妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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篩編

第二十三話 朝

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オベロンは疲れていた。
日暮れ前にロムルド王国の城を出て、帰って来てから夕食を摂り、先程風呂に入って来たばかりだ。
濡れた髪を拭きながら、ベッドに行き倒れるかの様に倒れ込む。
 あの襲撃事件から早一ヶ月。ロムルド王国の重鎮達との話し合いから始まり、トラル皇国の使者たるブラムとの話し合い、そして女神教の総本山たるジード神皇国に関する情報収集。兎に角、やる事がたくさんあったのだ。

「この冬は魔道具作りをする予定だったのに……」

 何だかんだで忙しくて、この冬でようやく実技に移れるかと思われる程度になったのだ。

「何でこんな事に……」

 そう呟きながら、シルキー手製の枕に顔を埋める。そのまま顔を上げずに嘆いていると、髪がふわりと乾かされるのを感じた。

「お疲れ様です、王様」
「ああ、ありがとう、シルキー」

 髪を乾かしたのは、シルキーだった。シルキーは家政妖精だけあって、人の世話に関する魔法を多く使う。サイコキネシスの様な魔法も使えるらしく、テーブルをひょい、と宙に浮かばせて掃除している様子を見て目を丸くしたのを覚えている。
 そんな事を考えながら目を瞑っていたのが悪かったのだろう。冬に備えて作った布団も被らずに寝てしまった為、翌朝は冬毛に換毛したふわもこ度を増したぴよこまみれで起床し、布団があるんだからちゃんと被りなさい、とでも言うかのように「ぴーよ!」と叱られてしまった。

「あー……、働きたくないでござる……」

 のっそりと着替えながらそう呟く。異世界で。まさかこのセリフを言う日が来るとは思っても見なかった。
 軽く溜息を吐きながら、食堂へ向かえば、そこにはノームが居た。

「おお、王よ。お疲れの様じゃの?」
「まあね……」

 少し心配そうに言われ、オベロンは苦笑しながら席に着いた。
すぐさまシルキーによってフレンチトーストとサラダ、スープが用意される。

「疲れた時は甘いものです」
「そうだね。ありがとう、シルキー」

 厚切りの食パンを使ったそれは、ナイフを入れればジュワッ、と音を立てて甘い匂いをより強くたち上させた。
 一口大にカットし、口に入れれば甘い至福が口の中に広がる。

「あー、幸せ……」

 しみじみと言うオベロンに、シルキーとノームが苦笑する。

「それで、王よ。人族との取り決めはどの程度決まったのかの?」

 ノームの質問に、オベロンは疲れた様な顔をして答える。

「取り合えず、ロムルド王国が窓口になって『生命の樹』を渡す事になる。渡す場所は島とロムルド王国を出て少しした所にそれらしい場所を作る。そこで注意事項を伝え、精霊に渡してもらう。俺が渡すより精霊が渡した方が、妖精は精霊が進化した姿だと信じてもらいやすいだろうし」
「まあ、そうかもしれんの」

 ノームは頷きながらも、自分達の王が不用意に人族と関わるのを減らせられるのならそれに越したことは無い、と考えていた。
 そうとは知らぬオベロンは、暢気に「精霊には手間をかけさせて悪いな」等と呟いていた。

「ところで、王国が窓口、というのはどういう仕事を任せるつもりなんじゃ」
「まず、ロムルド王国に申請してもらい、注意事項を説明してもらう。それに納得出来たらロムルド王国から精霊で伝言を飛ばしてもらい、日取りを決めて『生命の樹』を渡す事になる。まあ、つまり、説明役と連絡係だな」

 成る程、と頷きながらも、ノームは少し難しそうな顔をする。

「しかし、その注意事項に納得せず、それでも『生命の樹』を欲しがり、強硬手段に出たらどうするんじゃ? 他国の受け取った『生命の樹』を強奪するかもしれんぞ?」

 その指摘に、オベロンは確かにその可能性もある、と頷く。

「その場合は木霊の分体は『生命の樹』の種を植えず、精霊に分体を攫わせる。盗まれた側は要相談だな」
「ふむ。まあ、悪くは無いの。精霊は王から役目を貰いたくてうずうずしておるから丁度よかろう」

 定期的に精霊が王に頼られたいと騒いで五月蠅い、と眉間に皺を寄せるノームに、オベロンは目を丸くする。

「皆、ちょっと俺を好きすぎじゃないかな?」
「仕方がないと思うぞ。何せ、我等は女神様の創造物。女神様が好意を持っており、その手で直接お作りになった王には、本能的に好意を持つ。それでなくとも、王は我等を大事にしてくれているじゃろう? まあ、そんな事をされれば好意は大きくなるもんじゃ」

 そう返され、オベロンは「いや、皆が親切にしてくれるから……」等とぶつぶつ呟くが、頬が少し熱く感じる事から、ノームには照れている事はバレているだろう。
 オベロンは気を取り直す為に一つ咳払いし、話題を変える。

「それで話を戻すけど、取り合えずトラル皇国には『生命の樹』を渡す事になった。雪解けと共に帰国する予定だ。それから、ジード神皇国はあの聖女の事があるから様子見だな」

 聖女と聞いて、ノームは顔をしかめる。

「あの狂人の国か。あれを使者にするなど、全く信用できん国じゃの」
「まあ、そうなんだな。だから、様子見なんだ。これからの態度次第で『生命の樹』を渡すか、放置するか決める。できれば関わりたくないな。面倒そうだ」

 あのトラル皇国のサイラスみたいな信者ばかりなら良いんだが、と呟き、溜息を吐く。窓の外、雪で覆われた銀世界を眺めながら、雪解けの季節を思う。
 この雪が融けた後、世界がどう変わるのか、オベロンには想像もつかなかった。
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