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愛してるには気付けない。
『貴方がこれを読んでいる頃には私はもう王国にはいないでしょう。
ルルティアの街にいるお父様から結婚の話が出ました。
ヴィルハイド公国の侯爵の元に嫁がされるようです。
いつも一緒にいてくれた貴方と離れるのは本当に辛いけれど
すぐに向かわなくてはならなくなりました。
私は貴方と結ばれたかった。
ただそれだけを願っていました。
しかしそれは叶わないのですね。
思い出すのは貴方の優しい榛色の瞳です。
こんなにも愛おしいと思える男性は
これまでもこれからも貴方だけでしょう。
叶わない恋の記憶を胸に刻んで私は侯爵の元へ行きます。
来世でまた会えたのならばその時は
伝えられなかったこの想いを貴方に伝えたい。
恋愛は貴族に生まれた私にとって縁のない物と思っていたけれど
大好きな貴方に会えてそんな考えは変わりました。
死んでも良いと貴方のためならそう思えた。
手紙は使用人の前で書いているから見られるのは恥ずかしいけれど
言わなければ一生後悔すると思って書きます。
伝えたいことはただ一つ。
まだ私は貴方を想っているわ。
でもお願いだから私を忘れてちょうだい。
もっといい女性が貴方には現れるはずよ。
全く女心に気付かないのは悪い所だから直してね。
掴んだ手を離さないでと思うのが女性なの。
手を思い出すわ。貴方の大きくて優しい手。
いつもその手が私を安心させてくれた。
瑠璃色となった二人の運命だったけれど
私はそれでも愛されて幸せでした。
貴方のことはいつまでも忘れない。
一緒にいてくれてありがとう。
死が私を迎えに来ても最後に思い出すのは貴方のことよ。
天国では貴方と一緒になります。その時は今世の分まで貴方を幸せにするわ。
流転の先でまた会いましょう 』
アルヴィスは手紙を畳むと潤んだ瞳で宙を見上げた。
難しい言葉遣いは博識な女性らしいと今でも思う。
女性は今でも公国で暮らしているのだろうか。
一度だけ休みをもらって向かったことがあるが、怖くて会うことが出来なかった。
もし幸せに暮らしているのならば、それだけで良いとアルヴィスは思う。
酒を飲みながら何度も読み返す内に瞼が重くなっていく。
コンコンコン。
そんなノックの音でアルヴィスは目を覚ました。
酒のせいかそのままテーブルで寝てしまっていたらしい。
手紙が無事だったことにホッとしながらドアへと向かうと自分を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。
どうやら頼んでいた家政婦が来てくれたらしい。
そのどこか聞き覚えのある声にドアを開くとヘリオトロープの香りがした。
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