44 / 113
第5章
4
しおりを挟む
玉座の元、カイゼルと辺境の騎士たちは、いつものように臣下の礼を取り、カイゼルはいつものように口上を述べあげた。
王からはいつものように、辺境の様子を問いただされ、カイゼルが現状について報告をする。
辺境の地は、国境を支える砦である。その地を任せられるほど、王は年の離れた異母弟であるカイゼルを信頼している。
謁見が終わると、カイゼルは王の私的な部屋へと呼び出される。これも、いつものことだ。
この私的な空間へ入室を許可されているのは、王の王配とカイゼルの2人だけだ。
座るように命じられ、カイゼルは王の向かいの席へと腰を下ろした。
「今回は、あの2人を連れてこなかったのだな。」
「任せている任務がありましたので。」
王が好む、苦味の効いた紅茶の香りが、部屋中に漂っている。
「酒ではないがな。お前も飲め。」
渋みと苦味の強さに、カイゼルは少しだけ顔を歪める。
「そのような顔をするな。慣れると癖になるぞ。」
王はニヤリと笑うと、話しを続けた。
「あの2人が来ぬと、つまらんな。特に、あれは、マリウスの事を気に掛けておる。」
王の王配は、「孕み子」だ。かつて、「孕み子」であったマリウスの事を、王配はたいそう可愛がっていた。
リヒトとマリは、以前、カイゼルと共に、この王都の騎士団に所属していた。
それより前から、マリの「孕み子」としての機能と記憶は失われている。
マリウスは、ただのマリだ。
カイゼルはそれで良いと思っている。
黙りこくるカイゼルに、王は気にする様子もなく、話しを続ける。
「今日は、この後、興味深い2人を呼びつけておる。
『運命の番』たちだ。教会に認められた、正真正銘の者たちだぞ。
久しぶりの事だからな。祝いの言葉をかけてやらねばならん。
お前も立ち会うか?」
「結構です。この後、すぐに戻りますので。」
「そうか、仕方ないな。
……そう言えば、『運命の番』のせいで、リシュリー侯爵子息の婚姻が、破談となってな。
あれは、その子のことも、大層気に入って目をかけておった。
今頃、どうしているのだろうな。」
王は手にした紅茶を飲み干すと、カイゼルを見て、またニヤリと笑った。
「…そろそろ時間かと。わたしは、これで失礼いたします。」
「ああ、そうだな。そろそろやって来る頃だろう。」
カイゼルが部屋を立ち去ろうとした時、王はそれを呼び止めた。
「カイゼルよ。お前もそろそろ、次を娶れ。」
「もう誰をも娶るつもりはありません。」
今度こそ、カイゼルは部屋を出て行った。
兄王には、全てのことがお見通しだ。
回廊を歩くカイゼルの前方に、謁見の間へと向かう2人の人物が見える。
背の高い方の者がカイゼルに気がつくと、もう1人をそっと促し、2人は王族への臣下の礼を取り、傍へと控えた。
通り過ぎる際、カイゼルは一瞬だけその2人に目を遣ったが、何も言う事なく、その場を通り過ぎた。
辺境を立つ朝、見送りに来たユアンは、少しだけ、不安気に見えた。
マリとリヒトを残して行くのだから、心配することは何もないと言うと、大丈夫ですと、静かに微笑んでいた。
カイゼルの姿が見えなくなるまで、見えなくなっても、暫くの間ずっと見送り続けていたユアンの姿をカイゼルは知らない。
その夜、王都を立ち、いつも利用する宿に到着すると、カイゼルは身を休めた。
ユアンが辺境へ来るきっかけとなった、例の2人の姿を思い出す。
ユアンは、あの男のことを愛していたのだな。
あれだけ声を上げて泣いていたのだ。
まだ、愛しているに違いない。
愛する者を失うということは、よほど辛いことなのか。
カイゼルには、愛するという感覚がわからない。
これまで生きてきて、「愛している」と言ったことも、言われたことも一度もない。
愛する気持ちも、愛される気持ちも、カイゼルには、わからない。
自分以外の者たちには、皆、分かるのだろうか。
唯一分かるのは、「愛されていない」という実感だけだ。
あんな幼子のようなユアンでさえも、「愛する」気持ちを知っているのかと、カイゼルは、複雑な気持ちになる。
あの男は、ユアンのことを愛していたのではないのか?
『運命の番』に出会い、ユアンへの気持ちは全くなくなってしまったのだろうか。
考えれば考える程、カイゼルにはますます分からなくなる。
1人とり残されたユアンは、今どのような気持ちで毎日を過ごしているのだろうか。
見送りに来ていたユアンの不安げな様子を思い浮かべ、できるだけ早く辺境に戻ろうと、カイゼルは静かに目を閉じた。
王からはいつものように、辺境の様子を問いただされ、カイゼルが現状について報告をする。
辺境の地は、国境を支える砦である。その地を任せられるほど、王は年の離れた異母弟であるカイゼルを信頼している。
謁見が終わると、カイゼルは王の私的な部屋へと呼び出される。これも、いつものことだ。
この私的な空間へ入室を許可されているのは、王の王配とカイゼルの2人だけだ。
座るように命じられ、カイゼルは王の向かいの席へと腰を下ろした。
「今回は、あの2人を連れてこなかったのだな。」
「任せている任務がありましたので。」
王が好む、苦味の効いた紅茶の香りが、部屋中に漂っている。
「酒ではないがな。お前も飲め。」
渋みと苦味の強さに、カイゼルは少しだけ顔を歪める。
「そのような顔をするな。慣れると癖になるぞ。」
王はニヤリと笑うと、話しを続けた。
「あの2人が来ぬと、つまらんな。特に、あれは、マリウスの事を気に掛けておる。」
王の王配は、「孕み子」だ。かつて、「孕み子」であったマリウスの事を、王配はたいそう可愛がっていた。
リヒトとマリは、以前、カイゼルと共に、この王都の騎士団に所属していた。
それより前から、マリの「孕み子」としての機能と記憶は失われている。
マリウスは、ただのマリだ。
カイゼルはそれで良いと思っている。
黙りこくるカイゼルに、王は気にする様子もなく、話しを続ける。
「今日は、この後、興味深い2人を呼びつけておる。
『運命の番』たちだ。教会に認められた、正真正銘の者たちだぞ。
久しぶりの事だからな。祝いの言葉をかけてやらねばならん。
お前も立ち会うか?」
「結構です。この後、すぐに戻りますので。」
「そうか、仕方ないな。
……そう言えば、『運命の番』のせいで、リシュリー侯爵子息の婚姻が、破談となってな。
あれは、その子のことも、大層気に入って目をかけておった。
今頃、どうしているのだろうな。」
王は手にした紅茶を飲み干すと、カイゼルを見て、またニヤリと笑った。
「…そろそろ時間かと。わたしは、これで失礼いたします。」
「ああ、そうだな。そろそろやって来る頃だろう。」
カイゼルが部屋を立ち去ろうとした時、王はそれを呼び止めた。
「カイゼルよ。お前もそろそろ、次を娶れ。」
「もう誰をも娶るつもりはありません。」
今度こそ、カイゼルは部屋を出て行った。
兄王には、全てのことがお見通しだ。
回廊を歩くカイゼルの前方に、謁見の間へと向かう2人の人物が見える。
背の高い方の者がカイゼルに気がつくと、もう1人をそっと促し、2人は王族への臣下の礼を取り、傍へと控えた。
通り過ぎる際、カイゼルは一瞬だけその2人に目を遣ったが、何も言う事なく、その場を通り過ぎた。
辺境を立つ朝、見送りに来たユアンは、少しだけ、不安気に見えた。
マリとリヒトを残して行くのだから、心配することは何もないと言うと、大丈夫ですと、静かに微笑んでいた。
カイゼルの姿が見えなくなるまで、見えなくなっても、暫くの間ずっと見送り続けていたユアンの姿をカイゼルは知らない。
その夜、王都を立ち、いつも利用する宿に到着すると、カイゼルは身を休めた。
ユアンが辺境へ来るきっかけとなった、例の2人の姿を思い出す。
ユアンは、あの男のことを愛していたのだな。
あれだけ声を上げて泣いていたのだ。
まだ、愛しているに違いない。
愛する者を失うということは、よほど辛いことなのか。
カイゼルには、愛するという感覚がわからない。
これまで生きてきて、「愛している」と言ったことも、言われたことも一度もない。
愛する気持ちも、愛される気持ちも、カイゼルには、わからない。
自分以外の者たちには、皆、分かるのだろうか。
唯一分かるのは、「愛されていない」という実感だけだ。
あんな幼子のようなユアンでさえも、「愛する」気持ちを知っているのかと、カイゼルは、複雑な気持ちになる。
あの男は、ユアンのことを愛していたのではないのか?
『運命の番』に出会い、ユアンへの気持ちは全くなくなってしまったのだろうか。
考えれば考える程、カイゼルにはますます分からなくなる。
1人とり残されたユアンは、今どのような気持ちで毎日を過ごしているのだろうか。
見送りに来ていたユアンの不安げな様子を思い浮かべ、できるだけ早く辺境に戻ろうと、カイゼルは静かに目を閉じた。
52
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる