錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

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令嬢は踊る

第四十二話 新生物誕生3

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 チアンは小猿をじっと見つめ、首を傾げる。

「ふむ……」

 その呟きが、不思議そうな色を帯びているのは気のせいか。
 お前一体何しやがった、という視線が突き刺さるなか、チアンは小猿から視線を外し、レナ達の方へ振り返って厳かに告げる。

「無事に式神に出来たようだな」
「どこが無事だぁぁぁ⁉」
「明らかに『予想外です』って顔に書いてあるじゃないの!」

 付き合いの長い二人から即座にツッコミが入った。
 
「あんた、いったい何したの!?」
「式神たぁ、どういう事だ!?」

 ネモとヘンリーがチアンに詰め寄り、イヴァンとレナはソソソ、と避難するようにその場から離れる。
 そうして、修羅場っている先輩達を遠目に、イヴァンに尋ねられた。

「それで、レナ、アレは一体どういう事なの?」
「あ、それが……」

 レナはイヴァンに、新生物を使い魔にしようとしたのだと簡単に説明した。
 その説明を聞き、イヴァンは色々と察したようで、手で目を覆って、天を仰いでしまった。何かまずい事をしてしまったようだ。

「あ、あの、何かまずかったですか?」
「うん……。ちょっとね……」

 イヴァンは渋い顔をしながら視線をレナの方へ戻し、言う。

「チアン殿下が式神とおっしゃるからには、その猿面は多分『呪具』だね」

 呪いの道具と書いて、『呪具』だよ、と教えられるが、つまりマジックアイテムみたいなものだろうか?
 そう質問すれば、似ているが、今回使われた物はマジックアイテムと同列に語るにはちょっと『負』の要素が大きい、と言われた。
 つまり、ヤバイ物なのだろう。
 やっぱり、と思うと同時に、ようやく先輩達が慌てふためいている理由を正確に理解した。
 青褪めるレナだったが、ネモに耳を掴まれて引っ立てられて来るチアンに気付き、視線を移す。

「レナちゃん、コイツが何をやらかしたかしっかり聞いてちょうだい」
「大丈夫だと言うのに……」

 据わった眼でそういうネモに、チアンは飄々とそう言うが、お黙り! さっさと説明しなさい! と耳を強く引っ張られて小さく悲鳴を上げる。

「分かった、分かった。言うから離してくれ」

 その言葉に、ヘンリーからも目配せをされ、ネモは渋々耳から手を放す。
 解放された耳をさすりながら、チアンは改めてレナを見る。

「少々予想外の事は起きたが、あの猿は間違いなくレナの式神――使い魔になっているから安心しなさい」
「はい……」

 レナは戸惑い気味に頷く。

「あの、何が予想外だったんですか?」
「ふむ……。そうだな、まず、猿面があの謎の生物に取り込まれた事だな」
「は?」

 チアンが言うには、あの面に宿るナニカが主体となり、元の肉体の方に宿る意識は薄弱なものとなる筈だったそうだ。つまり、あの面が謎の生物の肉体を乗っ取るはずだったのだ。

「しかし、猿面は繭玉の中へ取り込まれ、すり潰されて見る影もない」

 そう言って机の方に視線をやれば、金色の小猿はあっくんと戯れている最中だった。
 なにやら和む光景であるが、数分前と比べて落差が酷い。
 
「あれは凄いぞ。呪具に勝ち、身の内に取り込んだ。そうして猿面の性質を得て、猿の体と式神の契約を手に入れた。まったく、とんでもないイキモノを生み出したな」

 面白そうに目を細めるその姿は、美しくも、鳥肌が立つような空気を纏っている。
 今度は違う意味で顔色を悪くしているレナを、チアンは名前を付けてやれ、と言って小猿の方へ押し出した。
 小猿は主人が来たのに気づいたようで、クリッとした目でレナを見上げた。

「ええと、名前を付けようと思うんだけど、良いかな?」

 レナの問いかけに、小猿は嬉しそうに、ニコ、と笑った。
 それにレナは安堵し、ふわふわの金色毛玉を前に、どんな名前が良いか考える。

「そうね……、あ、そうだ」

 紫の瞳を見て、言う。

「綺麗な金色の毛並みだから、タンポポからとって、『ポポ』なんて名前はどうかな?」

 小猿は嬉しいのか、体をピョコピョコ跳ねさせて、鳴いた。

「ボアァァ……」
「鳴き声はそのままなの⁉」

 レナの悲鳴じみたツッコミが、部屋中に響いた。
 

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