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第一章 グリマルディ家の娘
24,沈む心
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◆
メイリーから聞いたあの話が事実なのか、未だ信じられない自分がいる。
どうしていいのか分からない。気持ちがどんどん灰色に染まっていくの。
気を紛らわすかのように、毎日友だちと遊び呆けるようになった。ダンススクールもサボるようになり、勉強もしないでただただ毎日がなんとなく過ぎていく。
「レイ、おかえり」
いつものように私が帰宅すると、母は小さな声で話しかけてくる。
一人勝手に気まずくなってしまい、まともに目を合わせられない。
リビングから顔を出した父は、怪訝な表情で私に言うの。
「今日も帰りが遅かったな。どこへ行っていたんだ?」
どこだっていいでしょう。友だちと遊んでいただけなんだから。それに……。
思わず口をついて出そうになった言葉を飲み込み、心の中でそう答えると、二人と会話を交わさないまま自分の部屋に閉じ籠った。
……本当に私は血の繋がらない娘なのかな。赤の他人なのかな……。訊きたいけれど、どうしても無理だった。
どんどん気分が沈んでいって止まらない。
ベッドの上で横になり、イヤホンを耳に当てて音楽を聴く。私が初めて個人大会で踊ったときの曲。世界的アーティスト・モラレスの格好いい歌声が耳の中をほんの少しだけ癒してくれる。
本当は今でもダンスを続けたい。スクールにも通い続けたい。だけどもう、メイリーがいる場所には行きたくない。
メンバーから心配しているってメッセージを何度も受け取ったけれど、一切返事はしなかった。今まで一緒に頑張ってきた仲間を裏切るような真似をして心苦しかった。だけど今の私には、全然気持ちに余裕がない。
無心で音楽を聴き続けていると──ふと、部屋の中に誰かが入ってきた気配を感じる。ドアの方に目を向けると、そこにはヒルスが立っていた。
驚いた私は、飛び起きながらイヤホンを外す。
「いきなり入ってこないで。ビックリするよ」
「ノックをしたのに反応がなかった」
「だったら尚更入らないでほしい。私だって、女の子なんだよ……」
もしも私たちが本当の兄妹ではないのだとしたら。部屋に二人きりでいるこの状況に、居心地の悪さを感じてしまう。
でもヒルスは、家に帰ってきたときいつもこうやって声をかけてくる。今の私にとってそれが負担なの。
呆れたような顔をしつつ、彼は私の顔をぐっと覗き込んできた。
「そんなことより、レイ。最近ダンススクールに行ってないみたいだな。ジャスティン先生も、クラスのみんなも心配しているぞ」
「……」
心の中を見透かされそうで、思わず顔を背けた。どう返事をしたらいいの?
彼は椅子に腰かけ、無理やり目線を私に合わせようとしてきた。
「もしかしてスランプなのか? 誰でも経験することだ。あまり気落ちするなよ。俺にもそういう時期はあったから……」
「違う、そうじゃない!」
彼の話を遮り、思わず大きな声を出してしまう。
「じゃあどうしてレッスンに行かないんだよ」
「……関係ないでしょ」
「関係あるから言ってるんだろ」
「私がダンスを辞めても、あなたには……ヒルスには何にも関係ないよ!」
私は息を荒くしながら、ヒルスから身体ごと逸らしてそう言い放つ。
「辞める……? 辞めるのか? なに言ってるんだ、冗談だろ」
まるで、私の言葉なんて信じられないという声になっている。
いつまでも居座るヒルスにイライラしてしまう。今は構ってほしくない。たまらず私は手元にあったクッションをヒルスに向かって投げつけた。
「もう出ていって!」
自分でもなにをやっているんだろうって思うよ。
こんなにヒルスが心配してくれてるのに、追い出すような真似をして。生意気だし最低だし、本当に可愛くない奴だよね。
背を向けていると、後ろから静かにドアの閉まる音がした。さすがの彼も諦めて出ていってしまったようだ。独りになった部屋の中は、一気に寂しさに覆われる。
今まで家族から愛情をいっぱい注いでもらっていると思ってた。だけど、どこまで信じていいのか、何を受け入れていいのかまるで分からない。
あの話が本当だとしたら……?
事実を隠してまで、私を家族として置いておく理由が見つからない。
まさか、身寄りのない子供が可哀想だから同情しているの? 仕方なく私を引き取ったの? もしそうだとしたら、そんなの要らない。
自分でもバカだと思う。こんなの、ただの被害妄想だ。
考えれば考えるほど、私の気持ちはひねくれていった。
メイリーから聞いたあの話が事実なのか、未だ信じられない自分がいる。
どうしていいのか分からない。気持ちがどんどん灰色に染まっていくの。
気を紛らわすかのように、毎日友だちと遊び呆けるようになった。ダンススクールもサボるようになり、勉強もしないでただただ毎日がなんとなく過ぎていく。
「レイ、おかえり」
いつものように私が帰宅すると、母は小さな声で話しかけてくる。
一人勝手に気まずくなってしまい、まともに目を合わせられない。
リビングから顔を出した父は、怪訝な表情で私に言うの。
「今日も帰りが遅かったな。どこへ行っていたんだ?」
どこだっていいでしょう。友だちと遊んでいただけなんだから。それに……。
思わず口をついて出そうになった言葉を飲み込み、心の中でそう答えると、二人と会話を交わさないまま自分の部屋に閉じ籠った。
……本当に私は血の繋がらない娘なのかな。赤の他人なのかな……。訊きたいけれど、どうしても無理だった。
どんどん気分が沈んでいって止まらない。
ベッドの上で横になり、イヤホンを耳に当てて音楽を聴く。私が初めて個人大会で踊ったときの曲。世界的アーティスト・モラレスの格好いい歌声が耳の中をほんの少しだけ癒してくれる。
本当は今でもダンスを続けたい。スクールにも通い続けたい。だけどもう、メイリーがいる場所には行きたくない。
メンバーから心配しているってメッセージを何度も受け取ったけれど、一切返事はしなかった。今まで一緒に頑張ってきた仲間を裏切るような真似をして心苦しかった。だけど今の私には、全然気持ちに余裕がない。
無心で音楽を聴き続けていると──ふと、部屋の中に誰かが入ってきた気配を感じる。ドアの方に目を向けると、そこにはヒルスが立っていた。
驚いた私は、飛び起きながらイヤホンを外す。
「いきなり入ってこないで。ビックリするよ」
「ノックをしたのに反応がなかった」
「だったら尚更入らないでほしい。私だって、女の子なんだよ……」
もしも私たちが本当の兄妹ではないのだとしたら。部屋に二人きりでいるこの状況に、居心地の悪さを感じてしまう。
でもヒルスは、家に帰ってきたときいつもこうやって声をかけてくる。今の私にとってそれが負担なの。
呆れたような顔をしつつ、彼は私の顔をぐっと覗き込んできた。
「そんなことより、レイ。最近ダンススクールに行ってないみたいだな。ジャスティン先生も、クラスのみんなも心配しているぞ」
「……」
心の中を見透かされそうで、思わず顔を背けた。どう返事をしたらいいの?
彼は椅子に腰かけ、無理やり目線を私に合わせようとしてきた。
「もしかしてスランプなのか? 誰でも経験することだ。あまり気落ちするなよ。俺にもそういう時期はあったから……」
「違う、そうじゃない!」
彼の話を遮り、思わず大きな声を出してしまう。
「じゃあどうしてレッスンに行かないんだよ」
「……関係ないでしょ」
「関係あるから言ってるんだろ」
「私がダンスを辞めても、あなたには……ヒルスには何にも関係ないよ!」
私は息を荒くしながら、ヒルスから身体ごと逸らしてそう言い放つ。
「辞める……? 辞めるのか? なに言ってるんだ、冗談だろ」
まるで、私の言葉なんて信じられないという声になっている。
いつまでも居座るヒルスにイライラしてしまう。今は構ってほしくない。たまらず私は手元にあったクッションをヒルスに向かって投げつけた。
「もう出ていって!」
自分でもなにをやっているんだろうって思うよ。
こんなにヒルスが心配してくれてるのに、追い出すような真似をして。生意気だし最低だし、本当に可愛くない奴だよね。
背を向けていると、後ろから静かにドアの閉まる音がした。さすがの彼も諦めて出ていってしまったようだ。独りになった部屋の中は、一気に寂しさに覆われる。
今まで家族から愛情をいっぱい注いでもらっていると思ってた。だけど、どこまで信じていいのか、何を受け入れていいのかまるで分からない。
あの話が本当だとしたら……?
事実を隠してまで、私を家族として置いておく理由が見つからない。
まさか、身寄りのない子供が可哀想だから同情しているの? 仕方なく私を引き取ったの? もしそうだとしたら、そんなの要らない。
自分でもバカだと思う。こんなの、ただの被害妄想だ。
考えれば考えるほど、私の気持ちはひねくれていった。
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