上司と部下の恋愛事情

朔弥

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課長のお見合い

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「課長···」
 松永が声をかける。
「俺は···美咲みさきさんとお付き合いさせて頂いています。申し訳ありませんが、このお見合いは無かった事にして頂けませんか」
 松永は頭を下げながら言った。そして彼女の方に歩み寄ると、
「美咲さん、俺は課長と比べたらまだまだ男として頼りない所もあるかもしれないけど···一生かけて幸せにしてみせるから、俺と結婚して欲しい。君の家族にも認めてもらえるように努力するから···」
 結婚しよう、と彼女の目の前に指輪を差し出した。
「···翔吾しょうごさん···」
 彼女は松永の名を嬉しそうに囁くと、指輪を受け取った。

「良かったですね、美咲さん」
 海里は彼女に向け笑みを浮かべた。
「ええ、今日は私のお祖父様の我儘に付き合わせてしまってごめんなさい」
「いいえ、お役に立てて何よりですよ。お幸せに···」
「あ、あの···課長、何の話し···ですか?」
 二人だけが分かる会話に松永は少し狼狽えながら聞いた。だが、海里は含みのある笑みを浮かべ、
「お前はちゃんと西条家に認められたって話しだよ。詳しくは美咲さんから聞け。俺も説明しなきゃならない奴がいるんでね···」
「はあ···」
 よく分からないといった表情かおを浮べた松永だったが、美咲に腕を引かれラウンジを後にした。


「さてと···」
 二人の姿が見えなくなると海里はおもむろに立ち上がり、迷わず真尋の座っている席にやってきた。
「どうしてここに居るのか説明してもらおうか?」
 テーブルに片手をつき、真尋の耳元に顔を寄せ問いかけた。
 真尋はギクリと肩を揺らし、視線だけを海里の方へと向けた。

 ヤバい···
 笑顔なのには笑ってない···

「いや···あの···覗き見するつもりじゃ···すぐに帰ろうと思ったんですけど···松永先輩に···」
「おいで、真尋」
 言いよどむ真尋の言葉を遮り、腕を掴むと席を立たせた。


 あの場で話しを続けるには注目を集めすぎていた為、真尋を連れて地下駐車場に移動した海里は車の助手席に乗るように促し、自分も反対側のドアを開け運転席に座る。
「こっち向いて···真尋」
 右腕をハンドルにかけ、俯き気味に視線を合わせようとしない真尋の顔を覗き込みながら海里は言った。
 真尋はゆっくり海里の方へと顔を上げた。
「信じてってメールに入れたのに、真尋は信じてくれなかったんだ」
「それは···だって···最初は断ってたのに急に···受けるなんて言うから···気になって···」
「見合い相手を部下にさらわれる役なんて見せたくなかったんだけど···」
 海里は軽く溜め息をいた。
「や、役?」
「あの電話の内線の相手、うちの社長から。向こうの会長がお孫さんの好きな相手を見極めたいから協力して欲しいって言われたんだよ···。いざって時にちゃんと行動を起こせる男かどうかってね」
「じゃあ、どうしてすぐ説明してくれなかったんですか···」
「真尋、松永と仲いいだろ?松永には真に迫った見合いに見せないといけなかったし···失敗するわけにいかないからね。うちの社で今回の事を知ってたのは社長と俺の二人だけだよ」
 部長も知らずに社長から見合いを勧めるように言われたからあんなに必死だったのか···と真尋はあの時の部長の様子を思い出す。
 あれだけ切羽詰まった表情かおで見合いを勧めていれば、松永には今回のお見合いは向こうがかなり乗り気だと思わせる事が出来ただろう。現に真尋も押し切られてお見合いを前向きに考えてしまうのではと思ってしまったくらいなのだから。

「それで?俺の言葉を信じられず、見合い会ここ場まで来たのに松永に見つからなかったら帰ろうとしてたのはどうしてかな?まさか、俺が彼女を選ぶなんて思ったりしてないよね?」
 海里の言葉に、陰から様子を伺っていた事も帰ろうとしていた事も最初から気づいていたのか、と真尋は押し黙る。
「答えて、真尋···」
「···海里の隣には···俺なんかじゃなくて···やっぱり可愛いいがって思ったら···」

 自分で言いながら胸が締め付けられる。

 知らず、真尋の頬を涙が伝っていた。
「あ···」
 涙に気づいた真尋は拭おうとしたが、それより先に海里の手が伸ばされ顔を引き寄せられた。
 海里に口づけられ、深く唇が重なる。
「んっ···」
 海里の舌を受け入れながら、甘い吐息が真尋の唇から洩れる。
 何度か口づけを交わした後、海里の唇がゆっくりと離れていった。
「俺が好きなのは真尋だけだよ。そんなに俺の気持ちが···信じられない?」
「ちがっ···」
 海里が好きでいてくれているのはわかっている。

 でも···

 不安は拭えない


 
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