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哀愁のレコード ③
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サトコは、今まで通りの日常を取り戻していた。
「サトコー!怖いよ…怖いニュースだよ…」
施設の子供が、黄色い声で震えていたのだった。
リビングに入るとテレビで中継が流れており、そこには人の死体の画像が立て続けに流れてきた。死体はどれも生生しく、八つ裂きになっており頭部から下は血塗れでグジャグジャだった。
「ねー、物騒だよねー。しかも同じ犯人の可能性が高いんだって…」
子供はテレビに釘付けになっていた。
自転車を止め職場の中に入ると、制服に着換え仕事場に向かった。木村や桜庭は、いつもよりずっと優しい感じになったが、何処かしらよそよそしい感じがしたのだった。
サトコは、いつもの倉庫で仕分け作業に従事した。電子機器ひとつひとつに不良がないか検査をしていった。
何か夢の様な重々しい体験をした感覚に襲われたが、それが一体どんなものだったのかが分からない。自分は暗い闇に包まれていて、天国にいるかのような眩い光に包まれていた。詳しい状況はわからないが、ふわふわとした温かい光に包まれた所で目が覚めたのは覚えている。
しばらく検品をしていると、1つだけカタカタ小刻みに揺れている機器があった。
サトコは慎重にその機器を手に取ると、ゆっくり蓋を開けた。すると、中から炭酸電池がカラカラと転がり床に落ちた。
サトコはその電池の後を追う事にした。電池は、見えない操り糸に引っ張られていく様に暗い廊下を抜け裏門の方まで転がっていった。
サトコは荒い息をしながらしばらく走った。ふと、目の前にマネキンがカチカチ音を立てながら、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
最新型のAIだろうかー?そのAIのようなマネキンのような者は、不気味に微笑みながらコチラに悠々と歩み寄った。そして、そのマネキンはゆらゆら揺れながら右手を差し出した。炭酸電池はそれに引き寄せられるかのようにマネキンの手の中に吸い寄せられていく。
サトコは、慌てて電池を取り戻そうとするが、マネキンがコチラをじっと見つめており、急にドライアイスのような乾いた寒気がはしった。直感で逃げないといけない様な気がしたのだった。
サトコは急に身体の動きが鈍くなっていった。まるで身体全体が金属の塊の様に重くなっていくのだった。
マネキンはくるりと前をむくと、そのまま裏門に向かう。
「ま、待って、下さい…」
サトコは声をかけるが、彼はそのまま出口へと向かい、門を開けるとそのままカチカチ歩いていったのだった。
黒須は、ラプラスからの指示で今日も荒ぶる魂を鎮めるために目的地へと出向いた。そこはサトコの住んでいる地域であった。途中で、サトコの様子を覗きに行こうとしたが、それは倫理違反な為、任務を優先する事にしたのだった。
「…何で、よりによって、またこの近辺なんだろうかね…?」
黒須はため息をつくと、煙草を取り出し、ライターをつけた。
あの時ー、サトコから霊力を取り除き自分といた時の記憶も全て抜き取った筈である。どういう事だー?何で立て続けに同じ地域で悪霊に遭遇する羽目になるのだろうかー?偶然が出来すぎているー。
黒須は通信機の電源を入れると、直属の上司と連絡を取った。詳しい場所を書き記された地図を渡され、黒須はその場へと向かった。
黒須は、とあるホスピタルにたどり着いた。過去に病院に何度か赴いた事があるが、全体的に邪気は感じられなく、悪霊の気配はなかったのだった。黒須は軽く首を傾げた。
黒須は、受付の人と対面し軽くその場しのぎの嘘をつく。いつものやり方である。黒須は長い間の死神生活の中で、冷静に客観的に人間を観察し人間の言動をほぼ完全に予測するスキルを身につけたのだった。
「こちらです。」
受付の女性がドアをノックし、開けた。
ベッドには、70から80位の老婦が横になって寝ているのが見えた。彼女は末期の癌に侵されており、余命幾許もなかった。
「進一…」
老婦はか細い声を発した。
「お婆さん、見舞いが来ましたよ。」
受付の人が優しく声を掛けた。
すると、老婦の右手からパサリと音を立てて人形が、転がり落ちた。
「…こ、れは…?」
それは、不気味な人形であった。黒い帽子を被り黒いワイシャツに緑のズボンの格好をしており、全体的に細長かった。
「ああ…これは、お婆さんの御守りなの…亡くなった息子さんが幼少の時に作ったみたいで…」
受付の人は、黒須に椅子を差し出した。
「あ、すみません…」
黒須は、椅子に座るとじっと考えこんだ。
ーこのお婆さんは、末期でいつ持つのか分からない…。この御守りはただの変哲のない代物だ。お婆さんは、何か細工をしたのだろうか…?ー
「実は…最近、体調を崩されまして、ほとんどずっと寝たきりなんですよ…」
ヘルパーは人形を拾うと、花瓶の花を入れ替えた。
「…し、進一…」
老婦は夢にらうなされている様だった。
「…この老婦が関係してそうだな…」
老婦はこの不気味な人形を御守りとして使い、進一の魂をずっと鎮めていたのだろうー。しかし、最近病が悪化し彼女の御守りの力が弱まったのだと、黒須は推測した。
あの進一という青年は生前はどんな人だったのかが、一番の顕要な事だと黒須は睨んだ。
「息子さんは、どんな人ですか…?」
「…息子さんですか?実は、30年以上前に亡くなっていて…旦那様は、息子さんが幼い頃に既に他界してるんです…」
受付の人の目は潤んでおり、老婦を憐れんでいる様だった。
黒須は、帰ったフリをすると病院の中に張り込み、あたりに札を貼ることにした。この札は、生者を霊障で苦しめない為の物だ。過去に多くの人間が霊障で死に、幻界では満員状態でパンク寸前であった。
しばらく息を潜んでいると、どっとドライアイスの様な乾いたようなゾクゾクする寒気を覚えたのだった。
病室のドアがゆっくり静かに音を立ててスライドする。中にはガムテープでぐるぐる巻きのマネキンが姿を現した。進一である。
黒須は、じっと静かに息を潜め押し入れの中から状況を伺った。
カチカチという音が病室内に響き渡るー。黒須は念の為に老婦の周りに結界を張っていたのだった。しかしー、今回の悪霊は只者ではなかったー。生前は表向きはロッカーを目指す優男ー、裏の顔は連続殺人鬼なのであったからだ。
「…し、進一」
老婦は白内障が進行しており視界が白くぼやけて見えているが、目の前に居るのが我が息子であると直感で分かったのだった。
「か、あさん…」
マネキンはカチカチ口を鳴らして低い声を発した。
「お、お…進一…どうして…?」
老婦は僅かな喜びと不安と焦操感が入り乱れた複雑な心境であった。
「母さん、ごめんね…」
マネキンは右腕をドリルの様に回転させると、老婦に静かに近寄った。重い静かで不気味な空気に包まれたー。辺り一面は真空状態となるー。
するとー、マネキンには鎖の様な物で縛られていた。マネキンは首だけ器用に振り向くと、カタカタ歯を鳴らした。
「ーよお。どうかい?効くか?お手製のサジタリウスは…」
黒須は勢いよく物置のドアを開けた。彼女は、鎖を左腕にぐるぐる巻いている。鎖は青白く炎を纏っていた。
黒須は、鎖を締める手を強めた。
「辻山シンイチ…お前は、生前から今に至る迄何人殺してきたんだい…10人か…いや、100人は殺ったんだろうな…」
マネキンは、カタカタ激しく歯を叩き首を激しく回転させた。
「もう、お前はここで終いだ…」
黒須はそう言うと、マネキン全体に鎖でぐるぐる巻にすると、目を金色に光らせた。マネキンは急にキーキー音を立てると、激しく首を回転した。
そして、病室内に青磁色の眩い光が満たされた。
「サトコー!怖いよ…怖いニュースだよ…」
施設の子供が、黄色い声で震えていたのだった。
リビングに入るとテレビで中継が流れており、そこには人の死体の画像が立て続けに流れてきた。死体はどれも生生しく、八つ裂きになっており頭部から下は血塗れでグジャグジャだった。
「ねー、物騒だよねー。しかも同じ犯人の可能性が高いんだって…」
子供はテレビに釘付けになっていた。
自転車を止め職場の中に入ると、制服に着換え仕事場に向かった。木村や桜庭は、いつもよりずっと優しい感じになったが、何処かしらよそよそしい感じがしたのだった。
サトコは、いつもの倉庫で仕分け作業に従事した。電子機器ひとつひとつに不良がないか検査をしていった。
何か夢の様な重々しい体験をした感覚に襲われたが、それが一体どんなものだったのかが分からない。自分は暗い闇に包まれていて、天国にいるかのような眩い光に包まれていた。詳しい状況はわからないが、ふわふわとした温かい光に包まれた所で目が覚めたのは覚えている。
しばらく検品をしていると、1つだけカタカタ小刻みに揺れている機器があった。
サトコは慎重にその機器を手に取ると、ゆっくり蓋を開けた。すると、中から炭酸電池がカラカラと転がり床に落ちた。
サトコはその電池の後を追う事にした。電池は、見えない操り糸に引っ張られていく様に暗い廊下を抜け裏門の方まで転がっていった。
サトコは荒い息をしながらしばらく走った。ふと、目の前にマネキンがカチカチ音を立てながら、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
最新型のAIだろうかー?そのAIのようなマネキンのような者は、不気味に微笑みながらコチラに悠々と歩み寄った。そして、そのマネキンはゆらゆら揺れながら右手を差し出した。炭酸電池はそれに引き寄せられるかのようにマネキンの手の中に吸い寄せられていく。
サトコは、慌てて電池を取り戻そうとするが、マネキンがコチラをじっと見つめており、急にドライアイスのような乾いた寒気がはしった。直感で逃げないといけない様な気がしたのだった。
サトコは急に身体の動きが鈍くなっていった。まるで身体全体が金属の塊の様に重くなっていくのだった。
マネキンはくるりと前をむくと、そのまま裏門に向かう。
「ま、待って、下さい…」
サトコは声をかけるが、彼はそのまま出口へと向かい、門を開けるとそのままカチカチ歩いていったのだった。
黒須は、ラプラスからの指示で今日も荒ぶる魂を鎮めるために目的地へと出向いた。そこはサトコの住んでいる地域であった。途中で、サトコの様子を覗きに行こうとしたが、それは倫理違反な為、任務を優先する事にしたのだった。
「…何で、よりによって、またこの近辺なんだろうかね…?」
黒須はため息をつくと、煙草を取り出し、ライターをつけた。
あの時ー、サトコから霊力を取り除き自分といた時の記憶も全て抜き取った筈である。どういう事だー?何で立て続けに同じ地域で悪霊に遭遇する羽目になるのだろうかー?偶然が出来すぎているー。
黒須は通信機の電源を入れると、直属の上司と連絡を取った。詳しい場所を書き記された地図を渡され、黒須はその場へと向かった。
黒須は、とあるホスピタルにたどり着いた。過去に病院に何度か赴いた事があるが、全体的に邪気は感じられなく、悪霊の気配はなかったのだった。黒須は軽く首を傾げた。
黒須は、受付の人と対面し軽くその場しのぎの嘘をつく。いつものやり方である。黒須は長い間の死神生活の中で、冷静に客観的に人間を観察し人間の言動をほぼ完全に予測するスキルを身につけたのだった。
「こちらです。」
受付の女性がドアをノックし、開けた。
ベッドには、70から80位の老婦が横になって寝ているのが見えた。彼女は末期の癌に侵されており、余命幾許もなかった。
「進一…」
老婦はか細い声を発した。
「お婆さん、見舞いが来ましたよ。」
受付の人が優しく声を掛けた。
すると、老婦の右手からパサリと音を立てて人形が、転がり落ちた。
「…こ、れは…?」
それは、不気味な人形であった。黒い帽子を被り黒いワイシャツに緑のズボンの格好をしており、全体的に細長かった。
「ああ…これは、お婆さんの御守りなの…亡くなった息子さんが幼少の時に作ったみたいで…」
受付の人は、黒須に椅子を差し出した。
「あ、すみません…」
黒須は、椅子に座るとじっと考えこんだ。
ーこのお婆さんは、末期でいつ持つのか分からない…。この御守りはただの変哲のない代物だ。お婆さんは、何か細工をしたのだろうか…?ー
「実は…最近、体調を崩されまして、ほとんどずっと寝たきりなんですよ…」
ヘルパーは人形を拾うと、花瓶の花を入れ替えた。
「…し、進一…」
老婦は夢にらうなされている様だった。
「…この老婦が関係してそうだな…」
老婦はこの不気味な人形を御守りとして使い、進一の魂をずっと鎮めていたのだろうー。しかし、最近病が悪化し彼女の御守りの力が弱まったのだと、黒須は推測した。
あの進一という青年は生前はどんな人だったのかが、一番の顕要な事だと黒須は睨んだ。
「息子さんは、どんな人ですか…?」
「…息子さんですか?実は、30年以上前に亡くなっていて…旦那様は、息子さんが幼い頃に既に他界してるんです…」
受付の人の目は潤んでおり、老婦を憐れんでいる様だった。
黒須は、帰ったフリをすると病院の中に張り込み、あたりに札を貼ることにした。この札は、生者を霊障で苦しめない為の物だ。過去に多くの人間が霊障で死に、幻界では満員状態でパンク寸前であった。
しばらく息を潜んでいると、どっとドライアイスの様な乾いたようなゾクゾクする寒気を覚えたのだった。
病室のドアがゆっくり静かに音を立ててスライドする。中にはガムテープでぐるぐる巻きのマネキンが姿を現した。進一である。
黒須は、じっと静かに息を潜め押し入れの中から状況を伺った。
カチカチという音が病室内に響き渡るー。黒須は念の為に老婦の周りに結界を張っていたのだった。しかしー、今回の悪霊は只者ではなかったー。生前は表向きはロッカーを目指す優男ー、裏の顔は連続殺人鬼なのであったからだ。
「…し、進一」
老婦は白内障が進行しており視界が白くぼやけて見えているが、目の前に居るのが我が息子であると直感で分かったのだった。
「か、あさん…」
マネキンはカチカチ口を鳴らして低い声を発した。
「お、お…進一…どうして…?」
老婦は僅かな喜びと不安と焦操感が入り乱れた複雑な心境であった。
「母さん、ごめんね…」
マネキンは右腕をドリルの様に回転させると、老婦に静かに近寄った。重い静かで不気味な空気に包まれたー。辺り一面は真空状態となるー。
するとー、マネキンには鎖の様な物で縛られていた。マネキンは首だけ器用に振り向くと、カタカタ歯を鳴らした。
「ーよお。どうかい?効くか?お手製のサジタリウスは…」
黒須は勢いよく物置のドアを開けた。彼女は、鎖を左腕にぐるぐる巻いている。鎖は青白く炎を纏っていた。
黒須は、鎖を締める手を強めた。
「辻山シンイチ…お前は、生前から今に至る迄何人殺してきたんだい…10人か…いや、100人は殺ったんだろうな…」
マネキンは、カタカタ激しく歯を叩き首を激しく回転させた。
「もう、お前はここで終いだ…」
黒須はそう言うと、マネキン全体に鎖でぐるぐる巻にすると、目を金色に光らせた。マネキンは急にキーキー音を立てると、激しく首を回転した。
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