愛しの令嬢の時巡り

紫月

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オマケ・過去からの贈り物

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「そういえばリュシエンヌ様はもうすぐ誕生日でしたが、レベッカ様の誕生日はいつなのですか?」
のどかな昼下がり、私はマリア様と並んでお茶を飲んでいる。
私は聖女としての力に目覚めたわけだが、力の使い方がよく分からなかった。
そこでマリア様が直々に病や怪我の治療の仕方を教えてくれることになったのだ。
訓練の合間に私達はプチ女子会をしていた。
「あぁ、偶然にも一緒なの。」
「え!」
「ふふっ、同じ日に生まれてくるなんて、面白い偶然もあるのね。」
「あと一週間しかないじゃないですか!
プレゼント、何がいいですか?
欲しいモノを教えてください!」
「そうだ、何が欲しいんだ?
宝石でもドレスでも、なんでも買ってあげるよ?」
あれ?
いつの間にかウィル様がいる。
「ダメじゃないですか!ウィルヘルム様。
レベッカ様はきっと遠慮するだろうから、私が聞き出す段取りだったのに企画倒れです!
ちゃんと隠れていてくださいよ。」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ!
こんなに早く誕生日がくるなんて想定外だ!」
あー……、そういや私、ウィル様におねだりとかしたことなかったかも。
「なんでも欲しいモノを言ってごらん?」
……そう言われても……。
ウィル様は私が王宮に住むにあたって、いろんなモノを用意してくれた。
勿論ドレスも宝石もだ。
正直唸るほどあるので、これ以上いらない。
それらのモノが国家予算から出ているのかと思いきや、ウィル様の私財なのだというからビックリだ。
真面目なウィル様は女性に貢ぐこともなかったので、貯めに貯めたお金をやっと私のために使えるのだと張り切りまくったのだ。
恐縮しないほうがどうかしてる。
あー、ナルホド、それでマリア様を投入したのか。
「うーん……考えておきます。」
多分いらないと言ってもウィル様は納得いかないだろう。
私が逆の立場なら、やはり何か贈らなければ気が済まないだろうし。

こうして私に難しい宿題ができたのだった。



この後はウィル様のお仕事のお手伝いをすることになっている。
ウィル様は乙女ゲームの攻略者に相応しく、真面目で優しくとてもカッコイイのだが、実はちょっとだけ字が下手なのだ。
私はそんなところも可愛いと思うのだけど、当の本人は気にしているらしい。
そんなわけで書類を作成するお手伝いを任されたのだ。
実際に仕事のお手伝いをするのは初めてだ。
ドキドキとウィル様の執務室に入室すると、ウィル様は優しく普段自分が使っているフカフカの椅子に座らせてくれた。
「すまないな、レベッカ。
汚い字で読みづらいと、いつもユーリに文句を言われるんだ。
貴女の綺麗な字ならアイツも文句を言わないだろう。」
「ふふっ、ウィル様のお役に立てるならお安い御用です。」
おおお!ここでいつも仕事をしているのね!
ウィル様の日常に触れることができて嬉しいな……。
おっと、感慨にひたってる場合じゃなかった!
お仕事お仕事!
するとチャーリーがやってきて、私の膝の上で遊び出す。
「あぁダメよ、チャーリー。
今からお仕事をするから、また後で遊んであげる。」
「ナァ?」
そういって膝からチャーリーを床に降ろすと、執務机の下の奥の方に箱が隠されるように置かれているのが見えた。
するとチャーリーはモゾモゾと箱を爪で引っ掻いて、箱の蓋を開けてしまった。
「あぁ、ダメよチャーリー!」
「どうしたんだ?」
慌てて箱の蓋を閉めようとしたら、中身のカードらしき物がパラパラと散らばってしまった。
なんだろうか?
「あっ!それは!!」
私が覗き込んでいる後ろでウィル様が焦っている。
私が片付けようと手にしたカードには、一言だけ短い文が綴られていた。
『会いたい』
「………これは?」
他のカードも手に取ると、やはり短い文が書かれている。
『元気にしてるかい?』
『会いたいな』
『足は痛まないか?』
たった一言だけのメッセージカード。
癖のある右肩上がりのウィル様の字。
「そ、その………。
字が汚い上に、気の利いた言葉が何も思いつかなかったんだ……。」
メッセージカードは箱一杯に入っていて、その全てに『愛するリュシーへ』と書かれている。
不器用な一言だけのカード。
けれど貴方の愛が沢山詰まっている。
多分ウィル様は、会えなかった一年間毎日私に書いてくれたのだ。
だって、こんなに沢山のカードが入っている……。
嬉しさに胸が一杯になった。
会えなかった一年、ウィル様もずっと私を想ってくれていたのだ。
嬉しくないわけがない。
「何故……これを私に送ってくれなかったのですか?」
「だ、だって、貴女が喜ぶようなこと、何も書けなかったから………。」
「……ウィル様の……バカ……。」
こんな素敵なモノ、ずっと隠しておくなんて酷い人だ……。
私はウィル様に抱きついた。
涙が溢れてしまった顔を隠したい私の、苦肉の策だ。
「お、怒ったのか?
すまない、許してくれ……。」
そういいながらもウィル様は私を抱きしめ返してくれる。
「ウィル様、今度の誕生日、欲しいモノをくれるのですよね?
私、このカードが欲しいです。」
「えっ?こんなモノでいいのか?」
「これが欲しいんです。」
私の予想では365枚はあるだろう。
目を通しながら是非数えてみたい。
ニヤニヤと悪役顔でおねだりをする私は、側から見たら恐喝の現行犯に見えるだろう。
でもちゃんと分かっている。
ウィル様はきっとこう言う。
「そんな可愛い顔でおねだりされたら、嫌とは言えないなぁ……。」
ふふっ、予想通り!
上機嫌で私は戦利品を抱き寄せる。
ウィル様はそんな私を複雑そうな顔で眺めている。
「そうだな……俺が馬鹿だった……。
貴女がそんなに喜ぶなら、毎日貴女に送るんだった……。」
間違えた過去はもう帰ってこない。
けれど、私達は幸運にも神様からやり直せるチャンスを貰った。
このメッセージカードが私に届くまで随分と時間はかかってしまったが、やっと受け取ることができたのだ。
こんな予想外の素敵なプレゼントを発掘できるなんて、なかなか人生は捨てたもんじゃない。
「チャーリー、お手柄よ!
ありがとう!」
「ナーオ。」
嬉しくてチャーリーにキスをすると、すかさずウィル様が羨ましがる。
「あ!レベッカ、俺にも!」
予定していた仕事をそっちのけにして私達はイチャつきあう。
普段ウィル様はとても真面目に仕事をなさるのだ。
ちょっとくらい不真面目でも許されるだろう。
「あー……早くレベッカが大人にならないかなぁ……。」
チュッチュ、チュッチュとキスを落としながら、ウィル様が不穏なことを口にした。
お、お願いです、お尻を撫でないでください……。


こんな幸せな日々がずっと続いていくよう、私はそっと神様にお願いしたのだった。
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