妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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異世界転生編

第六話 妖精3

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 ノーム達と畑を耕した後、たくみ達が何処からともなく持ってきた野菜の苗を植える。

「たくみ君、これ、何処から持ってきたんだい?」

 オベロンの質問に、たくみはぴっぷ~、と下手な口笛を吹いて誤魔化した。どうやら話したくないらしい。

「妖精って、不思議な種族だな……」

 ジャガイモを植えながらそう呟くと、ノームがふと口を開いた。

「そういえば、前はたくみ殿のような種族はおらんかったな」
「え?」

 首を傾げるオベロンに、ノームは白い髭を撫でながら、言う。

「儂のような大地の妖精など、精霊由来の妖精ばかりじゃったぞ。たくみ殿の様な精霊の面影を残さん種族は始めて見た。恐らく、王の影響を受けて生まれたんじゃろうな」
「え゛……」

 ムキムキマッチョ妖精が、自身の影響を受けた結果と知り、オベロンは固まった。

「今までは世界の運営に便利な性質を持って生まれとったが、儂等に『王』が誕生したからな。王の為に生まれる者や、王の行動に影響を受けて生まれる者も出て来るじゃろうな」

 どんな種族が生まれるか楽しみだ、と朗らかに笑いながらノームは行ってしまった。

「おれの、えいきょう……」

 思い出すのは『ぴよこ』と『たくみ』である。
 恐らくは、オベロンが困っていたからそれを補完、補助する為に生まれたのだろうが、それにしったって、あの子供の夢をぶち壊すムキムキ妖精や、職業が布団な妖精が己の影響で生まれたとなれば、流石に動揺する。
 
「え、いや、待てよ……? 個人に影響を与えるのはもちろん、影響を与えて種族が生まれるのか? 規模が大きすぎじゃないか?」

 今更ながらに自分が『王』である事の責任の大きさに気付き、愕然とする。

「俺は、どうすれば良いんだ……」

 正直、どうする事も出来ない。
 目も当てられない様な馬鹿な真似はするつもりは無いが、そもそも生活基盤を揃えようと頑張っていたら、彼等が生まれたのである。そこに、オベロンの意思は介在していないのだ。妖精達がどう生まれてくるかなんて、オベロンには予想もつかない。
 出来る事は、身を慎んで生活する事のみである。



   ***



 ノームとたくみ達に手伝ってもらった畑は、家庭菜園としては立派なものが出来た。正直、自分の分だけと思って手掛けたサイズなので、この人数の食料を賄えるか心配である。
 しかし、そんなオベロンの心配も、すぐにノームに笑い飛ばされてしまった。

「ほっほっほ、なに、心配するな。妖精というのは、燃費の良い種族でな、林檎一つで一週間は食わなくても大丈夫じゃ。それに、儂は大地の妖精のノームじゃぞ? 畑なんぞ、作ろうと思えばすぐに作れるわい」

 これからも畑の様子を見てやるから、樹木の家の果実や収穫物をたまにくれと言われ、むしろ毎日持って行けと言ったら、ノームは朗らかに笑った。

「しかし、そうか……。妖精って燃費が良いのか……。ん? あれ? けど、俺は普通に腹が減るけどな?」

 昨日の夜は林檎一個だし、今日にいたってはまだ何も食べていない。とても空腹だ。
 今まではたくみ達に意識を持って行かれていたため気にならなかったが、一度意識すれば猛烈に腹が減っているように感じた。
 オベロンは樹木の家の果実を幾つか収穫すると、それをノームやたくみ達に配り、自身も収穫した葡萄を口に含む。
 葡萄は甘く、美味かった。しかし、果実ばかりだと流石に物足りなく、夕飯までには、せめて芋を収穫したい。『緑の王笏』を使えば、きっと収穫は可能だろう。

「王は精霊から進化したわけじゃないからの。儂等とは体の作りが違うんじゃろうな」
「なる程……」

 もしかすると、アルテシア様が違和感が少ない様、前世と同じ習慣で過ごせるように体を作ってくれたのかもしれない。
 ノームの言葉に納得したオベロンは、腹が膨れて人心地着いた後、小さく溜息を吐く。

「あとは調味料か……」

 せめて塩が欲しいな、と呟くと、ポン、と軽く肩を叩かれた。
 そちらを見てみれば、イイ笑顔でサムズアップするたくみが居た。
 たくみのその笑顔の意味をオベロンが知るのは、少しばかり後になる。



   ***



 果実での食事を済ませると、再び畑へ向かう。

「さて、幾らかは成長させちゃおうか。えっと、何処から何処までなら成長させても大丈夫かな?」

 オベロンの言葉に、たくみ達が身振りで此処から此処まで、と教えてくれる。

「よし。じゃあ、始めるよ」

 オベロンが『緑の王笏』に力を籠めると、王笏の輝石にふわりと光が灯り、それで大地を突けば、たくみ達が示した範囲の畑が仄かに光った。
 すると、苗や種を植えた処から、スルスルと植物が成長し、それぞれが収穫出来るまで大きくなり、そこで成長を止めた。
 
「ふー……。よし、収穫するか!」

 一つ、大きく息を吐き、オベロンは号令を上げた。
 その号令に、おー、とたくみ達はノリ良く腕を上げ、ノームはマイペースに畑に入っていき、収穫を始める。

「収穫するのは、まず芋じゃな。儂等はともかく、王は人間達と同じような食事を摂った方が良いじゃろう」

 そう言って、ノームは芋を掘り始めた。
 たくみ達も半数が芋掘りをし、残りの半数はオベロンと共にキャベツやサラダ菜、アスパラガス、スナップエンドウ、トマト等を収穫していく。
 
「上等なサラダが出来そうだな……」

 しかし、ドレッシングは無い。
 少しばかり煤けたオベロンの背中を哀れに思ったのか、ポン、とたくみが肩を叩いて差し出したのは、大人の握り拳大の岩塩だった。

「た、たくみ君……!」

 喜びに震えるオベロンに、俺達はまだまだこんなもんじゃないぜ、とばかりにニヒルに笑うたくみの後ろで、ほてほてと歩いてきたノームが言う。

「たくみ殿達は各種調味料を作るつもりらしいから、それまでは塩だけの生活じゃの。まあ、たくみ殿達の事だから、そう時間はかからんじゃろう。王には美味いもんを食わせてやりたいらしいからの」
「たくみ君……!」

 俺の為に……、とオベロンは感激して感謝の眼差しをたくみに向けた。
 そして、そんな眼差しを自分達の王から受けたたくみは、照れのあまり、ぐねぐねと身をひねったのだった。



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