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10章 無敵伝説

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「苗!」




夏目とのデートを明日に控えた金曜日の放課後。
家路までの道のりを歩いていると車に乗った兄さんが声をかけてきた。



「あれ、兄さん‥

何だか久し振りだねぇ
どこに雲隠(くもがくれ)してたの?」



「‥‥あぁ 、ちょっとな。
それより送ってくよ、ついでに渡す物があるから‥」



晴樹はそう言って喜んで車に乗り込む苗に袋を手渡した。




「何?コレ‥‥‥」




「家に送られてきたお中元のパンフレット」

「パンフレット?」

「あぁ、ハガキがついてるからパンフに載ってる欲しい品物の番号書いて送るといい‥」


中を覗くと包装された薄型の箱がたくさん入っている

苗はさっそく丁寧に包装された包み紙を剥がし中を確認した‥






「‥すごい‥‥‥



松坂牛のステーキもある‥


いいの?!
ホントに貰って!??」





「‥あぁ、後ろにも積んでるから。」


晴樹の言葉に後ろを振り返ると大きな紙袋には、まだたくさんのお中元が入っていた。



「‥‥兄さん‥‥‥」



「何?」



「どうしよう…」


「?」



「ハグしていい!?」


…………………………………………

「ばか!
何、言ってんだよ///」


「そぉ?じゃあ今、運転してるから後でね!
いやぁ~でも、何だか兄さんには何から何までお世話になっちゃってぇ‥
何をお返ししてよいのやら」





‥後でって‥‥
もしかして、コイツは何かある度にハグしてんのかょ‥




そぅ、苗は小さな頃から近所の教会の子供会で外人サンの子供達と遊んでいたため何かある度に常にハグをしていた…



由美も小学校で苗と知り合いハグ責めに合っている。

「兄さんとこはお中元いらないの?」


「あぁ、家に送って来ても数が多すぎて結局、無駄にするからさ‥‥
送り主だけ確認出来ればお礼はできるからこれからは中身はお前にやるよ」


「ホントに!?‥‥‥


ありがとう!!」




苗は嬉しそうに礼を言いながらパンフを見ている‥‥

俺は苗のこの笑顔が見たかった‥‥



――ポツッ

「ぁ‥‥雨。」


苗の呟きと同士にフロントガラスに雨の雫が徐々に叩きつけ始める‥‥‥



――ピカッゴロゴロ!





遠くで稲光が走った瞬間、雷鳴と共に雨が激しく降り始めた。


…………………………………………

「‥さすが夏の天気‥
本降りだね‥
(ぁ~ぁ洗濯物が‥‥)
予報では夜遅くに降るって言ってたのに、よかったょ兄さんに乗せてもらって!

‥‥明日は上がるかなぁ…」



「明日は何があるんだ?」




苗の小さなボヤキが耳につき俺は質問した




「うん、明日街に出掛けるからさぁ‥‥‥
まぁ、映画観るだけだから雨でも構わないんだけど」


―――映画!?‥


苗のこの言葉に俺はとてつもなく胸騒ぎがしはじめる



「誰と行くんだ?」







「ん?



大ちゃんだょ!」












夏目‥‥

やっぱりそうか‥







「スッゴい観たかった映画なんだぁ、めちゃ楽しみだょ!!」




苗は俺の気持ちも知らずに上機嫌で車の外を眺め語っている

機嫌良く鼻歌を歌う苗を隣に俺は胸の痛みを無言で堪えるしかなかった


‥‥なんでだ‥



怒れる前に無償に辛い‥‥



微かに目頭が熱くなって視界がぼやける…








胸の痛みで体中に痺れが走った‥‥‥





数分後、車は苗の家に付き横付けしようとした俺に苗はしきりに車庫を勧めてくる

…………………………………………

「兄さん!今日、時間あったらご飯食べてく?」



「‥いいのか?」




苗の誘いははっきり言って嬉しい‥‥
そう感じる俺が拒む筈はなかった。 



「うん!今日はねぇ、蓮根の挟み揚げにしようかと、あ!蓮根食べれる?」




無邪気に笑い聞いてくる苗の笑顔を見てると何だか息苦しくなってくる‥
そして俺は苗の柔らかそうな唇から目が離せなくなっていた―――









車庫入れを済ませた晴樹はシートベルトを外し助手席側に身を乗り出した――










「‥‥‥苗‥








‥ハグよりこっちがいい」





「――へ?!ッ‥‥ンッ!‥」

















苗のことは焦らないつもりでいたのに‥‥‥









抑えきれなかった‥‥












苗の唇を感じた瞬間に歯止めがきかなくなった‥


…………………………………………

「ン‥‥ぁ‥‥ちょっ‥
兄さッ‥‥‥‥なんで!?








なんでシートを倒すの!??」




苗は覆い被さる俺の胸を両手で突っ張ねていた






「苗‥‥‥‥腕どけて‥」









「‥‥う‥」






いつもと様子の違う俺に警戒したのか苗は無言のまま手に力を入れた






フェイントをかけて苗の制服のリボンに手をかけると苗はあっさり突っ張ねていた手でリボンをかばう‥

そして再び俺は苗の唇を塞いだ



「苗‥‥
夏目とは映画だけ?‥‥」

絡めた舌を外し苗を見つめて聞いた







「映画‥‥と食事‥‥‥」



「それだけ?」




繰り返し唇を塞ぎながら
聞き返してくる俺に苗は呆然とした表情で頷いた



「じゃあ苗‥‥‥約束だ‥



それだけ済んだら真っ直ぐ帰ってくるんだろ‥?」


俺は唇を離し念を押して聞いてみる、そして目を見開き頷く苗を見届けてまた唇を塞ぐ――


「こんなキス‥‥

‥したことある?」


呆然としながら首を振る苗に俺は自分を刻み込むように深いキスをした‥‥

苗の柔らかい頬を撫でゆっくりと唇同士が噛み合うように顔の向きを変えるたびに吐息が漏れる‥

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