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第十話・矛盾

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「マリア様、貴方が一番最近里帰りしたのはいつ?」
「えっと……3日前、ですかね?」

わざとらしくビクビクしながら甘い声を出すマリアは陸で跳ねる魚のようで面白かった。

「なるほど。ちなみにどこで、どのように、何を配布したのか教えていただけますか?」
「え……場所は、その、色んなところを回って知ってる人たちに声かけながら、食べ物とお洋服を……」
「食べ物は、例えばどんな?」
「パンとか、お菓子とかです!みんな夢中になって食べてました」
「そうですか……。ちなみに4日前、私もとある準備でちょうどその街を訪れていたんです。3日前に訪れたマリアさんなら、分かりますよね?どうでしたか?」
「え?どうって……」
「皆さん張り切って準備をしていましたから」
「え。あ、あの、」
「まさか、覚えていないとでも?そんなはずはないですよね。故郷の方々が張り切って準備してくれたんですもの。存分に楽しめたでしょう?」

マリアは冷や汗を流しながら、ルリアが「楽しめた」と言う単語を使ったことに歓喜した。おそらく、小さなお祭りが何かが行われていたのだろう。

「は、はい。とても楽しかったです。」
「へえ。火を模した飾り付けは見ましたか?」
「ええ。もちろんです!迫力があって、華やかでした」
「屋台には立ち寄りましたか?」
「はい!すごく美味しかったです」

マリアは必死になって話を合わせているため、気づかなかったが、この会話にノーゼルは怪訝な顔をした。故郷にはお祭りなんて習慣はなかったし、マリアの話から聞いた街の様子では、到底屋台なんかを出せる活気も財力もあるはずない。それなのに、食べ物を配りに行ったと言うその口で「屋台の食べ物が美味しかった」なんて、いくらなんでもおかしいのでは、と疑問に思い始めたのだ。
しかし、それはすぐに罪悪感に変わり、(そんなわけない。マリアは優しい子だ。祭りは本当にたまたま開催されたんだ)と思い直し、ノーゼルは微かな違和感を無視した。

「あの日は晴れでしたから。賑わっていたでしょう」
「ええ。太陽が眩しくて、とても気持ちの良い日でした」
「果実水などもありましたが、飲みまして?」
「もちろんです。たくさん飲みました」

ルリアはその答えににこ、と微笑んだ。あまりにも可愛く笑うものだから、同性のマリアも少し見惚れて、言葉が止まる。

「ちなみに、今のは全部嘘ですわ」
「……え?」
「3日前は雨でしたし、お祭りなんて開催されていませんし、屋台も飾りも当然ありません。マリア様のお口から自然にエピソードを引き出そうと思って、全く見当違いのことを言ってみたんですけれど……」


マリア様、貴方は一体どこに行ってらっしゃったのですか?
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