにもリディアの誕生パーティーへの準備がスタートしたのだった。
シェスレイトたちがパーティーの相談をしている頃、リディアとルシエスは街へと赴いていた。
「まずは委託するパン屋へ行ってみるか」
「そうだね」
以前も行った街一番人気と噂のパン屋。今朝も朝から良い匂いが漂っている。朝食は食べて来たのに、その匂いを嗅ぐとお腹が鳴りそうだ。
「美味しそうな良い匂い」
「ブッ、本当にお前、お嬢様には見えないな」
ルーがそう言いながら笑う。失礼な。れっきとしたお嬢様なのに。中身は違うけど。
「良いじゃない、本当に美味しそうな匂いなんだから」
「ハハ、まあな」
そんなことを話しながらパン屋の扉を開ける。
「いらっしゃい」
中から元気な声が響いた。その声の主を見ると、思っていたよりもずっと若い女性だった。
人気のパン屋だと言われ、てっきりお父様やお母様のような年頃のご夫婦なのかと思っていた。
歳はラニールさんやキース団長と同じくらいの感じかしら。
意思の強そうなすらっとした美人だ。
「あら、ルーじゃないの、久しぶりね。いらっしゃい」
ルーって呼んでる……、ということは身分は隠してるよね……当然。ちらりとルーを見ると、ニッと笑った。
「あぁ、久しぶりメリンダさん、ロキさんいる?」
「ロキに用事? 奥にいるよ、呼ぼうか?」
「あぁ、頼む」
そう言うとメリンダさんは店の奥、恐らく厨房でパンを焼いている旦那様を呼んだ。
「ロキ、ルーが呼んでるよ。ちょっと出て来てよ」
「ん? ルー?」
男性の声がし、奥から出てきたその人はメリンダさんよりも頭一つくらい背の高い、とても優しそうな顔付きの男性だった。この人がロキさんなのね。
「久しぶりだな、ルー。最近どうしたんだ? あまり店に来ないが。以前来たとき以来だな」
以前というのは市場調査に来たときかしら。それからあまり来ないって……、今までどれだけしょっちゅう行ってたんだか。
ちらりとルーを見ると、アハハと目が泳いでいた。
「ま、まあそんなことより、ちょっと二人に頼みたいことがあって来たんだ」
「頼みたいこと?」
「あぁ。リディ」
ルーに声を掛けられ、挨拶をした。
「初めましてリディアと申します」
「お! ルーの恋人か!? やるな! こんな美人さん!」
ロキさんが急に大きな声で言った。
「えっ!! いや! 違う! リディは兄上……」
「あにうえ?」
「え、あ、いや、違う。えっと……」
「ルーとはお友達です」
あまりにしどろもどろになるルーが可笑しかったが、王子だとバレたら困りそうだからにこりと笑って答えた。
「ロキ、憶測でものは言ったら駄目だよ。いつも言ってるじゃないの」
「ご、ごめん、リディアちゃんもごめんね?」
メリンダさんに叱られてしょんぼりしているロキさんが何だか可愛かった。
「フフ、大丈夫です」
「まあ、ルーが好きなだけかもしれないけどね!」
「はぁ!?」
メリンダさんがニヤッとルーを見て言った。ルーは顔を真っ赤にし怒り出す。
「何言ってんだよ!! メリンダさんまで!!」
「アハハ、ごめんごめん」
メリンダさんは楽しそうに笑った。明るくて楽しいご夫婦だな。街の人に慕われているのも分かる。
「それでお願いというのはですね……」
「あぁ、そうだったそうだった」
ロキさんもメリンダさんも忘れてた、とばかりに声を上げた。本当に楽しいご夫婦。思わず笑いそうになってしまった。
控えの間では朝食を終えた騎士たちが訓練に向かうところだった。
「で、殿下!? お、おはようございます!」
皆が驚きの表情になり動きがぎこちなくなる。
「あぁ、おはよう。これから訓練か、しっかりな」
予期せぬシェスレイトの訪問に固まっていた騎士たちだが、珍しく穏やかな顔付きで激励されたものだから、騎士たちは一瞬たじろいだが勢い良く返事をし、意気揚々と訓練へと向かった。
騎士たちのいなくなった控えの間はとても静かで足音だけが響く。厨房のほうへと足を延ばすと、中からラニールが出て来た。
「何だ? 誰か食いはぐれたか?」
出て来たラニールはシェスレイトを見付けた瞬間目を見開いた。
「えっ、何で殿下が!?」
ラニールは呆然としていた。
「おはようございます、ラニール殿」
「え、あ、あぁ、おはよう……ございます……」
ディベルゼは呆然とするラニールに声を掛けた。それでもラニールは何が起こったのか分からないといった顔だ。
「あ、あの、何か用でも?」
ラニールはディベルゼに向かいながらも、後ろにいるシェスレイトをちらりと見た。シェスレイトは相変わらず黙ったままだ。
「殿下」
ディベルゼに促され、シェスレイトはようやくラニールと目を合わせた。
「その…………、頼みがあるのだ…………」
「は?」
小さく呟き過ぎてラニールには聞こえない。
「頼みがあるのだ!!」
赤くなりながらシェスレイトは声を張り上げた。
「え、た、頼み?」
ラニールは不気味に思い後ろにいるディベルゼとギルアディスに目をやるが、二人共にこにこし頷くだけで訳が分からない。
「頼みとは?」
痺れを切らしたラニールが聞いた。
「その……、後二ヶ月程でリディアの誕生日なのだ」
「誕生日……」
「その誕生日にリディアの親しい者を招いてパーティーをしたい」
「はあ。パーティー……」
「大勢に声を掛けるつもりだ」
「えぇ、それで?」
「ルシエスにイルグストに……」
いつまでも本題に入らないシェスレイトにディベルゼが溜め息を吐いた。
「殿下、それは今は良いです。それよりも本題に」
何か、こんなだったか? この王子は。ラニールは苦笑した。
「あぁ、すまない。……本題としてはラニール、君に料理を作って欲しい」
シェスレイトは焦ったような顔付きで言った。
そんな姿のシェスレイトを見たことがなかったラニールは一瞬たじろいだが料理という言葉に真面目に反応する。
「料理……、誕生パーティーの料理を?」
「あぁ」
ふむ、とラニールは片手で顎を触り考える。リディアのためにわざわざ自ら頼みに来たのか。こんな照れたような姿を晒してまで。そう思うと何だか微笑ましい気分になる。
ラニールはディベルゼとギルアディスがやたらと微笑んでいる理由が分かった気がした。
それが何だか可笑しくなりラニールは笑ってしまう。
「フッ、分かった。あぁ、いや、分かりましたよ」
「無理に敬語を使わなくても良い」
「えっ、いやぁ、それはさすがに……」
ラニールはちらりとディベルゼを見たが、にこりとしているだけでよく分からない。
「私が良いと言っている」
強く言ったシェスレイトにラニールは苦笑し、そこまで言うならと従った。
「じゃあ普通に話させてもらう」
「あぁ」
「で? どんな内容の料理で何人ほどだ? 当然だろうが、リディアには内緒にするんだな?」
ラニールは「リディア」と呼び捨てで呼んだ後に、しまった、という顔をした。案の定「リディア」という言葉にシェスレイトはぴくりと反応したが、何かを言うことはなかった。
シェスレイトはラニールがリディアを呼び捨てで呼んでいることははっきりとは知らなかったため、身体が少し反応してしまったが、そもそもあれだけ仲が良く普通に会話をしている二人だ、呼び捨てで呼んでいてもなんらおかしくはないと思ったのだった。
少し嫉妬を覚えるのは仕方ないことだ、と自分に言い聞かせていた。
ラニールは少し緊張が走ったがシェスレイトが何も言わないため話を続けた。
「あー、それで人数やらは?」
「あ、あぁ……」
「その辺りは私が打ち合わせ致しましょう」
ディベルゼが割って入った。ディベルゼはリディアの親しい人々全てに声を掛けることを説明する。
ラニールはその人数に驚いたが、リディアならばあり得るな、と納得し笑った。
料理の内容についてはリディアの好きなものを、となったが、シェスレイトはリディアの好みが分からない。
「それはマニカさんに確認しましょう。また確認が取れたらご連絡差し上げます」
ディベルゼがそう言うとラニールは頷いた。
結局のところ全てディベルゼが手配をしているな、とシェスレイトは苦笑し、情けない気分になる。
自分はやはりリディアのことを何も知らないのだな、と寂しくなった。
とにもかくにもリディアの誕生パーティーへの準備がスタートしたのだった。
シェスレイトたちがパーティーの相談をしている頃、リディアとルシエスは街へと赴いていた。
「まずは委託するパン屋へ行ってみるか」
「そうだね」
以前も行った街一番人気と噂のパン屋。今朝も朝から良い匂いが漂っている。朝食は食べて来たのに、その匂いを嗅ぐとお腹が鳴りそうだ。
「美味しそうな良い匂い」
「ブッ、本当にお前、お嬢様には見えないな」
ルーがそう言いながら笑う。失礼な。れっきとしたお嬢様なのに。中身は違うけど。
「良いじゃない、本当に美味しそうな匂いなんだから」
「ハハ、まあな」
そんなことを話しながらパン屋の扉を開ける。
「いらっしゃい」
中から元気な声が響いた。その声の主を見ると、思っていたよりもずっと若い女性だった。
人気のパン屋だと言われ、てっきりお父様やお母様のような年頃のご夫婦なのかと思っていた。
歳はラニールさんやキース団長と同じくらいの感じかしら。
意思の強そうなすらっとした美人だ。
「あら、ルーじゃないの、久しぶりね。いらっしゃい」
ルーって呼んでる……、ということは身分は隠してるよね……当然。ちらりとルーを見ると、ニッと笑った。
「あぁ、久しぶりメリンダさん、ロキさんいる?」
「ロキに用事? 奥にいるよ、呼ぼうか?」
「あぁ、頼む」
そう言うとメリンダさんは店の奥、恐らく厨房でパンを焼いている旦那様を呼んだ。
「ロキ、ルーが呼んでるよ。ちょっと出て来てよ」
「ん? ルー?」
男性の声がし、奥から出てきたその人はメリンダさんよりも頭一つくらい背の高い、とても優しそうな顔付きの男性だった。この人がロキさんなのね。
「久しぶりだな、ルー。最近どうしたんだ? あまり店に来ないが。以前来たとき以来だな」
以前というのは市場調査に来たときかしら。それからあまり来ないって……、今までどれだけしょっちゅう行ってたんだか。
ちらりとルーを見ると、アハハと目が泳いでいた。
「ま、まあそんなことより、ちょっと二人に頼みたいことがあって来たんだ」
「頼みたいこと?」
「あぁ。リディ」
ルーに声を掛けられ、挨拶をした。
「初めましてリディアと申します」
「お! ルーの恋人か!? やるな! こんな美人さん!」
ロキさんが急に大きな声で言った。
「えっ!! いや! 違う! リディは兄上……」
「あにうえ?」
「え、あ、いや、違う。えっと……」
「ルーとはお友達です」
あまりにしどろもどろになるルーが可笑しかったが、王子だとバレたら困りそうだからにこりと笑って答えた。
「ロキ、憶測でものは言ったら駄目だよ。いつも言ってるじゃないの」
「ご、ごめん、リディアちゃんもごめんね?」
メリンダさんに叱られてしょんぼりしているロキさんが何だか可愛かった。
「フフ、大丈夫です」
「まあ、ルーが好きなだけかもしれないけどね!」
「はぁ!?」
メリンダさんがニヤッとルーを見て言った。ルーは顔を真っ赤にし怒り出す。
「何言ってんだよ!! メリンダさんまで!!」
「アハハ、ごめんごめん」
メリンダさんは楽しそうに笑った。明るくて楽しいご夫婦だな。街の人に慕われているのも分かる。
「それでお願いというのはですね……」
「あぁ、そうだったそうだった」
ロキさんもメリンダさんも忘れてた、とばかりに声を上げた。本当に楽しいご夫婦。思わず笑いそうになってしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
414
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる