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臣下から拍手が起こる。だがそこにフェルナンドが口を挟んできた。顔は怒りで赤黒くなっている。
「お待ち下さい、父上! その女は私の部下が私の屋敷へ連れて帰ったもの。それをこいつが皇宮の前で無理矢理奪っただけなのです! そんな卑怯な真似が許されるのですか? 皇太子になるのはこの私のはず!」
フェルナンドの母、王妃テオドラも援護する。
「そうですわ! 第一皇子であり陛下と公爵家の血を引く我が息子フェルナンドが皇太子に相応しいに決まっております。このような下賎な者を皇帝にすべきではありません!」
「黙れ」
アダルベルトは冷めた目でフェルナンドを見やった。
「奪われるほうが間抜けであろう。ここまで連れてきた者が皇太子だと言ったはずだ」
「し、しかしっ……!」
「陛下、お考え直してくださいませ!」
「……二人とも、黙れと言ったがわからなかったか」
アダルベルトが二人を睨みつけると黙り込んだ。だが様子がおかしい。顔がどんどん赤くなり、喉を掻きむしり始めた。
「……っ、陛下!」
ウィルが叫ぶ。アダルベルトはクックっと笑いながらウィルに言う。
「ウィルフレド、助けてやれ」
ウィルが呪文を唱えると魔法が解け、二人はハーッ、ハーッと息も絶え絶えな様子でその場に座り込んだ。アダルベルトに呼吸を止められていたのだ。
「お戯れが過ぎます」
「ふっ、やはりお前が跡継ぎに相応しい。あのくらい、お前なら跳ね除けられただろう」
アダルベルトは臣下たちにも向けてよく通る声で言い渡した。
「第二皇子ウィルフレドが緋色の魔女を倒し、聖女を我が帝国にもたらした。今日より、ウィルフレドを次代の皇帝とする。第一皇子フェルナンドと王妃テオドラは身分剥奪のうえ辺境へ送る」
「なっ……! 我が娘テオドラを、なぜ!」
臣下の中から一人の男が立ち上がり異を唱えた。テオドラの父、ランヘル公爵だ。
「私が知らぬと思っておるのか? ランヘル。王妃の実家という立場を利用して随分と懐を潤していたようだな」
サッと顔が青ざめるランヘル公爵。
「テオドラもフェルナンドも同様だ。証拠も揃っている。命だけは取らずにおいてやるから今すぐ辺境へ向かえ」
アダルベルトが片手を上げると兵士が三人を追い立て、部屋の外へ連れて行った。
「さて、ウィルフレド。お前には早速課題を与える」
「課題、ですか?」
「私はカレスティアを帝国の支配下に入れるつもりだ。お前はカレスティアに向かい、混乱した国を立て直してこい。それが終われば皇太子として国内外にお披露目だ。同時に婚約発表も行う」
「……承知いたしました」
「エレナよ」
「は、はい」
「お前はその間我が国で花嫁修行に努めよ。ルシアに指南を仰ぐとよい」
(花嫁修行? ウィルと離れて……?)
鋭い目で見られて返答に詰まるエレナ。ウィルはそんなエレナを安心させるように手を取った。
「エレナ、ルシアは俺の母だ。辛い思いはさせない。すぐに帰ってくるから待っていてくれ」
ウィルがそう言ってくれるなら怖くない。エレナは頷き、「承知いたしました」と告げた。
「では決まりだ。明日から早速フェルナンドの屋敷をウィルフレド夫妻用に改修を始める。ディエゴ、指揮を取れ」
「はい、皇帝陛下」
落ち着いた白髪の男性が恭しく礼をする。アダルベルトは立ち上がり、マントを翻して謁見の間を後にした。
臣下たちがざわざわと話し始め、それからウィルのところへ集まって口々に祝いの言葉を述べる。
「おめでとうございます、ウィルフレド殿下。殿下に決まって本当に良かった」
「フェルナンド殿下になったらこの帝国はどうなるかと心配しておりました」
だが一部の臣下は集まってヒソヒソと話し合っている。おそらくフェルナンドの派閥だろう。とはいえ大方の者はウィルが皇太子になることを喜んでいるように見えた。
「……すまんが、今日は疲れている。またにしてくれるか?」
着飾った人々の中に汚れた軽装のウィルとエレナ。それが意味するところを察した臣下たちは黙り込み、頭を下げて道を開けた。
「お疲れのところお引き留めして申し訳ございませんでした。また改めてお祝いを申し上げます」
ウィルは彼らに向かって頷く。そしてエレナの肩にトン、と触れて退室を促した。
「行くぞ、エレナ」
「はい」
そして二人は皇宮を後にした。
「お待ち下さい、父上! その女は私の部下が私の屋敷へ連れて帰ったもの。それをこいつが皇宮の前で無理矢理奪っただけなのです! そんな卑怯な真似が許されるのですか? 皇太子になるのはこの私のはず!」
フェルナンドの母、王妃テオドラも援護する。
「そうですわ! 第一皇子であり陛下と公爵家の血を引く我が息子フェルナンドが皇太子に相応しいに決まっております。このような下賎な者を皇帝にすべきではありません!」
「黙れ」
アダルベルトは冷めた目でフェルナンドを見やった。
「奪われるほうが間抜けであろう。ここまで連れてきた者が皇太子だと言ったはずだ」
「し、しかしっ……!」
「陛下、お考え直してくださいませ!」
「……二人とも、黙れと言ったがわからなかったか」
アダルベルトが二人を睨みつけると黙り込んだ。だが様子がおかしい。顔がどんどん赤くなり、喉を掻きむしり始めた。
「……っ、陛下!」
ウィルが叫ぶ。アダルベルトはクックっと笑いながらウィルに言う。
「ウィルフレド、助けてやれ」
ウィルが呪文を唱えると魔法が解け、二人はハーッ、ハーッと息も絶え絶えな様子でその場に座り込んだ。アダルベルトに呼吸を止められていたのだ。
「お戯れが過ぎます」
「ふっ、やはりお前が跡継ぎに相応しい。あのくらい、お前なら跳ね除けられただろう」
アダルベルトは臣下たちにも向けてよく通る声で言い渡した。
「第二皇子ウィルフレドが緋色の魔女を倒し、聖女を我が帝国にもたらした。今日より、ウィルフレドを次代の皇帝とする。第一皇子フェルナンドと王妃テオドラは身分剥奪のうえ辺境へ送る」
「なっ……! 我が娘テオドラを、なぜ!」
臣下の中から一人の男が立ち上がり異を唱えた。テオドラの父、ランヘル公爵だ。
「私が知らぬと思っておるのか? ランヘル。王妃の実家という立場を利用して随分と懐を潤していたようだな」
サッと顔が青ざめるランヘル公爵。
「テオドラもフェルナンドも同様だ。証拠も揃っている。命だけは取らずにおいてやるから今すぐ辺境へ向かえ」
アダルベルトが片手を上げると兵士が三人を追い立て、部屋の外へ連れて行った。
「さて、ウィルフレド。お前には早速課題を与える」
「課題、ですか?」
「私はカレスティアを帝国の支配下に入れるつもりだ。お前はカレスティアに向かい、混乱した国を立て直してこい。それが終われば皇太子として国内外にお披露目だ。同時に婚約発表も行う」
「……承知いたしました」
「エレナよ」
「は、はい」
「お前はその間我が国で花嫁修行に努めよ。ルシアに指南を仰ぐとよい」
(花嫁修行? ウィルと離れて……?)
鋭い目で見られて返答に詰まるエレナ。ウィルはそんなエレナを安心させるように手を取った。
「エレナ、ルシアは俺の母だ。辛い思いはさせない。すぐに帰ってくるから待っていてくれ」
ウィルがそう言ってくれるなら怖くない。エレナは頷き、「承知いたしました」と告げた。
「では決まりだ。明日から早速フェルナンドの屋敷をウィルフレド夫妻用に改修を始める。ディエゴ、指揮を取れ」
「はい、皇帝陛下」
落ち着いた白髪の男性が恭しく礼をする。アダルベルトは立ち上がり、マントを翻して謁見の間を後にした。
臣下たちがざわざわと話し始め、それからウィルのところへ集まって口々に祝いの言葉を述べる。
「おめでとうございます、ウィルフレド殿下。殿下に決まって本当に良かった」
「フェルナンド殿下になったらこの帝国はどうなるかと心配しておりました」
だが一部の臣下は集まってヒソヒソと話し合っている。おそらくフェルナンドの派閥だろう。とはいえ大方の者はウィルが皇太子になることを喜んでいるように見えた。
「……すまんが、今日は疲れている。またにしてくれるか?」
着飾った人々の中に汚れた軽装のウィルとエレナ。それが意味するところを察した臣下たちは黙り込み、頭を下げて道を開けた。
「お疲れのところお引き留めして申し訳ございませんでした。また改めてお祝いを申し上げます」
ウィルは彼らに向かって頷く。そしてエレナの肩にトン、と触れて退室を促した。
「行くぞ、エレナ」
「はい」
そして二人は皇宮を後にした。
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