上 下
6 / 247

5.

しおりを挟む
「まあ、そりゃ~相手には困ってないけどな」

笑いながら長門さんは答える。
私はその様子にちょっとイラっとしてしまう。

「そうですか。では私は帰りますので、どなたかお呼びいただいていいですよ?」

飲み干したグラスを机に置くと、私は立ち上がる。
笑ったまま長門さんは私を見上げて言う。

「ほんとお前、可愛げないな」

これが漫画だったら、私の頭にはくっきり怒りマークが入っているところだ。

「えぇ。可愛げなくて結構です。どうせ私はそう言って結婚を考えていた人に30の時振られたんで。今ではすっかりそれも板につきましたから」

淡々と、そして作り笑顔で私がそう言うと、長門さんは目を丸くしていた。

「面白いな、お前」

そりゃ、あなたにとっちゃこんな女は珍しいでしょうとも!

心の中には嵐が吹き荒れているが、それを見せずにより笑顔を作る。

「はいはい。では失礼します」

そう言って長門さんの前を通り過ぎようとした瞬間、腕を掴まれ強く引かれる。

「ちょっとっ!」

驚いて声を荒げるが、反対に背後から囁くように声が聞こえた。

「やっぱり帰さない」

私は後ろからすっぽりと抱えられたまま、簡単に側のベッドに引き摺り込まれた。

両手首を掴まれ、所謂組み敷かれた状態でベッドの上に倒れこむ。
身長差25センチ。流石にびくともしない。私は睨みつけるように長門さんに視線を送る。

「そう怖い顔すんなって」

そう言って口角を上げたまま、顔を近づけてくる。
キスされる⁈と思わず私が顔を背けたのを、気にする様子もなくそのまま耳に唇を寄せた。

「ストレス発散するんだろ?」

唇が耳に触れられたまま囁かれ、背筋にゾクっと電流が走る。

「だから……知ってる人とは……しません……」

顔を背けたままそう答えるあいだ、長門さんは私の耳を唇で撫でる。

「んっ……」
「何?感じてんの?」
「これは……その……」

否定しようとしているのに、耳をなぞる様に舌が這い反応してしまう。

「んっっ!ちょ……っと待って」

その行為から逃れようと、つい上を向いた私の唇に、今度は舌が這う。

「俺達は今日始めてバーで知り合った他人同士。って設定はどう?」

唇が触れるか触れないかのギリギリのところで、長門さんはそう言う。
熱い吐息だけが私に流れ込み、焦らされた体にその熱が移されるような気分になる。

「設定って!」

そう言い返すだけでお互い唇が軽く触れ、より焦らされている感覚だ。

分かっている。主導権を握られてしまっている事は。
すっかり男を求めて熱くなっている体に、理性などほとんど残ってはいない。

「瑤子。ほら、俺の名前は?」

囁かれながら唇を舌が這う。

「んっ……っ」

されるがまま、自分の体を電流が流れるのが止められない。

「ほら、呼べよ。瑤子……」

そう言われ、最後の理性も吹き飛ぶ。

「……つ、かさ……」

吐息と共にその名を呼ぶと、すぐさま深く唇が重ねられた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

好きになって貰う努力、やめました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,593pt お気に入り:2,186

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,700pt お気に入り:2,474

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,764pt お気に入り:3,807

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:16,656pt お気に入り:3,110

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:371

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:18,894pt お気に入り:1,963

暁の騎士と宵闇の賢者

BL / 連載中 24h.ポイント:9,266pt お気に入り:353

処理中です...