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第5章 自重が足りてないって言われたよ⁈
059話 欲しいのは鮮魚
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石垣のような壁で覆われた一室で、アラヤ夫婦は雑談をしていた。ここは、カポリで見つけた宿屋フジツボの一室である。隣の部屋はソーリンが借りている。
「じゃあ、変化は無いんですね?」
「うん。サナエさんの舞の技能は少しも吸収できてない。少し前に取得した感覚補正だけだよ」
「それはつまり、職種による固定技能は取得できないという事でしょう。弱肉強食を使用しない限りは」
「…指、食べる?」
「冗談でも、ごめんだよ」
軽いノリで言うサナエさんを、ムッとした表情で睨む。そんな気は無いのは分かってると思うけどさ。
「ごめん。でも、ありがとう」
サナエさんも悪ふざけだったと謝ると同時に嬉しいと笑った。
「では、私の技能で取得できるのは、後はコールとメッセージですか?というか、私の場合は全部ですか?」
「ううん、コールとメッセージはデータ吸収されてないよ。伝道師の固定技能なんだろうね。あと、アヤコさんは新たに念動力LV 1を覚えてるみたいだよ?」
「本当ですか⁈やったっ!」
アヤコさん、なんか、ますますエスパーっぽくなってきたなぁ。
コンコン…。
入り口の扉がノックされる、ソーリンが来たようだ。
「アラヤさん、ちょっと良いですか?」
「どうぞ、開いてるよ」
扉を開けて、ソーリンが緊張した面持ちで入ってくる。まるで上司の家に呼ばれた新人の部下のようだ。会社勤めした事無いから、テレビで見た予想だけどね。
彼を呼んだのは今まで同様の、魔法を習得できるかの体験授業だ。今までも教えて来たけど、誰にでも教えてる訳じゃないからね?彼の協力が必要だからだよ?
アヤコさんとサナエさんで机と椅子を退かす。少し狭いが、この近辺では外に出て練習ができないので、威力を小さくして室内ですることにしたのだ。
別に港町を出てからでも良かったのだけど、早いうちから彼の行動手段が増えれば、移動時にも危険が減るというわけだ。
「隣に立って。俺が唱えた魔法名を復唱してみてね」
「はい!」
いつものように感覚共有を用いて、火、水、風、土、光、闇、無属性と試していく。
結果は、火属性の適性があると分かった。
「おお、私にも魔法が使えるようになるなんて!肉体強化に特化したドワーフは、魔法を習得する事自体が困難だというのに!ありがとうございます!」
「俺はキッカケを与えただけだよ。例えドワーフだからと言っても、適性はソーリン自体が持っていたものだからね?後は練習あるのみだよ」
「はい!」
ドワーフだけど、戦闘職じゃない事が魔法の適性を得た要因かもしれないね。全てが終わると、再び机を元の位置に戻して全員が座る。
「さて、貨物船の件だけど…」
それは、宿屋に来る前にあった事。アラヤが、勇者と呼ばれる冒険者達の話を盗み聞きして得た情報の話だ。
「つまり、ヴェストリ商会は、ズータニア大陸に村人達を売っているという事ですか?」
「人身売買か、労働派遣かは分からない。ただ、ヨウジ=ゴウダの指示によるものだという事だよ。人身売買の罪を追求する程の証拠は無いから、密輸問題だけを追求するしかないだろうね。おまけに、勇者が貨物船に乗り込んで行くらしいから、村人達の事は勇者に任せて良いと思うよ?」
「そう…ですね。この件は勇者に任せて、私達は次の街を目指しましょうか」
その瞳には微かな義侠心が見えたが、その役割は自分達には無いという現実を受け入れたようだ。何より、アラヤは勇者と関わりたくない。だから敢えて任せて良いと進言したのだ。
四人は、再び街に食事へと外出する。港の海面が赤く、沈む陽に染まっている。そこに貨物船の姿はもう無く、どこか寂しげな雰囲気を纏った漁船達が揺れているだけだ。
昼とは違うお店に入って、アラヤはメニュー表を凝視する。
「ここも焼き魚のみかぁ…」
寿司は無いのは分かるけど、刺身はあると思ってただけに、かなり落胆した。大体、蟹や海老すらないんだよ?あるのは、魚の塩焼きか煮物、貝の煮付け、海藻スープぐらい。
それでも一通り頼み、全て平らげてしまうアラヤを、三人はもう慣れた光景としていた。
「次の目的の街は何処だい?」
「北上して、グラーニュ領の街コルキアです。そこに、バルグ商会と契約している葡萄酒農園があるんです」
葡萄酒か。この世界に来てから、何度かお酒を飲んだけど、どれも穀物から製造された清酒のようなものだった。
酒の味を覚えたアラヤは、果実酒に当たる葡萄酒にも興味が芽生えていた。
「葡萄酒、良いね!それは楽しみだけど、その前に明日は朝市に行くからね?」
「ええ、分かってますよ」
食事を終えて部屋に戻り、湯浴みをした後は明日の為に直ぐに寝る事にした。
「アラヤさん、起きてますか?」
陽も登っていない早朝に、アラヤは小声で呼ばれて目を覚ました。ノロノロと寝ぼけながら扉の鍵を外して開ける。
「おはようございます。今から朝の魚市場に行きますよ?って、その…着替えて下さいね⁉︎」
顔を背けるソーリンに、自分達が裸なのを思い出した。昨日、早く寝るつもりだったのに、二人に挟まれたアラヤは雰囲気に流されてしまったのだ。
目が覚めているはずの奥様達は、シーツにくるまってもぞもぞしている。慌てて着替えているのだろう。
「ご、ごめん、直ぐに準備するから!」
扉を閉めて、三人は直ぐに支度をした。準備が終わって出てみると、ソーリンも馬車の準備を終えていつでも出発できる状態だった。
「お待たせ。さっきはごめんね」
「い、いえ。こちらこそ。それでは、漁船が続々と漁から帰って来てるようなので、向かいますね?」
「うん、お願い」
港の市場内には、松明の火が周囲に設置されておりとても明るかった。
手押し荷車に揚げられたばかりの魚が運ばれてくる。日本で見るような競りは無いようだけど、魚の種類別に並べていくようだ。
「ここでは、水揚げした魚は市場が買い取って、料理屋、海産物屋などに販売してるんです。売れ残りは肥料や飼料や魚醤になるらしいですよ」
「魚醤あるんだ⁉︎アラヤ、必ず買ってね?」
「分かった。じゃあ、早速魚を見てみようか」
四人は、邪魔にならないように魚を見て回る。自分達が見た事のある前世界の魚と比べると、目が4つあり、頭に触角らしきものがある意外は、ほぼ同種の魚と言えるだろう。…多分。
「鰹、鮪、鯵、鯛、おっ?これは秋刀魚かな?一応、これも買いだね」
選んだ魚の木箱を次々と並べていく。
やがて、魚市場の店員や漁師達が、何事だと不思議そうに注目しだした。
「やっぱり、あった‼︎すみません、あの、それは売らないんですか?」
それは、並べられている魚とは離れて、食品にはならない飼料の分類場所にあった。
「そりゃあ、デッドクラブとヘルロブスターという魔物の類いでさ。外殻は硬い上に凶暴で、漁の邪魔をするんで漁師達には嫌われてる奴さ。坊やは、こいつが欲しいのか?」
欲しいに決まってる。だって、蟹と海老だもの。全長1メートルと、想像した奴よりちょっと大き過ぎるけど。
「それは、今日水揚げした分を買いますよ。それと、こいつとは逆に体が柔らかい魔物は揚がってませんか?赤や白い奴です」
「ああ、デビルパスとキラースクイッドだな。奴等は廃棄処分する予定だが、それも欲しいのか?」
担当の店員は、本気かよと引いている。外人が日本に来て、イカやタコを食べると知った時の反応に似てるな。一度食べたら病みつきになると思うけどね。
「もちろん、全部いただきますよ」
気が付けば、ソーリンの荷馬車の前に、大量の木箱が並べられていた。ちょっと買い過ぎたかな?
「魚以外のアレは、元々値にならないものだ。かなり安くで売ってやるよ。…ったく、アレに一体何の利用価値があるんだか」
「大金貨3枚と金貨6枚⁈」
そういえば、前に下ろした金はほとんど使ってしまった。まだ、この時間じゃ商工会ギルドの銀行は開いてない。となれば…
「ソーリン、後で銀行から下ろすから、立て替えてもらえない?」
「全部買う気なのは変わらないんですね…。分かりました、今回だけですよ?次からは前もって下ろしておいて下さいね?」
「うん、そうする。ありがとうね」
支払いを済ませて、木箱を荷台へと仮に積み込んでから、出発した後に直ぐに亜空間へと収納する。
『アラヤ君は、少し浪費癖がありそうですね。私が金銭面は管理しましょうか?』
『い、いや、大丈夫だよ。皆んなも、焼き魚意外の料理を食べたかっただろうから、今回のは必要経費でしょ?』
『なら、もうちょっと自重して下さいね?』
『はい…』
確かに、箱買いで山積みとは量が多かったかもしれない。永久保存が効く亜空間収納があるからって、ちょっと軽率だったかな。
「じゃあ、変化は無いんですね?」
「うん。サナエさんの舞の技能は少しも吸収できてない。少し前に取得した感覚補正だけだよ」
「それはつまり、職種による固定技能は取得できないという事でしょう。弱肉強食を使用しない限りは」
「…指、食べる?」
「冗談でも、ごめんだよ」
軽いノリで言うサナエさんを、ムッとした表情で睨む。そんな気は無いのは分かってると思うけどさ。
「ごめん。でも、ありがとう」
サナエさんも悪ふざけだったと謝ると同時に嬉しいと笑った。
「では、私の技能で取得できるのは、後はコールとメッセージですか?というか、私の場合は全部ですか?」
「ううん、コールとメッセージはデータ吸収されてないよ。伝道師の固定技能なんだろうね。あと、アヤコさんは新たに念動力LV 1を覚えてるみたいだよ?」
「本当ですか⁈やったっ!」
アヤコさん、なんか、ますますエスパーっぽくなってきたなぁ。
コンコン…。
入り口の扉がノックされる、ソーリンが来たようだ。
「アラヤさん、ちょっと良いですか?」
「どうぞ、開いてるよ」
扉を開けて、ソーリンが緊張した面持ちで入ってくる。まるで上司の家に呼ばれた新人の部下のようだ。会社勤めした事無いから、テレビで見た予想だけどね。
彼を呼んだのは今まで同様の、魔法を習得できるかの体験授業だ。今までも教えて来たけど、誰にでも教えてる訳じゃないからね?彼の協力が必要だからだよ?
アヤコさんとサナエさんで机と椅子を退かす。少し狭いが、この近辺では外に出て練習ができないので、威力を小さくして室内ですることにしたのだ。
別に港町を出てからでも良かったのだけど、早いうちから彼の行動手段が増えれば、移動時にも危険が減るというわけだ。
「隣に立って。俺が唱えた魔法名を復唱してみてね」
「はい!」
いつものように感覚共有を用いて、火、水、風、土、光、闇、無属性と試していく。
結果は、火属性の適性があると分かった。
「おお、私にも魔法が使えるようになるなんて!肉体強化に特化したドワーフは、魔法を習得する事自体が困難だというのに!ありがとうございます!」
「俺はキッカケを与えただけだよ。例えドワーフだからと言っても、適性はソーリン自体が持っていたものだからね?後は練習あるのみだよ」
「はい!」
ドワーフだけど、戦闘職じゃない事が魔法の適性を得た要因かもしれないね。全てが終わると、再び机を元の位置に戻して全員が座る。
「さて、貨物船の件だけど…」
それは、宿屋に来る前にあった事。アラヤが、勇者と呼ばれる冒険者達の話を盗み聞きして得た情報の話だ。
「つまり、ヴェストリ商会は、ズータニア大陸に村人達を売っているという事ですか?」
「人身売買か、労働派遣かは分からない。ただ、ヨウジ=ゴウダの指示によるものだという事だよ。人身売買の罪を追求する程の証拠は無いから、密輸問題だけを追求するしかないだろうね。おまけに、勇者が貨物船に乗り込んで行くらしいから、村人達の事は勇者に任せて良いと思うよ?」
「そう…ですね。この件は勇者に任せて、私達は次の街を目指しましょうか」
その瞳には微かな義侠心が見えたが、その役割は自分達には無いという現実を受け入れたようだ。何より、アラヤは勇者と関わりたくない。だから敢えて任せて良いと進言したのだ。
四人は、再び街に食事へと外出する。港の海面が赤く、沈む陽に染まっている。そこに貨物船の姿はもう無く、どこか寂しげな雰囲気を纏った漁船達が揺れているだけだ。
昼とは違うお店に入って、アラヤはメニュー表を凝視する。
「ここも焼き魚のみかぁ…」
寿司は無いのは分かるけど、刺身はあると思ってただけに、かなり落胆した。大体、蟹や海老すらないんだよ?あるのは、魚の塩焼きか煮物、貝の煮付け、海藻スープぐらい。
それでも一通り頼み、全て平らげてしまうアラヤを、三人はもう慣れた光景としていた。
「次の目的の街は何処だい?」
「北上して、グラーニュ領の街コルキアです。そこに、バルグ商会と契約している葡萄酒農園があるんです」
葡萄酒か。この世界に来てから、何度かお酒を飲んだけど、どれも穀物から製造された清酒のようなものだった。
酒の味を覚えたアラヤは、果実酒に当たる葡萄酒にも興味が芽生えていた。
「葡萄酒、良いね!それは楽しみだけど、その前に明日は朝市に行くからね?」
「ええ、分かってますよ」
食事を終えて部屋に戻り、湯浴みをした後は明日の為に直ぐに寝る事にした。
「アラヤさん、起きてますか?」
陽も登っていない早朝に、アラヤは小声で呼ばれて目を覚ました。ノロノロと寝ぼけながら扉の鍵を外して開ける。
「おはようございます。今から朝の魚市場に行きますよ?って、その…着替えて下さいね⁉︎」
顔を背けるソーリンに、自分達が裸なのを思い出した。昨日、早く寝るつもりだったのに、二人に挟まれたアラヤは雰囲気に流されてしまったのだ。
目が覚めているはずの奥様達は、シーツにくるまってもぞもぞしている。慌てて着替えているのだろう。
「ご、ごめん、直ぐに準備するから!」
扉を閉めて、三人は直ぐに支度をした。準備が終わって出てみると、ソーリンも馬車の準備を終えていつでも出発できる状態だった。
「お待たせ。さっきはごめんね」
「い、いえ。こちらこそ。それでは、漁船が続々と漁から帰って来てるようなので、向かいますね?」
「うん、お願い」
港の市場内には、松明の火が周囲に設置されておりとても明るかった。
手押し荷車に揚げられたばかりの魚が運ばれてくる。日本で見るような競りは無いようだけど、魚の種類別に並べていくようだ。
「ここでは、水揚げした魚は市場が買い取って、料理屋、海産物屋などに販売してるんです。売れ残りは肥料や飼料や魚醤になるらしいですよ」
「魚醤あるんだ⁉︎アラヤ、必ず買ってね?」
「分かった。じゃあ、早速魚を見てみようか」
四人は、邪魔にならないように魚を見て回る。自分達が見た事のある前世界の魚と比べると、目が4つあり、頭に触角らしきものがある意外は、ほぼ同種の魚と言えるだろう。…多分。
「鰹、鮪、鯵、鯛、おっ?これは秋刀魚かな?一応、これも買いだね」
選んだ魚の木箱を次々と並べていく。
やがて、魚市場の店員や漁師達が、何事だと不思議そうに注目しだした。
「やっぱり、あった‼︎すみません、あの、それは売らないんですか?」
それは、並べられている魚とは離れて、食品にはならない飼料の分類場所にあった。
「そりゃあ、デッドクラブとヘルロブスターという魔物の類いでさ。外殻は硬い上に凶暴で、漁の邪魔をするんで漁師達には嫌われてる奴さ。坊やは、こいつが欲しいのか?」
欲しいに決まってる。だって、蟹と海老だもの。全長1メートルと、想像した奴よりちょっと大き過ぎるけど。
「それは、今日水揚げした分を買いますよ。それと、こいつとは逆に体が柔らかい魔物は揚がってませんか?赤や白い奴です」
「ああ、デビルパスとキラースクイッドだな。奴等は廃棄処分する予定だが、それも欲しいのか?」
担当の店員は、本気かよと引いている。外人が日本に来て、イカやタコを食べると知った時の反応に似てるな。一度食べたら病みつきになると思うけどね。
「もちろん、全部いただきますよ」
気が付けば、ソーリンの荷馬車の前に、大量の木箱が並べられていた。ちょっと買い過ぎたかな?
「魚以外のアレは、元々値にならないものだ。かなり安くで売ってやるよ。…ったく、アレに一体何の利用価値があるんだか」
「大金貨3枚と金貨6枚⁈」
そういえば、前に下ろした金はほとんど使ってしまった。まだ、この時間じゃ商工会ギルドの銀行は開いてない。となれば…
「ソーリン、後で銀行から下ろすから、立て替えてもらえない?」
「全部買う気なのは変わらないんですね…。分かりました、今回だけですよ?次からは前もって下ろしておいて下さいね?」
「うん、そうする。ありがとうね」
支払いを済ませて、木箱を荷台へと仮に積み込んでから、出発した後に直ぐに亜空間へと収納する。
『アラヤ君は、少し浪費癖がありそうですね。私が金銭面は管理しましょうか?』
『い、いや、大丈夫だよ。皆んなも、焼き魚意外の料理を食べたかっただろうから、今回のは必要経費でしょ?』
『なら、もうちょっと自重して下さいね?』
『はい…』
確かに、箱買いで山積みとは量が多かったかもしれない。永久保存が効く亜空間収納があるからって、ちょっと軽率だったかな。
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