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最終章 愛され妻
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しおりを挟む一花が誕生してから、早三か月。
私は珍しくバッチリメイクをして長い髪を巻き、お出掛け用のロングワンピースに身を包んだ。
心が浮つく。こうやってオシャレをするのは久しぶりだ。
先日義母さんから『たまには夫婦水入らずで過ごしたら?』と北斗さんとふたりで出かけるように提案された。
一花のことが気がかりだったものの、義母さんが一花を預かると申し出てくれた。
そして、ディナー当日。
夕方になり、私たちの住むマンションには予定通り秋穂ちゃんと義母さんがやってきた。
ふたりの両手は荷物でいっぱいだ。
「あの、それは?」
「これはね、いっちゃんのおもちゃ。まだちょっと早いかもしれないけど。あとね、ネットで買った赤ちゃんが喜ぶ絵本と……それから……」
義母さんはきっと、この日の為に色々考えて用意してくれていたんだろう。
その気持ちが嬉しくて胸の中が感謝の気持ちで溢れる。
「本当にありがとうございます。今日は一花のことをよろしくお願いします」
「いいのよ。ずっと育児ばっかりじゃ息が詰まるもの。それに、孫のいっちゃんと遊べて私も嬉しいの。秋穂もいるし、安心して夫婦水入らずで羽を伸ばしてらっしゃい」
「はい。秋穂ちゃんもありがとね」
「いえいえ!今日の萌音さん、とっても素敵です!お兄ちゃん、また惚れ直しちゃうんじゃないですか?ゆっくりしてきてくださいねっ」
玄関まで見送ってくれた義母さんと秋穂ちゃんに頭を下げて家を出る。
「一花、いい子にしててね」
秋穂ちゃんに抱かれた一花の頭を撫でて微笑むと、一花はキャッキャッと声を上げた。
ご機嫌の一花にホッと胸を撫で下ろすと、私は家を後にした。
久我家のみんなには本当にお世話になっている。
一花が生まれてから、両親のいない私を気遣い床上げまでの期間、久我家のお屋敷の離れで生活させてもらった。
そのとき、お義母さんやおばあさん、それに秋穂ちゃんは慣れない赤ちゃんのお世話でてんやわんやの私を献身的に支えてくれた。お義父さんも遠慮がちに離れにやってきては「ちゃんと栄養とるんだよ」と私の好物を差し入れしてくれた。
ゆっくり体を休めることができたからか、産後の体調はすこぶるいい。
マンションの前に停められたタクシーに乗り込み、行き先を告げる。
あいにく北斗さんは仕事で家に帰る余裕がないらしく、現地で待ち合わせすることになった。
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