上司と部下の恋愛事情

朔弥

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同棲の始まり

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 海里の用意してくれた朝食を食べ終わった真尋は、食器を片付けスーツの上着を羽織った。
 一人になる事に不安がまだあるのではと心配した海里に一緒に出社するかと聞かれたが、真尋は大丈夫だからと先に行ってもらった。
 少し渋っていた海里だったが、三浦の件の処理や他にもしなければならない手続きがあるようで、諦めて先に家を出ていった。


 通勤時間をずらせば一緒に住んでる事を誤魔化せる事が出来そうだが、同じ時間を長く過ごしていればそのうちボロがでそうだな···と鞄を手に取りながら軽く溜め息を吐いた。
 昨日は海里の腕の中が心地良すぎて現実をあまり考えていなかったが、今まで住んでいたアパートと海里のマンションでは会社から帰る時に向かう方向が違う。


 遠回りして帰るしかないだろうな···


 あのアパートに戻るつもりは更々ないが、一緒に住むって大変だなぁ···と真尋は靴を履きながら色々と考えていた。


 引っ越しもしないといけないし···住所変更も···


 考え事をしながら玄関で靴を履いていた真尋は、そこで動きをピタッと止めた。
「住所変更···」
 思わず声に出してしまった。
 どうして失念していたのだろうか。住所変更を会社の総務にも提出しないといけないのに。


 どうしよう···


 同じ住所になる言い訳を考えるが何も思い浮かばない。
 まあ、総務の人だっていちいち社員の住所なんて把握してないだろう。気づかずに手続きしてくれるのを祈るのみだが、ひとつ不安をあげるとすれば海里が女性社員にモテる事だ。彼の住所を把握している社員が担当したら···。
 真尋は重い足取りで会社へと向かった。
 




「おはようございます···」
 オフィスについた真尋は何故か一斉に社員の視線を浴びてしまい、躰が固まる。


 え?何だ??まさか三浦の事が知られた?


 見ればあの場にいた怜司の姿もある。海里と仲がいいので彼に会いに来ていても不思議はないが、朝から姿を見たことは今までになかった。
 不安になりながらデスクにつくと、
「早坂!お前大丈夫か?」
「大変な目にあったな···大丈夫か?」
 心配そうな顔の城戸と松永の二人に声をかけられた。
 やっぱり知られて···と顔を強張らせた時だった。
「空き巣に入った奴と鉢合わせになったんだろ?三浦が実家からの電話で途中で帰らずにお前の家まで一緒に行ってれば、一人でそんな目に会わなかったかもしれねぇのに···」
「ん?」
 続けられた城戸の言葉に、思わず聞き返してしまった。
「違うのか?犯人の隙を見てスマホで課長に助け求めたんだろ?電話の様子がおかしいって気になって一緒にいた本間さんと駆けつけたら玄関先で縛られてるお前と犯人に出くわしたって」
 さっき本間さんが課長の所に三浦の仕事の引き継ぎの報告してる時に早坂の様子はどうだって話しが聞こえてきて思わず何かあったのかと聞いてしまったのだと松永は言った。
「···そ、そうなんです···自分がまさか犯罪に巻き込まれるなんて思わなくて···揉み合いながら何とか通話を押すのが精一杯で···気づいてもらえなかったらと思うと···」
 全てが嘘ではなく、隠したい部分に少しだけ嘘が混ぜられているお蔭で騙している罪悪感を感じずに答える事が出来た。
 朝、三浦の件や他にもしなければならない事があると海里が言っていたのは怜司と口裏を合わせる事だったのだろうか。
 大体、飲んだ週明けの月曜に三浦が退社した理由だけなら自分が襲われた部分の話しはいらないのに、と真尋はいぶかしげな視線を海里に向けた。
 海里はフッと口元に笑みを浮べたかと思うと、真尋の席に近づいてきた。
「真尋、これ住所変更届けの書類。住所の欄は俺の住所を記入しておいたから、他の必要事項を書いたら総務に提出な」
 と、言いながら書類を渡される。
「なっ···!」
 名前で呼ばれた事にも、堂々と海里の家に住む事を宣言されてしまった事にも驚き言葉を失くす。
「昨日も言ったけど、あんな目にあったんだ···一人でいるのは不安だろ?俺のマンションなら防犯はしっかりしているし、俺は結婚するつもりないから遠慮せずに住めばいいよ、部屋も余ってるしね」
 部下を気遣う上司の顔をしながら、しっかり同棲宣言をする海里に真尋は口をぱくぱくさせた。


 サラッと何言って···
 この前も今朝も一緒に出勤するの知られたくないって言って断ったからか!?


 焦る真尋とは裏腹に周りの人間は特に気にはしておらず、
「それなら安心だな!」
 と、城戸などはむしろ受け入れている。
「早坂、お前、課長の所に引っ越すのか?」
「あ···はい、さすがに···ちょっと怖くて···」
 真顔の松永の表情に、怖いのもあのアパートに居たくないのも本当の事だが、やはり海里の家に住むのは行き過ぎた行動だと思われたのだろうかと不安がよぎる。
 松永は少し考えた後、
「荷物運ぶの手伝ってやるよ、いつ?」
 と聞いてきた。
「荷物そんなにないんで···大丈夫です」
「課長の家に住むくらいなんだから、あんまり家に入りたくないんじゃないのか?人数が多ければ早く終わるだろ?気も紛れるだろうし」
 松永の気遣いに真尋は胸が熱くなる。
 三浦の事を思い出してしまいそうであの家に足を踏み入れるのは正直、躊躇ためらいがあった。
「松永先輩、男前っスね~。早坂、俺も手伝うよ。課長の家に行ってみたいし」
「ありがとう···」
 真尋は二人に笑顔を向けた。


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