新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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面影橋メモリーズ

面影橋メモリーズ(4)

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 巫女みこまいとは巫女みこ神楽かぐらともいって、巫女による奉納のためのまいのこと。
 神楽かぐらうたに合わせ、鈴やさかき、扇を手にたおやかに舞う。

「じゃあ『とよさかまい』のはじまりのほうだけね」

 ハルはスマホを操作して神楽かぐら殿でんの床に置いた。
 スピーカーからは笛や琴の優雅な音色が聞こえてくる。

「音質いまいちだけど、我慢してね」

 神楽かぐらうたが当たり前のようにスマホに入っている時点で、それはもうどうでもいい問題のような気がする……。

 何はともあれ、さかきを手に、やわらかにしなやかに舞う姿にモジャコは目を奪われた。

 こんな感じだけど——と、ハルは一礼し、曲を止めた。

「やん、ミコちゃん素敵♥ ファンになっちゃう♡」
「はは……」
「そうであろう、そうであろう! かっかっかっ!」

 お姉さん大興奮(JM)。


 モジャコげんなり、ハル空笑い。
 そしてじじいは高笑い。

「素人目でも、いいなって思った」
しまの子供たちには『悠久のまい』を教えてあげるつもりなの。いまの『とよさかまい』より所作がはっきりしているからわかりやすいし」
「ほんと恩に着る!」
「かっかっかっ! はやの手配もできておるぞ。至れり尽くせりじゃな!」
「へえ!」

 ——と、喜ぶモジャコだったが、ハルは申し訳なさそうに謝った。

「忘れてた、ごめん……」
「あれ、なんで?」
祭囃子まつりばやし保存会っていう、ほとんど神酒みきが目当てのタチの悪いじじいの集団。ま……仕事はちゃんとするから勘弁してあげてね」
「はは……」

 モジャコは乾いた笑い。

「打ち上げの準備はしとくよ」

 ❖ ❖ ❖ ❖ ❖

 そして最初の練習日。


 梅雨の土曜日の午後、前の年にあき神社で行われた巫女みこまいの映像を見てから、さっそく巫女装束みこしょうぞくに身を包み、中盤の所作を1つだけ舞ってみることになった。

「いきなり?」

 モジャコは心配顔だ。
 けれどもハルは面白そうに笑った。

「いいの、いいの」

 参加したのは小学校の中学年から高学年までの女の子、8人だった。

 基本的にはやってみたいから集まったわけだ。
 ただ、それほど積極的でなくても誘われるがままに何となく来てしまった子もいれば、映像を最初から最後まで見て、急に気後れしてしまう子もいた。

 それがはくそでを通して緋袴ひばかまを履き、はやを羽織って挿頭かざしを髪に通せば気分も高揚するもの。

 さらにハルは、夜遅くなるからと、子供たちの親に迎えに来てくれるようにお願いしていた。
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