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15章 燃え尽きた松明
8-3
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ペトラは森の茂みの中から、のんびりと歩いて出てきた。散歩の途中で、偶然俺たちに出くわしたかのようだ。
(全く意図が掴めないんだけど……)
戦う気なのか?だとしたら、どっち側につく気だろう……?
ペトラが来たのは、倒れた木を境目と見ると、俺たちの方だ。こちら側に付くってことか?だけどくるりと振り向けば、そのまま俺たちと戦うことも可能だ。
「どちらの味方なんでしょう……」
ウィルもまた、ペトラの出方を慎重に伺っている。俺たちは油断なくペトラの動向を見守る。
一方で、マスカレードの方もペトラを睨んでいた。
「てめぇはぁぁ……!」
ギリギリと歯を食いしばり、右肩を押さえて唸っている。そういや、奴とペトラは一戦交えているんだっけ?
「生きていやがったのか!それに、その腕!片方落としたはずだろ!」
「ああ。だが、そっくりそのまま残っていたからな。また繋いだだけだ」
「なにぃ……?てめえ、まともじゃないな。で、何しに来た!また僕の邪魔をする気か!」
「そうではないが、結果的にそうなりそうな気がしている」
荒々しく声を張り上げるマスカレードに対して、ペトラはあくまで冷静だ。少なくとも、二人は友達同士じゃないらしい。
「なぜ僕の邪魔をする!てめぇとそこの勇者は、仲間か?」
おっと、その答えには興味があるぞ。俺は全神経を耳に傾けた。
「仲間ではない。だが少なくとも、貴様よりは馬の合う連中だ。貴様がこの者たちを害そうというのなら、私は貴様を止めることになるだろう」
お、お?少々分かりづらいが、つまりこっち側につくってことだよな?ほっ、よかった。
「ああそうかい……あくまで僕に盾突こうってんなら、ここでまとめてぶっ殺してやるよぉ……!」
ぞわぞわっ。マスカレードの体から、鳥肌が立つようなオーラが噴き出す。これは奴の“闇の魔力”の気配だ!俺は思わず叫ぶ。
「ペトラ、気を付けろよ!」
「私のことはいい。それより桜下、お前はお前自身の心配をしろ。守ってやりたいが、約束はできない」
「あ、ああ。わかった、心配いらないよ」
俺たちの知る限り、ぺトラは常人ならざる剣士だ。エラゼムが認めたのだから、間違いない。下手に守ろうとするよりも、俺たち自身が足を引っ張らないようにしよう。
ライラはストームスティードを送り返し、俺たちはぎゅっと固まって、戦いに備えた。
マスカレードが動く!
「死ねやぁ!レイジユニコーン!」
ザアアァァァァ!マスカレードから、得体のしれない気配……見えない悪意とでも言うのか、そういったものが噴き出してくる。目には見えないが、本能が激しく警告している。これは、まずいぞ!前に一度、俺が喰らったやつだ!
「くそっ!エラゼム、援護頼む!」
「桜下殿!?」
慌てふためく仲間を尻目に、俺は腰元の短剣を抜いて、前に飛び出した。そのまま切っ先を、迫ってくる悪意の波動に向けて突き立てる。それはまったく視界に映っていなかったが、短剣を握る手には、確かに何かを切り裂く手ごたえがあった。
パンッ!半透明な膜が割れたかのように、突然目の前がクリアになった。俺の剣は確かに、奴の悪意を退けたようだ。
「ほう、いい得物を手に入れたな」
ペトラがこちらを見てにやりと笑うと、剣を抜き、猛然と走り出した。向かう先は、当然マスカレードだ。
「虫けらどもめ!」
マスカレードも、真っ黒な刀身の剣を抜いた。ペトラは走ってきた勢いそのままに、鋭い突きを繰り出す。マスカレードは、あえてそれを剣で受け止めた。
ガイィィィーン!ものすごい衝突音だ!鼓膜がつんざけそうになる。マスカレードは反動で後ろに吹っ飛び、ペトラもさすがに腕がしびれるのか、とんっとバックステップで下がった。けどすぐに剣を構え直す。信じられない、あれだけの衝突であの程度なのか?普通腕の骨が砕けるだろ!
「っそがぁ!」
衝撃から立ち直ったマスカレードが、イノシシのように突進してくる。剣を両手で持つと、バットのようにフルスイングでペトラに斬りかかる!ブゥーン!
ペトラは防ぐのではなく、跳躍してそれをかわした。まともに防ぐと、剣を折られるんじゃないだろうか。
「そこだっ!」
剣を空振りして隙を晒したマスカレードに、ペトラが空中から剣を突き出す。やったか!?
「あめぇんだよ!」
ガィン!信じられない!マスカレードはペトラの剣を蹴り上げやがった。あの体勢から、正確に剣の腹を狙ったのか?くそ、こうなると不利になるのはペトラの方だ。
マスカレードは蹴り上げた足を強引に引き戻すと、再度ハイキックを放った。空中で逃げられないペトラの腹に、蹴りが吸い込まれる。バキバキバキ!
「ぐっ!」
ああっ!嫌な音と共に、ペトラは紙切れのように吹っ飛ばされた。どれほどの威力なのか、想像するだけでも恐ろしい。さらに恐ろしいことに、マスカレードは信じられない速度でダッシュし、ペトラへ追撃を仕掛けようとしている!
「ヴィント、ネルケーー!」
ピュウウウ!突然つむじ風が巻き起こった。マスカレードの動きが、がくんっと止まる。
「おおお!いいぞライラ!」
ライラの魔法が、間一髪間に合ったのだ。ライラが作ったチャンスを、ペトラは無駄にはしなかった。
「ふんっ!」
「がはっ……」
ペトラはさっきのお返しとばかりに、ハイキックを喰らわせた。マスカレードはくの字に折れて、宙にかち上げられる。追撃のチャンスだ!だが、ペトラはそのまま膝をついてしまう。さっき受けたダメージ、あれが相当大きいんだ!
「アントルメ・グラッセ!」
パキパキバキバキ!突如、地面を突き破って、氷でできた巨大な手がせり出してきた。
「こ、これはっ!」
アルルカの魔法!あのやろう、ずっとチャンスを伺っていやがったんだ!氷の手は、宙に浮かんだマスカレードをむんずっと掴んだ。
「今よっ!ゾンビ娘!」
えっ?あれ、いつの間にかフランがいない!一体いつ移動したのか、フランはマスカレードたちが戦っているすぐわきの、大きな木の上に登っていた。アルルカの声を合図に、せり出した梢を助走路にして、フランが走り出す。飛んだっ!
「やあああぁぁぁぁぁ!」
ドコォッ!
フランの渾身のストレートは、マスカレードの顔面ど真ん中にクリーンヒットした。ガシャアンと氷が砕かれ、マスカレードが地面に吹っ飛び、叩きつけられる。フランはくるりと宙返りして着地すると、油断せずに敵の様子を伺った。
「ぐっ、がはっ」
こ、これは……効いてるぞ!マスカレードは痛みを堪えるように、氷の破片の中で悶えていた。手をついて立ち上がろうとしているが、かなりふら付いている。これは、大チャンスなんじゃないか?今なら、奴を倒せるかもしれない!フランもそう判断したのか、追撃しようとぐっと姿勢を低くした。その時だ。
カァァァ……ン。
奴の仮面が……マスカレードの顔を覆っていた、銀色の仮面が、割れた。
真っ二つになった仮面が地面に落ちる。その奥の素顔を見た時。俺も、フランも、そして仲間たち全員も、動くことを忘れてしまった。
「フラン……?」
俺は彼女の、だけど彼女のことじゃない名前を呼んだ。
真っ赤な瞳と、真っ白な肌。フードのすき間からこぼれる銀色の髪。
マスカレードの素顔は、フランと瓜二つだった。
「ど……」
ダメだ、声がうまく出ない。衝撃が大きすぎて、俺は放心状態だった。そしてそれは、俺以外も同じだった。だから、奴が懐をごそごそやっていることにも、俺たちは全く反応できなかったんだ。
「っ……!」
「あっ!」
パアァー!気付いた時にはもう遅かった。凄まじい閃光と共に、マスカレードが消えてしまった。テレポートのスクロールを使ったんだ。
「……」
だけど俺たちは、奴をみすみす取り逃した事よりも、今しがた見たものへの衝撃が勝ってしまっていた。
(どうして奴の顔が、フランと同じなんだ……?)
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ペトラは森の茂みの中から、のんびりと歩いて出てきた。散歩の途中で、偶然俺たちに出くわしたかのようだ。
(全く意図が掴めないんだけど……)
戦う気なのか?だとしたら、どっち側につく気だろう……?
ペトラが来たのは、倒れた木を境目と見ると、俺たちの方だ。こちら側に付くってことか?だけどくるりと振り向けば、そのまま俺たちと戦うことも可能だ。
「どちらの味方なんでしょう……」
ウィルもまた、ペトラの出方を慎重に伺っている。俺たちは油断なくペトラの動向を見守る。
一方で、マスカレードの方もペトラを睨んでいた。
「てめぇはぁぁ……!」
ギリギリと歯を食いしばり、右肩を押さえて唸っている。そういや、奴とペトラは一戦交えているんだっけ?
「生きていやがったのか!それに、その腕!片方落としたはずだろ!」
「ああ。だが、そっくりそのまま残っていたからな。また繋いだだけだ」
「なにぃ……?てめえ、まともじゃないな。で、何しに来た!また僕の邪魔をする気か!」
「そうではないが、結果的にそうなりそうな気がしている」
荒々しく声を張り上げるマスカレードに対して、ペトラはあくまで冷静だ。少なくとも、二人は友達同士じゃないらしい。
「なぜ僕の邪魔をする!てめぇとそこの勇者は、仲間か?」
おっと、その答えには興味があるぞ。俺は全神経を耳に傾けた。
「仲間ではない。だが少なくとも、貴様よりは馬の合う連中だ。貴様がこの者たちを害そうというのなら、私は貴様を止めることになるだろう」
お、お?少々分かりづらいが、つまりこっち側につくってことだよな?ほっ、よかった。
「ああそうかい……あくまで僕に盾突こうってんなら、ここでまとめてぶっ殺してやるよぉ……!」
ぞわぞわっ。マスカレードの体から、鳥肌が立つようなオーラが噴き出す。これは奴の“闇の魔力”の気配だ!俺は思わず叫ぶ。
「ペトラ、気を付けろよ!」
「私のことはいい。それより桜下、お前はお前自身の心配をしろ。守ってやりたいが、約束はできない」
「あ、ああ。わかった、心配いらないよ」
俺たちの知る限り、ぺトラは常人ならざる剣士だ。エラゼムが認めたのだから、間違いない。下手に守ろうとするよりも、俺たち自身が足を引っ張らないようにしよう。
ライラはストームスティードを送り返し、俺たちはぎゅっと固まって、戦いに備えた。
マスカレードが動く!
「死ねやぁ!レイジユニコーン!」
ザアアァァァァ!マスカレードから、得体のしれない気配……見えない悪意とでも言うのか、そういったものが噴き出してくる。目には見えないが、本能が激しく警告している。これは、まずいぞ!前に一度、俺が喰らったやつだ!
「くそっ!エラゼム、援護頼む!」
「桜下殿!?」
慌てふためく仲間を尻目に、俺は腰元の短剣を抜いて、前に飛び出した。そのまま切っ先を、迫ってくる悪意の波動に向けて突き立てる。それはまったく視界に映っていなかったが、短剣を握る手には、確かに何かを切り裂く手ごたえがあった。
パンッ!半透明な膜が割れたかのように、突然目の前がクリアになった。俺の剣は確かに、奴の悪意を退けたようだ。
「ほう、いい得物を手に入れたな」
ペトラがこちらを見てにやりと笑うと、剣を抜き、猛然と走り出した。向かう先は、当然マスカレードだ。
「虫けらどもめ!」
マスカレードも、真っ黒な刀身の剣を抜いた。ペトラは走ってきた勢いそのままに、鋭い突きを繰り出す。マスカレードは、あえてそれを剣で受け止めた。
ガイィィィーン!ものすごい衝突音だ!鼓膜がつんざけそうになる。マスカレードは反動で後ろに吹っ飛び、ペトラもさすがに腕がしびれるのか、とんっとバックステップで下がった。けどすぐに剣を構え直す。信じられない、あれだけの衝突であの程度なのか?普通腕の骨が砕けるだろ!
「っそがぁ!」
衝撃から立ち直ったマスカレードが、イノシシのように突進してくる。剣を両手で持つと、バットのようにフルスイングでペトラに斬りかかる!ブゥーン!
ペトラは防ぐのではなく、跳躍してそれをかわした。まともに防ぐと、剣を折られるんじゃないだろうか。
「そこだっ!」
剣を空振りして隙を晒したマスカレードに、ペトラが空中から剣を突き出す。やったか!?
「あめぇんだよ!」
ガィン!信じられない!マスカレードはペトラの剣を蹴り上げやがった。あの体勢から、正確に剣の腹を狙ったのか?くそ、こうなると不利になるのはペトラの方だ。
マスカレードは蹴り上げた足を強引に引き戻すと、再度ハイキックを放った。空中で逃げられないペトラの腹に、蹴りが吸い込まれる。バキバキバキ!
「ぐっ!」
ああっ!嫌な音と共に、ペトラは紙切れのように吹っ飛ばされた。どれほどの威力なのか、想像するだけでも恐ろしい。さらに恐ろしいことに、マスカレードは信じられない速度でダッシュし、ペトラへ追撃を仕掛けようとしている!
「ヴィント、ネルケーー!」
ピュウウウ!突然つむじ風が巻き起こった。マスカレードの動きが、がくんっと止まる。
「おおお!いいぞライラ!」
ライラの魔法が、間一髪間に合ったのだ。ライラが作ったチャンスを、ペトラは無駄にはしなかった。
「ふんっ!」
「がはっ……」
ペトラはさっきのお返しとばかりに、ハイキックを喰らわせた。マスカレードはくの字に折れて、宙にかち上げられる。追撃のチャンスだ!だが、ペトラはそのまま膝をついてしまう。さっき受けたダメージ、あれが相当大きいんだ!
「アントルメ・グラッセ!」
パキパキバキバキ!突如、地面を突き破って、氷でできた巨大な手がせり出してきた。
「こ、これはっ!」
アルルカの魔法!あのやろう、ずっとチャンスを伺っていやがったんだ!氷の手は、宙に浮かんだマスカレードをむんずっと掴んだ。
「今よっ!ゾンビ娘!」
えっ?あれ、いつの間にかフランがいない!一体いつ移動したのか、フランはマスカレードたちが戦っているすぐわきの、大きな木の上に登っていた。アルルカの声を合図に、せり出した梢を助走路にして、フランが走り出す。飛んだっ!
「やあああぁぁぁぁぁ!」
ドコォッ!
フランの渾身のストレートは、マスカレードの顔面ど真ん中にクリーンヒットした。ガシャアンと氷が砕かれ、マスカレードが地面に吹っ飛び、叩きつけられる。フランはくるりと宙返りして着地すると、油断せずに敵の様子を伺った。
「ぐっ、がはっ」
こ、これは……効いてるぞ!マスカレードは痛みを堪えるように、氷の破片の中で悶えていた。手をついて立ち上がろうとしているが、かなりふら付いている。これは、大チャンスなんじゃないか?今なら、奴を倒せるかもしれない!フランもそう判断したのか、追撃しようとぐっと姿勢を低くした。その時だ。
カァァァ……ン。
奴の仮面が……マスカレードの顔を覆っていた、銀色の仮面が、割れた。
真っ二つになった仮面が地面に落ちる。その奥の素顔を見た時。俺も、フランも、そして仲間たち全員も、動くことを忘れてしまった。
「フラン……?」
俺は彼女の、だけど彼女のことじゃない名前を呼んだ。
真っ赤な瞳と、真っ白な肌。フードのすき間からこぼれる銀色の髪。
マスカレードの素顔は、フランと瓜二つだった。
「ど……」
ダメだ、声がうまく出ない。衝撃が大きすぎて、俺は放心状態だった。そしてそれは、俺以外も同じだった。だから、奴が懐をごそごそやっていることにも、俺たちは全く反応できなかったんだ。
「っ……!」
「あっ!」
パアァー!気付いた時にはもう遅かった。凄まじい閃光と共に、マスカレードが消えてしまった。テレポートのスクロールを使ったんだ。
「……」
だけど俺たちは、奴をみすみす取り逃した事よりも、今しがた見たものへの衝撃が勝ってしまっていた。
(どうして奴の顔が、フランと同じなんだ……?)
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