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11.婚活
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「じゃあ、よろしくお願いします……」
咲良は娘を水瀬家へと預けた。
「さぁちゃ!あそぼ!」
「ちゅちゅぃちゃ。しゃぁたん、えほんよむ」
そう主張しながらも、咲凪はつつじに手を引かれて入っていく。
その背中を見送っていると、
「仕事なんでしょ?頑張って」
と百合から声をかけられた。
本当のことは言えなかった。
「お願いします」
深々と頭を下げ、水瀬家を後にした。
一度家に帰り、綺麗めのワンピースに着替えて再び出かける。
行先は、電車で数駅先にあるイベントホール。
電車に揺られている間も、頭から離れないのは咲凪のこと。
いい子にしているだろうか。
泣いていないだろうか。
百合を信頼していないわけではないが、心配は尽きない。
なんとか振り切るように電車を降り、会場にたどり着いた。
「今日の参加者の方ですね」
感じのいい女性スタッフに声を掛けられる。
「お名前をお聞きしてよろしいでしょうか」
「佐山咲良です」
「身分を確認できるものをお願いします」
事務的な手続きの後、1枚のカードが渡された。
「こちらはプロフィールカードになります。お話する方と交換するものになりますので、記入できるところを記入して、お待ちください」
紙とペンなど一式を受け取ると、
「では、お手持ちの番号札に書かれてある番号の席に着いてお待ちください」
と会場の中へ通された。
言われた通り席に座り、プロフィールカードを記入する。
名前や年齢、家族構成に、趣味や特技。
基本的なことたちだ。
特別隠すこともないと、正直に書いていく。
それでも頭の片隅からは置いてきた娘のことが離れない。
やがて会が始まり、咲良の前の椅子に男性が座った。
「失礼します」
軽く一礼して椅子に座る男性を、咲良は見つめる。
いい父親になってくれそうか。
条件はそれだけだ。
「立石龍斗です」
「佐山咲良です」
お互いに自己紹介をし、書いたカードを交換する。
「お子さん、いらっしゃるんですか?」
「はい」
「息子さん?」
「いえ、娘です」
緊張すると口数が少なくなるタイプの咲良から、彼は上手に言葉を引き出していく。
「何歳なんですか?」
「来年の3月で4歳になります」
「じゃあかわいい盛りですね」
かわいいと言ってくれた。
「子ども、好きですか?」
今度は咲良の方から聞いてみた。
「はい。甥と姪が1人ずついるんですけど、かわいくて仕方ないです」
立石とは、子どもの話ばかりで終わってしまった。
しかし、そのおかげで咲良の緊張はいくらか解れた。
「どうも~」
次は若い男性。おそらく咲良と同じくらいか少し下くらい。
「鵜池健吾です~」
「佐山咲良です」
再びプロフィールカードを交換してお互いのプロフィールを確認する。
「珍しい名前っしょ?」
「あ、はい」
「鵜って知ってる?鳥」
「名前だけ」
こちらは子どもの話にはならない。
「咲良さんって綺麗な名前だよね」
「ありがとうございます」
子どもはあまり好きではないのだろうか。
咲良の不安を煽り、あまり話に身が入らなかった。
そうやって参加している男性全員と話をし、フリータイムへと移る。
お茶やジュースなどの飲み物が用意され、紙コップを片手に自由に話せる時間だ。
「佐山さん」
お茶を注いでいた咲良の元に近づいてきたのは、最初に話した立石龍斗だった。
「もうちょっと話したいと思って」
「ありがとうございます」
少し歩きながら話すことにする。
「お仕事って何されてるんですか?」
「事務です。立石さんは……確か、看護師さん……?」
「あ、覚えてくださってるんですね」
話した内容とは全く違うが、プロフィールカードに書かれている内容には一通り目を通した。
「医者じゃないのってよく言われるんですよ」
「お医者さんもすごいですけど、看護師さんもすごいお仕事ですよね」
そう話していると、
「え、なになに?お仕事の話?」
そこに入ってきたのは、鵜池健吾だった。
「オレの仕事、保育士~」
「保育士さんだったんですか」
「そーそ」
先ほどはあまりいい印象を持たなかった咲良も、それを聞くだけで良く見えてしまう。
人間とはなんとも単純なものだ。
一通りの日程を終え、好みの男性を選ぶ時がきた。
咲良は2人で悩む。
子どもが好きだと自称する立石龍斗もいいが、職業が保育士だという鵜池健吾も捨てがたい。
どちらを選べばいいのか。
どちらが咲凪は気に入ってくれるのか。
迷いながらペンを走らせた。
「それでは、カップル発表といきます!」
司会の声が盛り上がる。
「最初のカップルはー……」
そんな盛り上がりの中で、咲良もドキドキと胸を高鳴らせる。
上手くいくだろうか。
ここで終わりではない。この先がある。
咲凪に認めてもらえるかどうか。
咲良にとっては、そこが最も大切なところなのだ。
「立石龍斗さん、佐山咲良さん」
「……!」
反射的に立ち上がった。
視線の先で、同時に名前を呼ばれた立石も、気恥ずかしそうに立ち上がる。
「おめでとうございます!」
無事にカップル成立となった。
「連絡先、交換してもいいですか?」
帰り際、立石に声を掛けられる。
咲良は快く交換し、その日は帰途に就いた。
咲良は娘を水瀬家へと預けた。
「さぁちゃ!あそぼ!」
「ちゅちゅぃちゃ。しゃぁたん、えほんよむ」
そう主張しながらも、咲凪はつつじに手を引かれて入っていく。
その背中を見送っていると、
「仕事なんでしょ?頑張って」
と百合から声をかけられた。
本当のことは言えなかった。
「お願いします」
深々と頭を下げ、水瀬家を後にした。
一度家に帰り、綺麗めのワンピースに着替えて再び出かける。
行先は、電車で数駅先にあるイベントホール。
電車に揺られている間も、頭から離れないのは咲凪のこと。
いい子にしているだろうか。
泣いていないだろうか。
百合を信頼していないわけではないが、心配は尽きない。
なんとか振り切るように電車を降り、会場にたどり着いた。
「今日の参加者の方ですね」
感じのいい女性スタッフに声を掛けられる。
「お名前をお聞きしてよろしいでしょうか」
「佐山咲良です」
「身分を確認できるものをお願いします」
事務的な手続きの後、1枚のカードが渡された。
「こちらはプロフィールカードになります。お話する方と交換するものになりますので、記入できるところを記入して、お待ちください」
紙とペンなど一式を受け取ると、
「では、お手持ちの番号札に書かれてある番号の席に着いてお待ちください」
と会場の中へ通された。
言われた通り席に座り、プロフィールカードを記入する。
名前や年齢、家族構成に、趣味や特技。
基本的なことたちだ。
特別隠すこともないと、正直に書いていく。
それでも頭の片隅からは置いてきた娘のことが離れない。
やがて会が始まり、咲良の前の椅子に男性が座った。
「失礼します」
軽く一礼して椅子に座る男性を、咲良は見つめる。
いい父親になってくれそうか。
条件はそれだけだ。
「立石龍斗です」
「佐山咲良です」
お互いに自己紹介をし、書いたカードを交換する。
「お子さん、いらっしゃるんですか?」
「はい」
「息子さん?」
「いえ、娘です」
緊張すると口数が少なくなるタイプの咲良から、彼は上手に言葉を引き出していく。
「何歳なんですか?」
「来年の3月で4歳になります」
「じゃあかわいい盛りですね」
かわいいと言ってくれた。
「子ども、好きですか?」
今度は咲良の方から聞いてみた。
「はい。甥と姪が1人ずついるんですけど、かわいくて仕方ないです」
立石とは、子どもの話ばかりで終わってしまった。
しかし、そのおかげで咲良の緊張はいくらか解れた。
「どうも~」
次は若い男性。おそらく咲良と同じくらいか少し下くらい。
「鵜池健吾です~」
「佐山咲良です」
再びプロフィールカードを交換してお互いのプロフィールを確認する。
「珍しい名前っしょ?」
「あ、はい」
「鵜って知ってる?鳥」
「名前だけ」
こちらは子どもの話にはならない。
「咲良さんって綺麗な名前だよね」
「ありがとうございます」
子どもはあまり好きではないのだろうか。
咲良の不安を煽り、あまり話に身が入らなかった。
そうやって参加している男性全員と話をし、フリータイムへと移る。
お茶やジュースなどの飲み物が用意され、紙コップを片手に自由に話せる時間だ。
「佐山さん」
お茶を注いでいた咲良の元に近づいてきたのは、最初に話した立石龍斗だった。
「もうちょっと話したいと思って」
「ありがとうございます」
少し歩きながら話すことにする。
「お仕事って何されてるんですか?」
「事務です。立石さんは……確か、看護師さん……?」
「あ、覚えてくださってるんですね」
話した内容とは全く違うが、プロフィールカードに書かれている内容には一通り目を通した。
「医者じゃないのってよく言われるんですよ」
「お医者さんもすごいですけど、看護師さんもすごいお仕事ですよね」
そう話していると、
「え、なになに?お仕事の話?」
そこに入ってきたのは、鵜池健吾だった。
「オレの仕事、保育士~」
「保育士さんだったんですか」
「そーそ」
先ほどはあまりいい印象を持たなかった咲良も、それを聞くだけで良く見えてしまう。
人間とはなんとも単純なものだ。
一通りの日程を終え、好みの男性を選ぶ時がきた。
咲良は2人で悩む。
子どもが好きだと自称する立石龍斗もいいが、職業が保育士だという鵜池健吾も捨てがたい。
どちらを選べばいいのか。
どちらが咲凪は気に入ってくれるのか。
迷いながらペンを走らせた。
「それでは、カップル発表といきます!」
司会の声が盛り上がる。
「最初のカップルはー……」
そんな盛り上がりの中で、咲良もドキドキと胸を高鳴らせる。
上手くいくだろうか。
ここで終わりではない。この先がある。
咲凪に認めてもらえるかどうか。
咲良にとっては、そこが最も大切なところなのだ。
「立石龍斗さん、佐山咲良さん」
「……!」
反射的に立ち上がった。
視線の先で、同時に名前を呼ばれた立石も、気恥ずかしそうに立ち上がる。
「おめでとうございます!」
無事にカップル成立となった。
「連絡先、交換してもいいですか?」
帰り際、立石に声を掛けられる。
咲良は快く交換し、その日は帰途に就いた。
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