逃げて、恋して、捕まえた

紅城真琴

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捕まえたのは王子様

ハッピーエンド①

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病院の特別室での入院生活は約束通り一週間。
その後無事に退院し、私は奏多のマンションへと戻った。
ここを出るときに荷物のほとんどを処分してしまった私のために、生活に必要なものはすべてお母様が新しくそろえてくださったらしい。

「私のためにこんなにしてもらって、申し訳ないわね」
「何言っているんだよ。母さんが好きでしているんだ。それに母さんがしなくても俺がするんだから結果は一緒だろ」

そりゃあそうだけれど。

「それより、時間大丈夫?」
「ああ、そうだ」
急がなくちゃ。

実は今日、九州の両親が東京にやってくる。
本当なら奏多と2人実家に行って結婚の報告をしないといけないけれど、私の体調を心配して両親が来てくれることになった。

「じゃあ行こうか」
「うん」

空港までお父様が車を手配してくださっていて、私たちも両親も平石邸で合流の予定。
さすがに遅れるわけにもいかないから、時間より早めに家を出ることにした。


マンションの駐車場に降りて、私はまず違和感を覚えた。

「さあ、乗って」
「うん」
って、この車初めて見るんだけれど。

「ああ、少し大きいのに買い替えたんだ」
私の視線を感じてか、奏多が言い訳気味に口にした。

買い換えたんだって、まるで靴でも買うようなこと言って。
だって、これってドイツの高級車でしょ?

「芽衣や子供を乗せるんだから、走りより広くて安全な方がいいじゃないか」
「そりゃあそうだけれど・・・」

こんな高級車をポンッて買ってしまう金銭感覚についていけない。

「ごめんごめん。次からはちゃんと相談するから」

こうやって、時々住む世界が違うなと思い知らされる時がある。
そのたびに不安な気持ちになるけれど、そこは慣れていくしかないのかな。

***

「「こんにちわ」」

最近よくお邪魔するようになった平石邸。
広い敷地の中に母屋と数棟の離れがあり、母屋にはご両親、離れにはお兄さん家族とおじいさまご夫婦が住んでいる。

「あら、いらっしゃい」
「今日はすみません。お世話になります」
「何言っているの。当たり前のことよ。本当ならこちらから出向くべきなのに」
「そんなあ・・・」

私の両親のために忙しいはずのお父様までお休みをとってくださったのを知っている。

「もうすぐ着きますって連絡があったから、さあ上がりなさい」
「はい」

私も上がらしてもらい、お母様と一緒にお茶の用意を手伝った。

***

「さあどうぞ。お忙しいところわざわざすみません」

両親が到着すると和室の客間に通され、大きなテーブルを挟んでお父様とお母様、奏多が並び、向かい合って両親と私が座った。

「初めまして、奏多の父です」
「芽衣の父です」

お互いの両親が挨拶をはじめ、和やかに会話が進む。

しばらくして、
「お父さん」
突然、奏多が声を上げた。

みんなの視線が一斉に集まる。
私も何を言い出す気だろうと、ドキドキしてみていた。

座っていた座布団を降りた奏多は畳に直接座り、両手をついた。

「事後報告のようで申し訳ありませんが、芽衣さんと一緒になりたいと思っています。結婚をお許しいただけないでしょうか?」

ここに呼ばれた以上こういう話になるのはわかっていたはずだけど、父さんがどんな返事をするのだろうと私はドキドキしていた。

「奏多君。私達はここ数ヶ月ずっと芽衣との連絡が取れない状態だった。電話をしてもつながらないし、メールの返事も来ない。そのうち仕事をやめたとか、アパートを引っ越したとか聞いて、本当に心配したんだ。もちろんそれを君のせいだというつもりはない。悪いのは連絡しなかった芽衣だろう。でも、正直複雑な思いではある」
「すみません」
自分が悪いわけでもないのに、奏多が頭を下げる。

「待ってお父さん。そのことは私の問題でしょ、何で奏多に言うのよっ」
私のことで奏多が叱られるのが我慢できなくて、お父様やお母様がいらっしゃるのも忘れてつい身を乗り出した。

この数ヶ月何も知らされず私との連悪が途絶えていた両親から見ると怒りはあるはず。それは私にだって理解できる。でも、私達にだってそれなりの事情はあるわけで・・・

「芽衣、やめろっ」

え?
奏多の鋭い声が聞こえて、私は視線を向けた。
そこには怒った表情の奏多がいて、まっすぐに私を見ている。

「お父さんになんて口をきくんだ。わざわざ遠くまで来てくださっているのに、そういう態度はよくないぞ」
「・・・」

じっと私を睨んでいた奏多は、しばらくして父さんの方に向き直った。

「お父さん、申し訳ありません。芽衣にはあとで言って聞かせますので」
「いや、至らない娘で申し訳ない」
さすがに父さんも頭を下げた。

「お父さんのお怒りはもっともです。息子も含め私たちももう少し配慮があるべきでした」
「そんな、悪いのは芽衣ですから」

お父様と母さんも参戦して私の悪口合戦が始まっている。
でもそのおかげで、父さんの怒りも収まり話は進みだした。
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