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16章 温泉旅行
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しおりを挟む「兄さん!!」
――?!
突然声を掛けられて振り返ると‥‥‥
浴衣の袖を肩までまくり、裾を太ももまで託し上げ腰帯の位置でとめた苗がいた──!
「な、んだ‥
‥その恰好はっ?」
「お背中流しやすっ!!」
「‥っ」
苗は晴樹のご機嫌を取りに来ていた‥
カタンカタン!と檜のイスを並べ
「ささっ!兄さんこちらへどうぞっ!!」
そういって晴樹をイスに促す。
晴樹は仕方なしにいうことを聞いた‥
晴樹がタオルを腰に巻き椅子に座ると苗は手慣れた様子でタオルに石鹸をつけ泡立て背中を勢いよく擦る‥
‥ぉ‥中々上手いじゃん?
まるでマッサージをされてるようで程良く力が入って気持ちいい‥
そぅ‥苗はちっこい頃から爺ちゃんとオトンのお背中流し隊に入隊していたためかなりのテクニシャンだった‥
「兄さん、どこから来なすった?」
「‥っ?」
苗の変な遊びが始まった。
「兄さんからぁハイカラな匂いがすらぁ!!
あっしが思うにゃぁ江戸っ子だね!?」
「‥‥はぁ、まぁ‥」
しょうがないので付き合うことにしたらしい。
・
「兄さん一人で来てんのかぃ?」
「いゃ‥二人で…」
「コレかぃ? ぉ! 中々やるなぁ兄さん!!」
「っ‥//‥」
苗の遊びはほとんど満作が仕込んだものだった‥
「いゃぁ‥女は何考えてっかわかんねぇ生き物だからなぁ~兄さんも苦労するだろ!?え?」
晴樹は黙って頷いた
「いゃぁ家の母ちゃんもな!昔ゃ、笑ったと思ったらいきなり泣き出しやがるんだがよぉ。今はず太い女になっちまったなぁ!!ガハハ!!」
実際の満作の口ぐせだった。
そして苗は手桶で背中の泡を洗い流す‥‥
「…?…苗、もういいか?」
お湯を掛ける手が止まっても苗からの終わりの合図がなかったため、晴樹は自分から声を掛けた‥
「苗?」
「ウン‥‥‥
兄さん、ごみんね‥‥‥」
「?!」
呟くように謝る苗の声に驚き晴樹は振り返る
「苗‥‥‥お前‥
泣き顔醜いな…」
口は歪みプルプル震え、鼻はフガフガ広がっている。
「ぅぅ‥‥ぅぐ‥」
「‥‥なんで泣くんだよ」
「だってさ‥
兄さんぎゃさ‥ぅぅ‥
怒ってるだも゛‥‥」
‥また、俺のせいかよ!?
・
「‥‥
もう、怒ってないよ‥」
晴樹はそう言いながら、檜のついたてで仕切ってある脱衣所で浴衣を着はじめる
「でも、なんでそんなに金が欲しかったんだ?」
「お金はあっても困らない」
「そりゃそうだけど…
だったら、そんな妙な相手に買収される前に俺に言えばいいだろ!?」
晴樹は着替えを済ませ泣き顔の苗の手を引き部屋へ連れていった
「だって現金が欲しかったんだも‥‥‥」
「‥言えばいいだろ?べつに」
「ダメだょ‥‥
だって現金なんか貰ったらホントの援交になっちゃうょ‥‥」
「援交‥って──」
「犯罪になっちゃうよ‥」
「‥っ!?
──っ…お前のやったことの方が、明らかに犯罪だぞ!!
だったら裁判にでも持ち込むか!?お前、結城を敵に回す気かよ!!」
「はっ!!!‥
また、権力にモノを言わせてるぅ‥‥ぅぅ‥」
「泣くなっこの程度で!
してやりたいって思うからいってんだろ!?
何が気に入らないんだよ!」
晴樹は再び怒り始めた‥
「だって‥自分でも稼いだ方が‥‥援交ずっとするわけにはいかないだも‥‥ぅぅ‥」
・
苗の言葉がなんとなく晴樹の胸に引っかかる‥
「べつに‥
ずっと頼ればいいだろ?
援交って思うから変なんだろ?」
「だって援交だも‥‥‥
援助してもらう代わりに毎日ちゅうしなきゃいけないから援交だも‥‥‥
イケナイ交際だも‥‥」
──!っ…
「…しなきゃいけない…?」
苗の言葉に晴樹の表情が陰りを帯る──
「…っ…えば…」
「ぇ?」
「…言えばっ……」
「兄さん?」
「言えばいいんだよっ!!
そんなに嫌なら!!──」
‥そ、…んなに怒ったら言えないょ…
晴樹の剣幕に苗はおどおどしはじめる
ただ、‥‥‥
晴樹の方がとても、
辛く泣きそうな顔をしていた…
「もう…寝るわ俺……
なんか、疲れた…」
晴樹はため息を強く吐くと布団に潜りこんだ‥
そして、苗に背中を向けて呟く
「べつに…お前とキスしなくても相手なんて他に居るからな…
これからは何もしなくていい……
援助くらい、いくらでもしてやる…」
「‥‥」
・
苗は背中を向けたままの晴樹を見つめ、そして部屋の灯りを消した──
「苗‥‥」
「ん‥」
ふと、晴樹に声をかけられる
「明日‥‥‥帰ろう‥」
「‥うん‥‥」
布団に潜り込んだまま言う晴樹に苗は返事した‥‥
‥なんだ‥明日帰るのか‥
じゃあ汗もかいちゃったしもぅ一回お風呂入ってこ。
苗は静かに風呂の準備をすると外の露天に向かった。
「…っ…ふ……」
……苗っ…
苗が出て行った後の静かな部屋で、晴樹は静かに肩を震わせる
後から後から溢れる涙が止まらない…
喰い縛る歯の力を緩めると嗚咽がでそうだった──
好きでどうしてもキスしたかった──
そのために無理やり付けた条件だった──
あんなに嫌がられてるなんて思いもしなかった──
苗への想いに絶望とゆう終止符をうたれた気がした…
庭の方からは苗が湯をかける音がする‥
‥もう、片時も傍にいたくない‥‥‥
この辛い気持ちから逃げるにはそれしか方法が思い浮かばなかった‥‥‥
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