【完結】運命の宝玉~悪役令嬢にはなりません~

らんか

文字の大きさ
15 / 66
王都~学園入学前

14.ジャック視点

しおりを挟む
 私はジャック・アストナ
 
 アストナ伯爵家の次男だ。
 
 私の魔法属性は聖属性という希少な属性。
 その属性を生かし、学園卒業後は国の近衛騎士団の治癒班に所属している。
 
 兄は私より3歳年上で、すでに結婚し伯爵家を継いでいるため、私は自由に暮らしていた。
 騎士団の治癒班に所属と言っても、今は平和な世で他国との戦争もしておらず、訓練中に怪我をした騎士を治すだけの簡単な仕事。
 
 時間を持て余していた私に、ある時、ベルイヤ侯爵から声を掛けられた。
 何でも聖属性魔法が使える人を、娘の家庭教師として探していたとの事。
 
 騎士団から許可が貰えたら受けてもいいと返答したら、即効で侯爵は騎士団から許可をもらってきた。
 
 12歳の侯爵の娘は、魔力35の聖属性と判定が出たらしい。
 学園に上がるまでに、基礎知識を身につけさせようという事だろう。
 
 魔力35と聞いて、断然興味を持った。
 そして、家庭教師として初めての授業の日。
 
 紹介された侯爵の娘に出会った時、あまりの美しさにびっくりした。
  
 腰近くまである長さのラベンダーピンク色の髪は、緩やかに後ろに流し、アメジスト色の目は大きくてやや切れ長。小さくてぷっくりとした口唇は桃色。
 12歳にしては、スラリと伸びた白い腕や、細い腰、胸もやや膨らみを帯びており、これからの成長がより一層楽しみな……
 って、いやいや。
 私は12歳の子供に何を考えている。
 
 どうせ侯爵令嬢として大切に扱われ、我儘になっているに決まっている。
 そもそも、私は貴族令嬢が嫌いだ。
 
 どいつもこいつも、淑女の仮面を被った悪魔か、男を品定めして狙うハンター。
 
 学生時代、私は散々その悪魔達に追い回され、女嫌いに拍車がかかったため、両親は私に婚約者を作れと煩く言わなくなった。
 
 これ幸いと、ようやく自由をもぎ取り、今は気ままに毎日を楽しんで過ごしている。
 
 そんな私が12歳の子供に惑わされてなるものか。
 
 これはきちんと始めに上下関係をはっきりさせておいた方がいいだろう。
 侯爵家だといっても、私は師として迎えられているのだから。
 
 だから私は、脅しの意味も込めて始めに治癒魔法の実践をして見せた。
 聖属性魔法は人を助ける魔法だ。
 傲慢な人間に人を助ける事は出来ない。
 人の痛みを知り、心から助けたいと思う気持ちを持つ。
 それには自分に置き換えるのが一番だ。
 大切に育てられてきた我儘令嬢には、自分が傷つく事など想像もつかないだろう。
 そう思って、少し意地悪な気持ちで、次は自分の指先に傷をつけて実践で治癒するように言った。
 
 なのにあんなに躊躇なく自分の指先を切りつけるとは。
 
 それを見た私の心臓が止まるかと思った。
 焦ってすぐに治癒してから、思わず令嬢に当たってしまった。
 怒る権利など私にはなかったのに。
 
 それからは自分に傷を付けて練習する事を禁じ、絶対にわざと傷つけることのないよう言い聞かせた。
 分かっている。
 めちゃくちゃ理不尽な事を言っているのはちゃんと自覚している。
 
 でも、何故か二度とあの娘が傷つくところなど見たくないのだ。
 
 
 それからは週二回ペースで侯爵家に通い、授業を行なった。
 
 侯爵家に通うようになってから気付いたが、どうも令嬢は家族からあまり大切に扱われていないようだ。
 
 表面的には私にも愛想良く振る舞う侯爵や、侯爵夫人だが、特に侯爵夫人は令嬢に冷たいように感じる。
 
 少し気になって調べてみると、令嬢に聖属性があると分かるまでは、令嬢は領地に追いやられていたらしい。
 ちゃんとした実子らしいのだが、貴族家庭には子供を道具としてしか見ない事もよくあるので、多分この侯爵家も跡取り以外は大切にするつもりがなかったのだろう。
 
 でも、令嬢は健気にこの環境にも腐らず、素直でいい子だ。
 勉強熱心だし、それに見合った能力もある。
 
 学園に入ったらますます能力が伸びて、卒業する頃にはこの美貌に加え、希少な聖属性持ちだからと引く手数多となる事だろう。
 
 中には、この素晴らしい令嬢を利用しようとする者だって現れるかもしれない。
 
 そんな時にこの家族では、この令嬢を守る事など出来ない、いや、しないだろう。
 
 
 だから私は決めた。
 この令嬢を悪意を持つ者から守ろうと。
 この令嬢は幸せになるべき人だ。
 こんな家族から早く離れて、自由を掴むべきだ。
 
 その為に私は力になろう。
 
 
 令嬢が学園に入学する時期に、私は一旦騎士団の救護班から離れ、聖属性魔法の教員として王立学園に勤める手続きをした。
 幸い、聖属性持ちは少ないので、教員もいつも不足している。
 教会関係者の聖属性持ちが臨時教員として通って来ていたらしいことは知っていたから、正職員としてすぐに採用が決定した。
 
 
 学園に入学して私を見た時、令嬢は驚くだろうな。
 その驚いた顔を想像するだけで思わず顔がにやけてしまう。
 
 
 入学まであと数ヶ月。
 それまでしっかりと家庭教師として、令嬢と向き合っていこう。
 
 私はそう固く決心した。
 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢マレーネは、音楽会で出会った聖女様とそっくりさんだった。え?私たち双子なの。だから、入れ替わってまだ見ぬ母に会いに行く

山田 バルス
恋愛
 ベルサイユ学院の卒業式。煌びやかなシャンデリアが吊るされた大広間に、王都中から集まった貴族の若者たちが並んでいた。  その中央で、思いもよらぬ宣告が響き渡った。 「公爵令嬢マレーネ=シュタイン! 今日をもって、君との婚約を破棄する!」  声の主は侯爵家の三男、ルドルフ=フォン=グランデル。茶色の髪をきれいに整え、堂々とした表情で言い放った。場内がざわつく。誰もが驚きを隠せなかった。  婚約破棄。しかも公爵家令嬢に対して、式典の場で。 「……は?」  マレーネは澄んだ青い瞳を瞬かせた。腰まで流れる金髪が揺れる。十五歳、誰もが憧れる学院一の美少女。その彼女の唇が、震えることなく開かれた。 「理由を、聞かせてもらえるかしら」  ルドルフは胸を張って答えた。 「君が、男爵令嬢アーガリーをいじめたからだ!」  場にいた生徒たちが、一斉にアーガリーのほうを見た。桃色の髪を揺らし、潤んだ瞳を伏せる小柄な少女。両手を胸の前で組み、か弱いふりをしている。 「ルドルフ様……わたくし、耐えられなくて……」  その姿に、マレーネはふっと鼻で笑った。 「ふざけないで」  場の空気が一瞬で変わった。マレーネの声は、冷たく、鋭かった。 「私がいじめた? そんな事実はないわ。ただ、この女がぶりっ子して、あなたたちの前で涙を浮かべているだけでしょう」  アーガリーの顔から血の気が引く。だが、ルドルフは必死に彼女を庇った。 「嘘をつくな! 彼女は泣きながら訴えていたんだ! 君が陰で冷たく突き放したと!」 「突き放した? そうね、無意味にまとわりつかれるのは迷惑だったわ。だから一度距離を置いただけ。あれを“いじめ”と呼ぶのなら、この場の誰もが罪人になるんじゃなくて?」 会場に小さな笑いが起きた。何人かの生徒はうなずいている。アーガリーが日頃から小芝居が多いのは、皆も知っていたのだ。  ルドルフの顔に焦りが浮かぶ。しかし、彼は引き下がらない。 「と、とにかく! 君の性格の悪さは明らかだ! そんな女とは婚約を続けられない!」 「……そう」 マレーネの笑顔がふっと消え、青い瞳が鋭く光った。その瞬間、周囲の空気がピリピリと震える。  彼女の体から、圧倒的な魔力があふれ出したのだ。 「な、なに……っ」  ルドルフとアーガリーが同時に後ずさる。床がビリビリと振動し、会場の壁が一部、音を立てて崩れ落ちた。魔力の衝撃にシャンデリアが揺れ、悲鳴が飛び交う。    

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

処理中です...