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翻弄される真尋
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どんなに悩んでいようと、やらなければならない仕事は変わらない。
真尋はここ数日、残業続きだった。仕事が忙しかったお陰で海里の事を考える暇もないのは助かったが、今日でその忙しさも一段落してしまう。
海里も仕事が立て込んでいるのか、完全に上司としての顔をしており、仕事以外の話しをしてくる事はなかった。
割り切った関係だと思っているのだろうか···。そんな事を考えながら真尋は、忙しくて手のつけられなかった散らかったデスクの上を片づけて始めた。
「おっ、そっちも終わりか?だったら今夜、飲んで行くか?」
声をかけられたのは、隣のデスクに座る一年先輩の松永だった。
酒····
つい最近、上司を誘う失敗をしたばかかりの苦い記憶が蘇る。
今日は···と、断ろうかと口を開きかけた真尋より先に、前の席にいる同期の城戸が書類の隙間から顔を覗かせ話しに乗ってきた。
「あ!いいっスね!俺も終わりそうなんで行きたいです!」
「じゃあ、駅前の飲み屋予約しとくな。後で店の名前、スマホに送っとくわ」
松永はスマホを手にすると画面を操作しはじめてしまい、真尋は断るタイミングを無くしてしまった。
「送っといたぞ。言っておくが、お前ら割り勘だからな」
「え~、松永先輩の奢りじゃないんスか?」
「···一年しか違わないんだから、給料お前らと変わらねぇよ。奢って貰いたかったら、課長にでも泣きつけ」
松永にそう言われた城戸は、それいいっすね、と誘いに行きかけたので、真尋は慌てて止めた。
「城戸!今日はせっかく忙しい仕事が終わったんだ、課長がいたら気ぃ遣うからそれは又に···」
「え?どうした、早坂。お前が誰かを嫌がるなんて珍しいな···」
城戸は真尋らしからぬ態度に少し首を傾げる。
「なんだ?早坂、お前何かポカでもしたか?」
「····まあ···そんなとこです···」
松永の問いかけに口を濁す。
「だとよ、城戸。奢られるのは諦めろ」
しょうがねぇ··割り勘か、と城戸は諦め椅子に座り直した。その姿に真尋はホッとし、海里の姿を横目で見た。相変わらず真剣な表情でパソコンに向かっている姿を確認し、こちらの会話は聞こえていない様子に胸をなで下ろした。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
パソコンに向かいながら、海里の耳には真尋と他の同僚との会話が聞こえていた。
視線は向けず、会話の内容だけを聞いていた。
同僚達と飲みに行くのか···
また飲み過ぎてあの視線を他の誰かに送らなければいいが···と、海里は共に飲みに行くという同僚達に少しばかり嫉妬の念を寄せる。
だが、飲みに行くなと不自然な行動を取るわけにもいかず、平静を装いながらキーボードを叩く指は心做しか強くなっていた。
真尋はここ数日、残業続きだった。仕事が忙しかったお陰で海里の事を考える暇もないのは助かったが、今日でその忙しさも一段落してしまう。
海里も仕事が立て込んでいるのか、完全に上司としての顔をしており、仕事以外の話しをしてくる事はなかった。
割り切った関係だと思っているのだろうか···。そんな事を考えながら真尋は、忙しくて手のつけられなかった散らかったデスクの上を片づけて始めた。
「おっ、そっちも終わりか?だったら今夜、飲んで行くか?」
声をかけられたのは、隣のデスクに座る一年先輩の松永だった。
酒····
つい最近、上司を誘う失敗をしたばかかりの苦い記憶が蘇る。
今日は···と、断ろうかと口を開きかけた真尋より先に、前の席にいる同期の城戸が書類の隙間から顔を覗かせ話しに乗ってきた。
「あ!いいっスね!俺も終わりそうなんで行きたいです!」
「じゃあ、駅前の飲み屋予約しとくな。後で店の名前、スマホに送っとくわ」
松永はスマホを手にすると画面を操作しはじめてしまい、真尋は断るタイミングを無くしてしまった。
「送っといたぞ。言っておくが、お前ら割り勘だからな」
「え~、松永先輩の奢りじゃないんスか?」
「···一年しか違わないんだから、給料お前らと変わらねぇよ。奢って貰いたかったら、課長にでも泣きつけ」
松永にそう言われた城戸は、それいいっすね、と誘いに行きかけたので、真尋は慌てて止めた。
「城戸!今日はせっかく忙しい仕事が終わったんだ、課長がいたら気ぃ遣うからそれは又に···」
「え?どうした、早坂。お前が誰かを嫌がるなんて珍しいな···」
城戸は真尋らしからぬ態度に少し首を傾げる。
「なんだ?早坂、お前何かポカでもしたか?」
「····まあ···そんなとこです···」
松永の問いかけに口を濁す。
「だとよ、城戸。奢られるのは諦めろ」
しょうがねぇ··割り勘か、と城戸は諦め椅子に座り直した。その姿に真尋はホッとし、海里の姿を横目で見た。相変わらず真剣な表情でパソコンに向かっている姿を確認し、こちらの会話は聞こえていない様子に胸をなで下ろした。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
パソコンに向かいながら、海里の耳には真尋と他の同僚との会話が聞こえていた。
視線は向けず、会話の内容だけを聞いていた。
同僚達と飲みに行くのか···
また飲み過ぎてあの視線を他の誰かに送らなければいいが···と、海里は共に飲みに行くという同僚達に少しばかり嫉妬の念を寄せる。
だが、飲みに行くなと不自然な行動を取るわけにもいかず、平静を装いながらキーボードを叩く指は心做しか強くなっていた。
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