上 下
2 / 2

愛してるには気付けない。

しおりを挟む

『貴方がこれを読んでいる頃には私はもう王国にはいないでしょう。
 
 ルルティアの街にいるお父様から結婚の話が出ました。

 ヴィルハイド公国の侯爵の元に嫁がされるようです。

 いつも一緒にいてくれた貴方と離れるのは本当に辛いけれど

 すぐに向かわなくてはならなくなりました。

 私は貴方と結ばれたかった。

 ただそれだけを願っていました。

 しかしそれは叶わないのですね。

 思い出すのは貴方の優しい榛色の瞳です。

 こんなにも愛おしいと思える男性は

 これまでもこれからも貴方だけでしょう。

 叶わない恋の記憶を胸に刻んで私は侯爵の元へ行きます。

 来世でまた会えたのならばその時は

 伝えられなかったこの想いを貴方に伝えたい。

 恋愛は貴族に生まれた私にとって縁のない物と思っていたけれど

 大好きな貴方に会えてそんな考えは変わりました。

 死んでも良いと貴方のためならそう思えた。

 手紙は使用人の前で書いているから見られるのは恥ずかしいけれど

 言わなければ一生後悔すると思って書きます。

 伝えたいことはただ一つ。

 まだ私は貴方を想っているわ。

 でもお願いだから私を忘れてちょうだい。

 もっといい女性が貴方には現れるはずよ。

 全く女心に気付かないのは悪い所だから直してね。

 掴んだ手を離さないでと思うのが女性なの。

 手を思い出すわ。貴方の大きくて優しい手。

 いつもその手が私を安心させてくれた。

 瑠璃色るりいろとなった二人の運命だったけれど

 私はそれでも愛されて幸せでした。

 貴方のことはいつまでも忘れない。

 一緒にいてくれてありがとう。

 死が私を迎えに来ても最後に思い出すのは貴方のことよ。

 天国では貴方と一緒になります。その時は今世の分まで貴方を幸せにするわ。

 流転るてんの先でまた会いましょう 』

 アルヴィスは手紙を畳むと潤んだ瞳で宙を見上げた。

 難しい言葉遣いは博識な女性らしいと今でも思う。

 女性は今でも公国で暮らしているのだろうか。
 
 一度だけ休みをもらって向かったことがあるが、怖くて会うことが出来なかった。

 もし幸せに暮らしているのならば、それだけで良いとアルヴィスは思う。

 酒を飲みながら何度も読み返す内にまぶたが重くなっていく。

 コンコンコン。

 そんなノックの音でアルヴィスは目を覚ました。

 酒のせいかそのままテーブルで寝てしまっていたらしい。

 手紙が無事だったことにホッとしながらドアへと向かうと自分を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。

 どうやら頼んでいた家政婦が来てくれたらしい。

 そのどこか聞き覚えのある声にドアを開くとヘリオトロープの香りがした。

 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

兎月
2023.04.02 兎月

凄く感動的なお話でした。
作者様が設置されたとあるタグに読み終わってから気づいて再度読み返し、お嬢様の苦悩を思って苦笑してしまいました。

泣き虫な脳筋さんとお嬢様に幸せが訪れますように。

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

契約結婚~彼には愛する人がいる~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:4,263

王太子の望む妃

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:588

スペクターズ・ガーデンにようこそ

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:434pt お気に入り:2

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:55,654pt お気に入り:4,940

クラスごと異世界に召喚されたけど、私達自力で元の世界に帰ります

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,562pt お気に入り:6

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:539pt お気に入り:2,421

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。