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17章 慕情
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しおりを挟む間近で見る苗の寝顔を晴樹は目を細めて眺めた――
化粧っ気もない、頬を撫でリップも付けていない唇を親指でなぞる‥‥
‥手に入るって思ったんだけどな‥‥
不安を抱えながらも、
苗をこの手に抱ける‥
そう思ったのに‥
‥思わぬ苗の心情を知ってしまった──
『援助してもらうのに、ちゅぅしなきゃいけない‥』
‥‥じゃあ、今まで‥
俺とのキスは‥‥‥
苦痛だったんだ‥‥
晴樹は締め付けられる胸の痛みに顔を歪め苗を見つめた
「ごめん‥な
弱みにつけ込んで‥‥」
苗の唇に指で触れたまま震える声で呟く‥
「ごめん‥苗‥‥
これで最後にするから‥」
そして晴樹は無防備に開かれた苗の唇をそっと‥
塞いだ‥‥
何度も何度も優しく塞ぐ‥
唇は開かれていても深くを求めることは、今の晴樹には出来なかった──
‥最後のキス‥‥
ただ、そう思うと‥やめられない‥‥
これで終わりに‥‥
晴樹は自分にそう言い聞かせながらもキスをやめることが出来なかった‥‥
・
『べつにお前とキスしなくても相手なんて他にいくらでも居るからな』
‥いるわけない‥
そんなの──!ッ
「‥フッ‥──ッ苗!」
強く溢れ出す想いに思わず口から声が漏れ晴樹は苗から顔を離した‥‥
眠ってれば嫌がられない‥
じゃあ‥眠ってる時ならキスしても──ッ
そう思ってしまう自分が惨めだった‥
晴樹は痛む胸に顔をしかめながら苗を見つめた
『そんなのもちのろんだょ!
苗は兄さんのこと大好きだもん!』
昼食時の苗の言葉を思い出す…
なんの躊躇いもなく、あっさりとそう口にしてくれた…
晴樹は苗の頬を愛しそうに撫でる
「苗‥‥‥違うよ‥
俺の好きは‥
そんなに簡単じゃない…」
晴樹は苗の耳元でそう囁き、そっとキスの音を立てた‥‥
― バタン!
「晴樹クンありがとね! いつもお土産まで頂いて」
「いや、気にしないで下さい」
三時間の道のりを走り、晴樹は途中で購入したお土産と苗を田中家へと無事に送り届ける
「じゃあ兄さんありがとう!!写メ後で送るからっ」
‥写メ!?
晴樹は、はっとした‥
そぅ、デジカメ以外に写メがあることを忘れていたのだ
・
― カチャ!
「ただいま‥」
「‥お帰りなさい?
お帰りは明日の予定だったんじゃ?」
土曜の昼過ぎに自宅に戻り着いた晴樹に村井は言った
「あぁ‥ちょっとね
疲れたから早めに切り上げた‥
少し部屋で横になるから、何かあったら呼んで…」
「わかりました…」
昨日、旅行の準備をしに帰ってきた時とは明らかに違うテンションの晴樹に気づいてはいたが、有能な秘書兼世話役の村井は余計な詮索はしない‥‥
だが、大元の雇い主にも報告を怠らなかった‥
村井は部屋に入った晴樹を確認するとどこかに電話をかける‥
「‥あ、もしもし会長。村井です‥
晴樹サンがもう旅行からお戻りに‥‥‥」
『‥うむ、松玄格の女将からも連絡が入った…。
今朝になって急にキャンセルしたそうだ‥‥‥
何かあったかもしれんな‥
しばらく、様子でも見てみるか‥
また、何かあったら頼んだぞ‥』
「えぇ‥では、失礼します」
‥晴樹のヤツ‥
苗ちゃんに振り回されとるな‥‥グフっ!
70を迎えたお爺には、こう言う楽しみしかなかった。
・
「………」
──…苗っ…
晴樹は自室のベッドに横になり目を閉じた…
正直、胸はずっと痛んだまま…
夕べ、何時に寝たかどうかも解らない‥
苗が風呂から戻ってきたのは憶えてる‥
寝言で三つ子を怒ってたのも‥‥‥
気がついた時には空が明けてきてたのも記憶にある‥
晴樹は時計を見た‥
寝たのは二時間くらいか‥
睡眠もほとんど取っていない‥
運転しっぱなしですごく疲れてる筈なのに…
頭の中は変にすっきりしていてそして、胸は無性に息苦しい…
瞼は重いのに目を閉じれば眠りにつくことができなかった──
天井を見つめると、うっすらと瞳を水分の膜が覆いそして、瞼を閉じればそれは一滴の雫となって伝い落ちる‥‥‥
その瞬間、晴樹の想いが溢れ出した──
唇は大きく震え、喰い縛る歯からはどうしても声が洩れる‥
毎日のキスが楽しみでしょうがなかった──
車で10分もしない苗の家までの距離を…貴重な時間を大事にした──
一緒に旅行できる‥
そう思ったら三時間の道のりもあっとゆう間で車の運転だって苦にはならなかったのに‥‥
・
今は苗とのことが全て苦痛に変わる‥‥‥
晴樹は自分の気持ちが落ち着くまで苗から少し距離を置くつもりでいた‥‥
そして、帰り着いた早々、苗はある人物との待ち合わせの為に駅近のマックにスタンバっていた──
―カタン!
「待たせたようね‥
ブツを見せて頂けるかしら──」
苗はソッと携帯を差し出した
そして、待ち合わせに来た人物は携帯の動画を杭入るように見つめ、歓喜で体を震わせ上擦るような声で呟く。
「きゅ‥‥‥究極の‥
萌えだわ!!!──」
動画を見つめる瞳は爛々と輝きヤバい光りを放ち出す!!
時折、コワしい笑みで緩む口元の涎をすすり苗に微笑んだ‥
「コレなら文句ない出来よ!!
コレで買うけどどうかしらっ!?」
苗の目の前には逢いたくて逢いたくてままならなかったMr.諭吉が五人‥
肩を並べていた‥‥‥
「‥‥ゴクッ‥‥‥
ゆ、諭吉しゃん‥‥‥」
苗は生唾を飲みながら諭吉を抱きしめた…
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