運命と運命の人

なこ

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第5章

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玉座の元、カイゼルと辺境の騎士たちは、いつものように臣下の礼を取り、カイゼルはいつものように口上を述べあげた。

王からはいつものように、辺境の様子を問いただされ、カイゼルが現状について報告をする。

辺境の地は、国境を支える砦である。その地を任せられるほど、王は年の離れた異母弟であるカイゼルを信頼している。

謁見が終わると、カイゼルは王の私的な部屋へと呼び出される。これも、いつものことだ。

この私的な空間へ入室を許可されているのは、王の王配とカイゼルの2人だけだ。

座るように命じられ、カイゼルは王の向かいの席へと腰を下ろした。

「今回は、2を連れてこなかったのだな。」

「任せている任務がありましたので。」

王が好む、苦味の効いた紅茶の香りが、部屋中に漂っている。

「酒ではないがな。お前も飲め。」

渋みと苦味の強さに、カイゼルは少しだけ顔を歪める。

「そのような顔をするな。慣れると癖になるぞ。」

王はニヤリと笑うと、話しを続けた。

「あの2人が来ぬと、つまらんな。特に、あれは、マリウスの事を気に掛けておる。」

王の王配は、「孕み子」だ。かつて、の事を、王配はたいそう可愛がっていた。

リヒトとマリは、以前、カイゼルと共に、この王都の騎士団に所属していた。

それより前から、マリの「孕み子」としての機能と記憶は失われている。

マリウスは、ただのマリだ。

カイゼルはそれで良いと思っている。

黙りこくるカイゼルに、王は気にする様子もなく、話しを続ける。

「今日は、この後、興味深い2人を呼びつけておる。

『運命の番』たちだ。教会に認められた、正真正銘の者たちだぞ。

久しぶりの事だからな。祝いの言葉をかけてやらねばならん。

お前も立ち会うか?」

「結構です。この後、すぐに戻りますので。」

「そうか、仕方ないな。

……そう言えば、『運命の番』のせいで、リシュリー侯爵子息の婚姻が、破談となってな。

あれは、その子のことも、大層気に入って目をかけておった。

今頃、どうしているのだろうな。」

王は手にした紅茶を飲み干すと、カイゼルを見て、またニヤリと笑った。

「…そろそろ時間かと。わたしは、これで失礼いたします。」

「ああ、そうだな。そろそろやって来る頃だろう。」

カイゼルが部屋を立ち去ろうとした時、王はそれを呼び止めた。

「カイゼルよ。お前もそろそろ、次を娶れ。」

「もう誰をも娶るつもりはありません。」

今度こそ、カイゼルは部屋を出て行った。

兄王には、全てのことがお見通しだ。



回廊を歩くカイゼルの前方に、謁見の間へと向かう2人の人物が見える。

背の高い方の者がカイゼルに気がつくと、もう1人をそっと促し、2人は王族への臣下の礼を取り、傍へと控えた。

通り過ぎる際、カイゼルは一瞬だけその2人に目を遣ったが、何も言う事なく、その場を通り過ぎた。



辺境を立つ朝、見送りに来たユアンは、少しだけ、不安気に見えた。

マリとリヒトを残して行くのだから、心配することは何もないと言うと、大丈夫ですと、静かに微笑んでいた。

カイゼルの姿が見えなくなるまで、見えなくなっても、暫くの間ずっと見送り続けていたユアンの姿をカイゼルは知らない。



その夜、王都を立ち、いつも利用する宿に到着すると、カイゼルは身を休めた。

ユアンが辺境へ来るきっかけとなった、例の2人の姿を思い出す。

ユアンは、あの男のことを愛していたのだな。

あれだけ声を上げて泣いていたのだ。

まだ、愛しているに違いない。

愛する者を失うということは、よほど辛いことなのか。

カイゼルには、という感覚がわからない。

これまで生きてきて、「愛している」と言ったことも、言われたことも一度もない。

愛する気持ちも、愛される気持ちも、カイゼルには、わからない。

自分以外の者たちには、皆、分かるのだろうか。

唯一分かるのは、「愛されていない」という実感だけだ。

あんな幼子のようなユアンでさえも、「愛する」気持ちを知っているのかと、カイゼルは、複雑な気持ちになる。

あの男は、ユアンのことを愛していたのではないのか?

『運命の番』に出会い、ユアンへの気持ちは全くなくなってしまったのだろうか。

考えれば考える程、カイゼルにはますます分からなくなる。

1人とり残されたユアンは、今どのような気持ちで毎日を過ごしているのだろうか。

見送りに来ていたユアンの不安げな様子を思い浮かべ、できるだけ早く辺境に戻ろうと、カイゼルは静かに目を閉じた。














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