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第一章 チュートリアル
平川のノート『歴史』⑧
しおりを挟むペコサ人は元々は騎馬民族であり、海にはあまり強くはない。それでも船の数と兵士で数でゴリ押しすれば、もしかしたらネホヌ諸島の『スゼラ島』に上陸できたかもしれない。
だが、彼らが今回相手しなければならないのはカムル人だけではなかった。ペコサ人の船団を確認するやカムル人はヌエニ人に救援を求めた。
ヌエニ人はこれを了承して、『コカラ島』の全軍を集めて『スゼラ島』の南の沖で一戦交えた。
後世の歴史学者は口を揃えてこう言う。
「あれは戦いなどとは呼べない」と。
作戦も何もない。ヌエニ人は真正面から相手を蹂躙して、ペコサ人の軍勢を殲滅した。なお、ここで言う『殲滅』とは八割の戦士が死ぬことを指す。
一部の者は辛うじて木の板にしがみついて溺れ死ななかったが、殆どのペコサ人の戦士は海に溺れて死んでしまった。
それくらい彼らは海には慣れておらず、陸軍に特化している。ムヤ人も騎馬民族ではあるが、あれはまだ海軍と呼べる。ペコサ人のそれは海軍とは呼べない。
ここでこの世界の『戦士』と『兵士』の違いについて説明する。俗な言い方をすれば、戦士は貴族出身で、戦士は平民出身であると思って問題ない。
戦士は基本的には指揮官を担当して、兵士はそれに従う立場にある。
ペコサ人の戦士階級は全滅寸前だが、兵士はそれなりには生き残ったのである。彼らを捕虜にするなり、他の民族は奴隷にでもして労働させればいいかもしれないが、ヌエニ人には奴隷文化がない。
ここで彼らの社会の仕組みについて少しだけ触れる。これ以上詳しいことはクラテー殿が「それ程重要なことではありません」と教えてくれなかった。
ヌエニ人はフェス二人、ムヤ人、ペコサ人と違って、シャカラ人と似た絶対君主制である。
いつからそうなったのかははっきりとはわかっていない。『荒獣』との戦いに明け暮れているうちに、文字などの文化も廃れてしまったからだ。
しかし、口伝などの情報を集めた結果。現代の歴史学者が上げている最有力説をここに記す。
最初は指揮系統の一元化を計って最高指揮官を選んだだけなのだろう、彼らにとって、『荒獣』との戦いに勝たなければ死ぬしかないのだ。
それが次第に他の分野でも力が及ぶようになった、これは他の民族に通ずることである。武力を掌握する者は他の分野にも発言権があったり、力が強かったりする。
それがいつのまにか全分野に及べば『支配者』という概念が生まれる。『統治者』という概念を生み出したのは『黎明王バナルーグ』だが、それ以前に既に似たような存在がヌエニ人に君臨している。
その結果、ヌエニ人には絶対なる支配者という概念が存在するが、それ以外は漠然としている。
後世の歴史学者も、昔の一般ヌエニ人を『市民』と呼ぶのか、『戦士』と呼ぶのか、『兵士』と呼ぶのかかなり揉めた。
その中には、一般ヌエニ人は権利が保証されていないのだから、『奴隷』と訳してもいいのではないかと提唱する者もいる。
昔のヌエニ人は今では想像できないが、財産の所有権から、果てには生存権さえ保障されていなかった。
その訳は『荒獣』被害でいつでもどこでも死ぬ可能性があるから、それを保障することはできないという、ヌエニ人のバカ正直の面が反映したからだとも言われている。
話を戻すが、ヌエニ人とカムル人対ペコサ人の海戦は前者の圧勝にて終わった。
続きは次回の授業のノートに記す。
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