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闘神サリア
14話
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「お?気がついたか?」
アタシがそう言うと明らかに怯えた様子で耳を塞ぎながら、女の子が言う。
「こ、殺さないで!」
悲鳴にも似たその声は雷雲を呼び、今にも大雨が降りそうな天気になる。
クレアが慌てた様子で大声を出す。
「ま、待つのじゃ!お主の事は誰も殺そうとしてないのじゃ!」
「ほ、ほんと…?」
女の子は涙目で言う。
「ほんとじゃよ。じゃから、この雲を追っ払ってくれんかの?」
クレアがそう言うと女の子は不安そうな表情のまま力を抑える。
クレアはほっとした様子で小さくため息をつく。
「お、追っ払ったよ…」
「ありがとうなのじゃ!」
クレアは女の子が落ち着けるようにそっと地面に下ろす。
女の子はやっと降りられた安心からか、泣きながら膝から崩れ落ちていた。
「怖い思いをさせてしまってすまなかったのう。」
クレアは女の子を優しく抱きしめて頭を撫でてなだめていた。
「アタシ、正直に言うと今のはめっちゃ傷ついたわ…」
アタシがあからさまに落ちこんでいると、モーラがボソッと言う
「サリアさんでも傷つく事ってあるんですね。」
この後、サリアにモーラが締められたのは言うまでもない。
『ねぇねぇ!きみはだぁれ?』
ドラゴンが女の子に言う。
女の子はドラゴンの方を見て、一瞬だけ驚いた表情をしていたが、クレアが離すと服の袖で涙を拭く。
「わ、私は姓を本間、名を茉莉と言います。」
サリアが珍しいものを見たように言う。
「姓が先に来るって事は、マツリは極東地域の出身なのか?」
茉莉は少しおっかなびっくりな様子だったが首を横に振る。
「い、いえ…私の産まれた村には大昔に伊達と言う姓の日本人がやって来て、名前をつけたと伝わってます。この名前もその名残りなんです…」
サリアは興味深そうに聞いていた。
「アタシもこの世界の隅々まで冒険したつもりだったが、そんな集落があったとはな…何より、その日本人がいたって言う事すら知らなかったしな。」
茉莉は少し言いづらそうに言う。
「…村には掟がありましたからね。これ以上は私も言えないのですが…」
「ふむ…」
クレアは何かを考えるように首を傾げていた。
「我、その村を知ってるかもしれんのぅ。幼き頃に一度だけ迷って入った集落がちょうどお主のような毛並みのキツネが多くてな。皆、我を歓迎はしておらなかったが、優しくしてくれたのは覚えているのじゃ。」
茉莉は驚いた様子で言う。
「あの村の皆が余所者に親切したなんて…」
茉莉は「ハッ!」と口に手を被せて気まずそうな表情をする。
「ん?なんか申したか?」
クレアがキョトンとした顔で首を傾げて言う。
「い、いえ…なんでもありません…」
茉莉は気まずそうに下を向く。
「わかったのじゃ。」
クレアがこっそりアタシにウインクする。
アタシはその意味を理解した。
「村がなんとかって…」
モーラは続く言葉を言おうとした瞬間、クレアからとてつもない殺気を感じて、その先を言うのをやめた。
「茉莉、お主、帰る場所はあるのか?」
茉莉はモジモジとしながらも少し考えるような仕草をする。
クレアは胸を張って堂々と言う。
「よし!なら、お主の面倒はこの我がみよう!そうすれば、お主としても安心出来るであろう?」
茉莉の尻尾がピーンと立つ。
「良いんですか?!」
「うむ!我の主のアリスも喜んで面倒をみてくれるはずじゃ!アリスはものすごく強いし、お主と同じ獣人じゃからきっと仲良くなれるはずじゃ!」
茉莉は表情こそ硬いものの、嬉しそうに尻尾を振る。
「そのアリスさんに会えるのが楽しみです。」
「そう言えば…」
モーラが言う。
「俺たち、まだこいつに自己紹介してないですよね?」
「あっ…忘れてた…」
「我も忘れてたのじゃ。」
クレアはその場でドヤ顔気味に言う。
「我はクレアじゃよ。さっきも申したが、アリスが契約者なのじゃ。よろしくなのじゃ!」
モーラは相変わらず顔を逸らした状態で言う。
「俺はモーラだ。」
アタシは茉莉の目の前に立って言う。
「さっきは驚かせて悪かったね。アタシはサリア・アミューレだ!よろしくな茉莉!」
アタシが右手を出すと少しだけびっくりした様子だったが、すぐに何かわかった様子で両手でアタシの手を握る。
「は、はい!よろしくお願いします!」
「おうさ!」
(キュルルルルル)
誰かのお腹が可愛らしい音を立てて鳴いていた。
茉莉が少しだけ頬を赤らめていた。
「うっし!じゃあ、そろそろ飯の調達をするか!」
「おおー!我も腹が減って、腹が減ってかなわんかったから、良かったのじゃ!茉莉、お主も着いてまいれ!」
「わわっ!クレアさん、もう少しゆっくり歩いてくださいいい!!!」
クレアは大喜びで茉莉を引っ張って森の中へ入っていく。
ドゴーン!とか、バチーン!とか凄い音が響き渡っていた。
「全く…あの脳筋バカは…」
モーラはクレアとは違う方向の森の中に入って行く。
『ママ、ボクもてつだうよ!』
ドラゴンがアタシの顔を見て言う。
「なら…」
アタシはその辺の木を薪にして、石から巨大な釜を作って、ドラゴンの炎で薪に火をつけた後にさっき倒したばかりのナイトメアシープの山の様な大きさの新鮮な羊肉を丸ごと一頭分を二個バックから取り出す。
「クレアもモーラもすげぇ量を食べるからな。クレアなんてあの小さい体のどこにあんな量が入るんだってくらい食うしな。いや、収まりきらねぇか…」
アタシは火加減をみながら、じっくりと羊肉を焼き始める。
その傍らで、ドラゴンに指示を出して、他の料理も出来るように新しい薪と囲いを作る。
そうしてゆっくりと帰りを待っているとクレアが山のようになった魔獣の肉を大量に持ち帰って来た。
「よっこらせ…これくらいあれば足りるじゃろ?」
茉莉は少し疲れた様子だった。
「私はこんなに食べれないよ…」
モーラは両手いっぱいに野菜を取ってきていた。
「これだけあれば、茉莉が増えた分も足りるんじゃないか?」
茉莉は少し引き気味な笑い方をしていた。
「茉莉、安心しな。こいつら…特にクレアがほとんど食っちまうからよ。」
そして、山の様な肉と野菜を調理する。
茉莉が手伝ってくれるおかげで段取りよく準備が出来た。
…とは言っても、アタシよりも茉莉が作る方が料理も美味しそうにできていたのでだけれどね。
アタシは種族の特性上、あまり料理をする機会が無いんだ。
そして、山の様な料理が次々と出来上がり、茉莉の魔法を使いながら、綺麗に並べていく。
「それじゃ、用意も出来た事だし…」
皆で手を合わせる。
「いただきますなのじゃ!」
「いただきます。」
「いただきます!」
『いっただきまーす!』
「い、いただきます!」
この一瞬の間に羊肉が一頭分、クレアのお腹の中に消えていった。
「美味いのじゃ!」
「は、早いですね?!」
ドラゴンも負けじと羊肉を食べていたが、4分の1ほどでお腹いっぱいになった様子だった。
茉莉は少しずつ野菜を食べていた。
クレアとモーラが競うように肉や野菜を食べる。
アタシ自身はエルフなので、この辺りの生命にエネルギーを分けてもらえるから、食事は必要無いのだ。
茉莉は他の二人に比べると全くと言っていいほど食べていなかったが、満足した様子だった。
モーラも1割くらいは食べていたが、クレアは圧倒的な食欲で全体の8割程の料理を食べていた。
残りの1割は茉莉とドラゴンの2人分だ。
茉莉は多分標準的な量なのだろうが、2人を見ているととてもじゃないが食べたとは言えないくらいの量しか食べていなかった。
「ふぃ~…食ったのじゃ…」
食後のクレアの姿はいつ見ても異様な光景だ。
まるで巨大な肉の山が喋っているかのような姿に茉莉がドン引きしていた。
「食ったぜ…」
モーラもそれなりに食べた感のあるお腹になっていた。
『皆、すごい量食べるね。』
ドラゴンが若干引き気味に言う。
「私からしたら、ドラゴンさんも凄く食べているように感じますが…」
茉莉は苦笑しながら言う。
少なくともドラゴンでさえ、茉莉の倍は食べていた。
すると突然クレアが龍の姿へと変化していく。
「ぬおおおおお?!」
クレアも驚いた様子で身体が変化していた。
アタシ達は巻き込まれないように避難する。
すると、龍の姿となったクレアの身体から巨大な鱗が落ち始める。
「あれは…龍の進化…!」
茉莉が見とれた様子で言う。
ドゴオ!とか、ズガーン!とか様々な音が聞こえる中、茉莉はクレアの姿を見ていた。
不思議と茉莉の上から鱗が落ちてくる様子は無かった。
アタシ達がクレアの鱗を避けたり、砕いているうちにクレアの身体が輝く。
その瞬間に落ちてきた鱗は全て消滅した。
そして、龍の姿となったクレアは金色の鱗を纏っていた。
「おお?我、進化したのか?!」
クレアは驚いた様子で自分の身体を見回していた。
「光炎龍シャイニングフレア…溢れる火の力が光をも発する強力な力になった姿…」
茉莉はポツリと呟く。
クレアは「う~ん」と首を傾げていた。
「やっぱ、この姿よりもいつもの姿の方がしっくりくるのじゃ!」
クレアはそう言って人の姿へと戻る。
アタシ達もそれに合わせて、クレアの元に行く。
「な、なんじゃこりゃあ?!」
クレアの叫び声が聞こえる。
アタシはその姿を見て咄嗟にモーラの顔を隠した。
いつもの様に幼い少女みたいな見た目から、大人な姿へと変わっていたのだ。
もちろん、さっき龍になったせいで素裸のままだった。
アタシはモーラにアタシが良いって言うまで目を開けるなと言ってクレアに服を着させようとする。
さっきとは違って、背も120cm程から3mほどになっており、胸部も13歳くらいの子供なら軽く一人は入れそうなくらいの大きさになっているので、どれを出しても小さ過ぎて着れなさそうな服しかなかった。
「サリア…その…すまぬな…」
クレアは素裸のまま申し訳なさそうに頬を掻いている。
「仕方ないさ…アタシも龍人が進化するところなんて初めて見たからな…」
茉莉は冷静に言う。
「クレアさん、貴方の力はこれまでとは比にならないほど強くなっているはずです。貴方が望むのであれば、私の力で姿を元に戻して、80%ほどは力を抑える事もできますが、これからはその力を抑える事も必要になると思います。少なくとも、今の貴方が全力を出せば、貴方の身体ですら、蒸発させてしまう可能性があります。なので、5%ほどの力のみ使うようにしてください。おそらく、それくらいが今の貴方が出せる限界値です。それ以上は人としての姿は保てないと思ってください。」
クレアは少しだけ考えるように茉莉を見る。
「茉莉…お主の力を貸してくれ。我はなんだかんだとあの姿を気に入っておるのじゃ。じゃから、遠慮などせずにドーンとやってくれ!」
茉莉は静かに目を瞑って言う。
「わかりました…クレアさんのご要望に出来るだけお応えしましょう。」
眩い光が茉莉の身体から発せられる。
「私は龍の導き手…私は龍を制するもの…私は龍を護るもの…私は…」
クレアの姿が小さくなり始める。
「龍を封ずるもの!」
クレアの姿はこれまでよりは少し成長した、人で言う18歳ほどの姿にはなっていたが、先程と比べると背は170cmほど、胸部も大きな西瓜くらいとかなり小さな姿にはなっていた。
クレアはキョロキョロと自分の身体を見回す。
「う~む…さっきの様な姿にはならなかったが、まあいいじゃろう。茉莉のおかげでアリスの傍にも居れそうじゃ!」
「喜んでもらえたなら、提案したかいがありました…」
茉莉は少しだけ疲れた様子だった。
アタシは今度こそとクレアに着させる服を取り出す。
「胸の辺りが少し苦しいが、我はこう言う服も好きじゃな。」
大きめのメイド服を着て、クレアは満足そうに言う。
「それが小さいとなるともうオーダーメイドで作ってもらうしかねぇな…標準的な人のサイズだとそれが一番大きいからな。」
「むむ…茉莉、これよりも我を小さくは出来んのか?」
茉莉は首を横に振りながら言う。
「とてもじゃないけど、クレアさんの力が大き過ぎてこれ以上は無理…です…それでも85%ほどは抑えさせてもらってます…」
「じゃあ、仕方ないな。我が力を抑えるしかないか。」
それなりにクレアの姿が小さくなった。
とは言っても、進化前よりは確実に成長した姿にはなっているのだが…
胸部は先程に比べるとかなり薄くなっていたので、今度は胸の辺りが大きくなり過ぎたので、別の服をクレアに着させる。
大きめの丈のワンピースで様々なところに可愛らしいフリルがあしらわれている。
人で言う13歳くらいの見た目まで小さくなったクレアに言う。
「力の加減だけでこんなにも見た目が変わるなんてなぁ…龍人ってやつは不思議だな。」
「うむ。我もすっごく驚いておる。まさか、力の制御にこんな効果もあったなんてな。この自由な身体をアリスに自慢してやるのじゃ!」
クレアは悪魔のような笑みを浮かべながら、ご機嫌な調子でフリルのワンピースのスカートを揺らしている。
「高度な煽りですね…」
茉莉は呆れた様子で自分の胸を見ながら、ポツリと呟いた。
※2021/11/22に内容を少し修正しました※
アタシがそう言うと明らかに怯えた様子で耳を塞ぎながら、女の子が言う。
「こ、殺さないで!」
悲鳴にも似たその声は雷雲を呼び、今にも大雨が降りそうな天気になる。
クレアが慌てた様子で大声を出す。
「ま、待つのじゃ!お主の事は誰も殺そうとしてないのじゃ!」
「ほ、ほんと…?」
女の子は涙目で言う。
「ほんとじゃよ。じゃから、この雲を追っ払ってくれんかの?」
クレアがそう言うと女の子は不安そうな表情のまま力を抑える。
クレアはほっとした様子で小さくため息をつく。
「お、追っ払ったよ…」
「ありがとうなのじゃ!」
クレアは女の子が落ち着けるようにそっと地面に下ろす。
女の子はやっと降りられた安心からか、泣きながら膝から崩れ落ちていた。
「怖い思いをさせてしまってすまなかったのう。」
クレアは女の子を優しく抱きしめて頭を撫でてなだめていた。
「アタシ、正直に言うと今のはめっちゃ傷ついたわ…」
アタシがあからさまに落ちこんでいると、モーラがボソッと言う
「サリアさんでも傷つく事ってあるんですね。」
この後、サリアにモーラが締められたのは言うまでもない。
『ねぇねぇ!きみはだぁれ?』
ドラゴンが女の子に言う。
女の子はドラゴンの方を見て、一瞬だけ驚いた表情をしていたが、クレアが離すと服の袖で涙を拭く。
「わ、私は姓を本間、名を茉莉と言います。」
サリアが珍しいものを見たように言う。
「姓が先に来るって事は、マツリは極東地域の出身なのか?」
茉莉は少しおっかなびっくりな様子だったが首を横に振る。
「い、いえ…私の産まれた村には大昔に伊達と言う姓の日本人がやって来て、名前をつけたと伝わってます。この名前もその名残りなんです…」
サリアは興味深そうに聞いていた。
「アタシもこの世界の隅々まで冒険したつもりだったが、そんな集落があったとはな…何より、その日本人がいたって言う事すら知らなかったしな。」
茉莉は少し言いづらそうに言う。
「…村には掟がありましたからね。これ以上は私も言えないのですが…」
「ふむ…」
クレアは何かを考えるように首を傾げていた。
「我、その村を知ってるかもしれんのぅ。幼き頃に一度だけ迷って入った集落がちょうどお主のような毛並みのキツネが多くてな。皆、我を歓迎はしておらなかったが、優しくしてくれたのは覚えているのじゃ。」
茉莉は驚いた様子で言う。
「あの村の皆が余所者に親切したなんて…」
茉莉は「ハッ!」と口に手を被せて気まずそうな表情をする。
「ん?なんか申したか?」
クレアがキョトンとした顔で首を傾げて言う。
「い、いえ…なんでもありません…」
茉莉は気まずそうに下を向く。
「わかったのじゃ。」
クレアがこっそりアタシにウインクする。
アタシはその意味を理解した。
「村がなんとかって…」
モーラは続く言葉を言おうとした瞬間、クレアからとてつもない殺気を感じて、その先を言うのをやめた。
「茉莉、お主、帰る場所はあるのか?」
茉莉はモジモジとしながらも少し考えるような仕草をする。
クレアは胸を張って堂々と言う。
「よし!なら、お主の面倒はこの我がみよう!そうすれば、お主としても安心出来るであろう?」
茉莉の尻尾がピーンと立つ。
「良いんですか?!」
「うむ!我の主のアリスも喜んで面倒をみてくれるはずじゃ!アリスはものすごく強いし、お主と同じ獣人じゃからきっと仲良くなれるはずじゃ!」
茉莉は表情こそ硬いものの、嬉しそうに尻尾を振る。
「そのアリスさんに会えるのが楽しみです。」
「そう言えば…」
モーラが言う。
「俺たち、まだこいつに自己紹介してないですよね?」
「あっ…忘れてた…」
「我も忘れてたのじゃ。」
クレアはその場でドヤ顔気味に言う。
「我はクレアじゃよ。さっきも申したが、アリスが契約者なのじゃ。よろしくなのじゃ!」
モーラは相変わらず顔を逸らした状態で言う。
「俺はモーラだ。」
アタシは茉莉の目の前に立って言う。
「さっきは驚かせて悪かったね。アタシはサリア・アミューレだ!よろしくな茉莉!」
アタシが右手を出すと少しだけびっくりした様子だったが、すぐに何かわかった様子で両手でアタシの手を握る。
「は、はい!よろしくお願いします!」
「おうさ!」
(キュルルルルル)
誰かのお腹が可愛らしい音を立てて鳴いていた。
茉莉が少しだけ頬を赤らめていた。
「うっし!じゃあ、そろそろ飯の調達をするか!」
「おおー!我も腹が減って、腹が減ってかなわんかったから、良かったのじゃ!茉莉、お主も着いてまいれ!」
「わわっ!クレアさん、もう少しゆっくり歩いてくださいいい!!!」
クレアは大喜びで茉莉を引っ張って森の中へ入っていく。
ドゴーン!とか、バチーン!とか凄い音が響き渡っていた。
「全く…あの脳筋バカは…」
モーラはクレアとは違う方向の森の中に入って行く。
『ママ、ボクもてつだうよ!』
ドラゴンがアタシの顔を見て言う。
「なら…」
アタシはその辺の木を薪にして、石から巨大な釜を作って、ドラゴンの炎で薪に火をつけた後にさっき倒したばかりのナイトメアシープの山の様な大きさの新鮮な羊肉を丸ごと一頭分を二個バックから取り出す。
「クレアもモーラもすげぇ量を食べるからな。クレアなんてあの小さい体のどこにあんな量が入るんだってくらい食うしな。いや、収まりきらねぇか…」
アタシは火加減をみながら、じっくりと羊肉を焼き始める。
その傍らで、ドラゴンに指示を出して、他の料理も出来るように新しい薪と囲いを作る。
そうしてゆっくりと帰りを待っているとクレアが山のようになった魔獣の肉を大量に持ち帰って来た。
「よっこらせ…これくらいあれば足りるじゃろ?」
茉莉は少し疲れた様子だった。
「私はこんなに食べれないよ…」
モーラは両手いっぱいに野菜を取ってきていた。
「これだけあれば、茉莉が増えた分も足りるんじゃないか?」
茉莉は少し引き気味な笑い方をしていた。
「茉莉、安心しな。こいつら…特にクレアがほとんど食っちまうからよ。」
そして、山の様な肉と野菜を調理する。
茉莉が手伝ってくれるおかげで段取りよく準備が出来た。
…とは言っても、アタシよりも茉莉が作る方が料理も美味しそうにできていたのでだけれどね。
アタシは種族の特性上、あまり料理をする機会が無いんだ。
そして、山の様な料理が次々と出来上がり、茉莉の魔法を使いながら、綺麗に並べていく。
「それじゃ、用意も出来た事だし…」
皆で手を合わせる。
「いただきますなのじゃ!」
「いただきます。」
「いただきます!」
『いっただきまーす!』
「い、いただきます!」
この一瞬の間に羊肉が一頭分、クレアのお腹の中に消えていった。
「美味いのじゃ!」
「は、早いですね?!」
ドラゴンも負けじと羊肉を食べていたが、4分の1ほどでお腹いっぱいになった様子だった。
茉莉は少しずつ野菜を食べていた。
クレアとモーラが競うように肉や野菜を食べる。
アタシ自身はエルフなので、この辺りの生命にエネルギーを分けてもらえるから、食事は必要無いのだ。
茉莉は他の二人に比べると全くと言っていいほど食べていなかったが、満足した様子だった。
モーラも1割くらいは食べていたが、クレアは圧倒的な食欲で全体の8割程の料理を食べていた。
残りの1割は茉莉とドラゴンの2人分だ。
茉莉は多分標準的な量なのだろうが、2人を見ているととてもじゃないが食べたとは言えないくらいの量しか食べていなかった。
「ふぃ~…食ったのじゃ…」
食後のクレアの姿はいつ見ても異様な光景だ。
まるで巨大な肉の山が喋っているかのような姿に茉莉がドン引きしていた。
「食ったぜ…」
モーラもそれなりに食べた感のあるお腹になっていた。
『皆、すごい量食べるね。』
ドラゴンが若干引き気味に言う。
「私からしたら、ドラゴンさんも凄く食べているように感じますが…」
茉莉は苦笑しながら言う。
少なくともドラゴンでさえ、茉莉の倍は食べていた。
すると突然クレアが龍の姿へと変化していく。
「ぬおおおおお?!」
クレアも驚いた様子で身体が変化していた。
アタシ達は巻き込まれないように避難する。
すると、龍の姿となったクレアの身体から巨大な鱗が落ち始める。
「あれは…龍の進化…!」
茉莉が見とれた様子で言う。
ドゴオ!とか、ズガーン!とか様々な音が聞こえる中、茉莉はクレアの姿を見ていた。
不思議と茉莉の上から鱗が落ちてくる様子は無かった。
アタシ達がクレアの鱗を避けたり、砕いているうちにクレアの身体が輝く。
その瞬間に落ちてきた鱗は全て消滅した。
そして、龍の姿となったクレアは金色の鱗を纏っていた。
「おお?我、進化したのか?!」
クレアは驚いた様子で自分の身体を見回していた。
「光炎龍シャイニングフレア…溢れる火の力が光をも発する強力な力になった姿…」
茉莉はポツリと呟く。
クレアは「う~ん」と首を傾げていた。
「やっぱ、この姿よりもいつもの姿の方がしっくりくるのじゃ!」
クレアはそう言って人の姿へと戻る。
アタシ達もそれに合わせて、クレアの元に行く。
「な、なんじゃこりゃあ?!」
クレアの叫び声が聞こえる。
アタシはその姿を見て咄嗟にモーラの顔を隠した。
いつもの様に幼い少女みたいな見た目から、大人な姿へと変わっていたのだ。
もちろん、さっき龍になったせいで素裸のままだった。
アタシはモーラにアタシが良いって言うまで目を開けるなと言ってクレアに服を着させようとする。
さっきとは違って、背も120cm程から3mほどになっており、胸部も13歳くらいの子供なら軽く一人は入れそうなくらいの大きさになっているので、どれを出しても小さ過ぎて着れなさそうな服しかなかった。
「サリア…その…すまぬな…」
クレアは素裸のまま申し訳なさそうに頬を掻いている。
「仕方ないさ…アタシも龍人が進化するところなんて初めて見たからな…」
茉莉は冷静に言う。
「クレアさん、貴方の力はこれまでとは比にならないほど強くなっているはずです。貴方が望むのであれば、私の力で姿を元に戻して、80%ほどは力を抑える事もできますが、これからはその力を抑える事も必要になると思います。少なくとも、今の貴方が全力を出せば、貴方の身体ですら、蒸発させてしまう可能性があります。なので、5%ほどの力のみ使うようにしてください。おそらく、それくらいが今の貴方が出せる限界値です。それ以上は人としての姿は保てないと思ってください。」
クレアは少しだけ考えるように茉莉を見る。
「茉莉…お主の力を貸してくれ。我はなんだかんだとあの姿を気に入っておるのじゃ。じゃから、遠慮などせずにドーンとやってくれ!」
茉莉は静かに目を瞑って言う。
「わかりました…クレアさんのご要望に出来るだけお応えしましょう。」
眩い光が茉莉の身体から発せられる。
「私は龍の導き手…私は龍を制するもの…私は龍を護るもの…私は…」
クレアの姿が小さくなり始める。
「龍を封ずるもの!」
クレアの姿はこれまでよりは少し成長した、人で言う18歳ほどの姿にはなっていたが、先程と比べると背は170cmほど、胸部も大きな西瓜くらいとかなり小さな姿にはなっていた。
クレアはキョロキョロと自分の身体を見回す。
「う~む…さっきの様な姿にはならなかったが、まあいいじゃろう。茉莉のおかげでアリスの傍にも居れそうじゃ!」
「喜んでもらえたなら、提案したかいがありました…」
茉莉は少しだけ疲れた様子だった。
アタシは今度こそとクレアに着させる服を取り出す。
「胸の辺りが少し苦しいが、我はこう言う服も好きじゃな。」
大きめのメイド服を着て、クレアは満足そうに言う。
「それが小さいとなるともうオーダーメイドで作ってもらうしかねぇな…標準的な人のサイズだとそれが一番大きいからな。」
「むむ…茉莉、これよりも我を小さくは出来んのか?」
茉莉は首を横に振りながら言う。
「とてもじゃないけど、クレアさんの力が大き過ぎてこれ以上は無理…です…それでも85%ほどは抑えさせてもらってます…」
「じゃあ、仕方ないな。我が力を抑えるしかないか。」
それなりにクレアの姿が小さくなった。
とは言っても、進化前よりは確実に成長した姿にはなっているのだが…
胸部は先程に比べるとかなり薄くなっていたので、今度は胸の辺りが大きくなり過ぎたので、別の服をクレアに着させる。
大きめの丈のワンピースで様々なところに可愛らしいフリルがあしらわれている。
人で言う13歳くらいの見た目まで小さくなったクレアに言う。
「力の加減だけでこんなにも見た目が変わるなんてなぁ…龍人ってやつは不思議だな。」
「うむ。我もすっごく驚いておる。まさか、力の制御にこんな効果もあったなんてな。この自由な身体をアリスに自慢してやるのじゃ!」
クレアは悪魔のような笑みを浮かべながら、ご機嫌な調子でフリルのワンピースのスカートを揺らしている。
「高度な煽りですね…」
茉莉は呆れた様子で自分の胸を見ながら、ポツリと呟いた。
※2021/11/22に内容を少し修正しました※
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